6 / 110
第一章 予想外の婚約破棄
第6話 ミククラーネ皇国の魔術院
しおりを挟むカチカチと可愛らしい音の金属が室内に響く。
部屋の中は左右の壁に一面の棚が配置されており、玩具のような色形の魔道具が雑然と並び置かれている。
机の上にあるのは時計。これに魔力を乗せて自分で設定した時間に音を出す仕掛けをしているところだ。
既にその作業は完成していて、リヴィアが悩んでいるのはどんな音にするかである。
ここは魔術院────翡翠の塔の一角。リヴィアの通う研究室のある場所だ。
ここミククラーネ皇国には、大昔に魔術を駆使し、大戦を収めたことから大きく発展した経緯がある。
その名残から魔術師を研究する機関を創設。国家運営の一助を担っている。
だが今の時代、魔術師と呼ばれる程の実力者はいない。
大戦中の魔術の脅威から、各国は共同で魔術を管理する政策を打ち出した。
当時の魔術は凄まじく、城も街も一夜とたたず消しとばしていたらしい。そしてそんな事を続けてしまえば世界が滅ぶ。だからこその管理制限。
……リヴィアにしてみれば、使う方の問題だろうと思うのだが、当時王侯貴族で魔術を扱える者はほぼいなかった。
魔術師を頭から押さえるようなやり方ができたのはその為で、世論を煽り彼らの居場所を少しずつ奪った。
魔術が忌憚され、魔術持ちが人的差別を受け行き場を無くしていた大戦後の時代。
しかし当時この国の王は魔術に積極的に関与し、魔術師への差別もしなかった。
魔術の素養がある者を魔道士と呼び変える事で蔑称意識を薄めさせ、各国の取り決めから彼らを守る法案を勝ち取る事に成功し、人材も進んで受け入れた。
やがて国内に魔術研究所なるものまでつくり今に至る。しかし当然他国からの批判もあったものだから、王はその研究所で魔道士の力を制限し、生活の基盤となる魔道具の作成を第一に掲げた。
……まあそれにより、古い魔術ほど戦闘に特化しているからと管理が疎かになり、修繕や補修に掛ける労力が凄まじい。と、今更度々魔術院の議題に上がっているのはまた別の話だ。
因みに当時の王が魔術師についての法の成立を優先し取り仕切ったのは、彼の妻が魔術の素養持っていたからだとか。元は彼女を各国から守る為の防波堤作りの為。王の行動は人として「魔術師」と接してきたからこそのものだったのかもしれない。
ついでに魔術の素養を持つ者に性別は関係ない。
そして貴族の労働に関しては未だ賤しい金稼ぎ行為という認識が強い。この国が先駆者とされる魔術研究も労働に過ぎず、さらにそこに貴族女性などお呼びでないのだ。
なんだか矛盾を感じるが、魔術に関しては先進的に始まったこの国も、未だ古い考えに囚われ前に進めぬ部分もある。
平民では女性労働者が男性の職場で徐々に頭角を現す者が出始めているようだが、まだまだ社会全体でその変化は微々たるものだ。
その為例え貴族女性に魔術の素養を持ち生まれても、喜んで魔術院の勤人とはならないのが常だ。
魔術の素養を持つ者が減少傾向にあろうとも、その恩恵が既に日常的に手放せないものとなっているにも関わらず、
はしたない
未だにそれが貴族の常識である。
だがそれを推し進めれば、魔術を扱えるのは平民ばかりになると危惧され始め、魔術の素養を持つ下位貴族と高位貴族との婚姻を皇族で取締り出したのは先代皇帝が退位する辺りからだった。
ものは試しと始められた婚姻制度だったのか、あっさり立ち消えになっている。まあ、高位貴族の反発が強ければ、成り立たない制度ではあるのだが。
リヴィアは一つ息を吐いた。
12
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう
楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。
きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。
傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。
「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」
令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など…
周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる