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城戸崎海翔が語る、終章

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 秋の風が、吹く。
 夕方には冷えた風が吹くようになり、半袖では寒い。もう、明日には衣替えだ。夕方の通学路を急ぎ足で歩きながら、海翔はふるりと身を震った。
 ――ふと。
(……ああ)
 感じたのは、血のにおいだ。気づけば海翔はあの道の曲がり角に差しかかっていて、夕陽があたりに茜を広げている。
 海翔は、立ち止まった。
 陽は、静かに佇む清め地蔵を照らしている。傷だらけのその身を赤く染めていた。――血のにおいがする。海翔は、息を詰めた。
 鼻腔に届いた血は、本当にあたりに漂っているものなのだろうか。それともこの場所が海翔に『血』を連想させ、潜在的な意識が嗅覚を刺激しただけなのだろうか。
(ここ、は……)
 清め地蔵の前にいつもあった、血の痕は今は消されている。特に丁寧な清掃がされたらしく、以前、海翔を訝しがらせたどす黒い色も粘ついたしみもなくなっている。もちろんにおいもなくなっているはずなのに、なぜ海翔は血のにおいを感じたのだろうか。まるで、美桜の部屋に入ったときのようだ。
(血が、たくさん流れた場所だから……)
 立ち止まり、清め地蔵を見つめる。地蔵は目を閉じ、衆生を救うという両手の形もそのままに、静かにそこにいる。体には、受けた傷を深く刻みながら。



 ――今夜もまた、道の角を訪れる者がある。己を穢れていると心病み、そんな心闇を、清め地蔵に清められたい少女が、やってくる。
 地蔵を傷つけ、自分をも傷つけ、赤く濃く、澄みきった血を流し。
 自らを雪ぎ、澄ませ、清廉に、潔白に、どこまでも清らかであるがために――。



〈終幕〉
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