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プロローグ
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25日午後7時30分ごろ、JR今宮線で脱線事故。上之川駅付近。この事故により二名死亡。他軽症者数名が出ている模様。置き石が原因とみられる。
朝食を取りながら新聞を読んでいた行平は
「脱線事故か・・」
ぼそりと呟いた。行平は、朝食を食べながらいつも新聞を読み気になる記事があると口に出すのだ。
テーブルに家族の食事を並べていた妻、明子は忙しく手を動かしながらも
「なぁに?脱線事故?何処で?」
行平の言葉に反応する。
「上之川駅の辺りらしいな」
「上之川?それいつの話?」
普段明子はニュースや新聞を見ない。時事情報を知るのは大切な事だと思ってはいるが碌な事がないこの世の中だ。いちいちそんな情報を自分から見る必要などないと思っている明子は極力見ないようにしているのだ。
そんな明子が珍しく行平の呟きにすぐに反応した。
「昨日の夜7時30分ごろだって」
「ふ~ん。私が帰った後に脱線があったんだ」
明子は昨日、香織を連れて実家に帰っていた。実家は件の上之川駅から3㎞位の場所にある。とてものどかな田舎町で、明子が高校の時に利用していた上之川駅は当時無人駅だった。しかしその数年後、駅の周りに大型ショッピングモールが出来たのをきっかけに駅前周辺は様々な商業施設が出来、人も多く移り住んできた。その為駅を利用する人も多く、無人だった駅に駅員がいるのを見た時は少し寂しさを感じたものだった。
「でも、あの辺りは線路に近づけるかしら?」
「上之川駅の所は無理でも少し離れた所は近づけるだろ?畑の所とか」
「ああ。あの辺りね。確かに線路に近づけるけど・・」
駅から少し離れた場所になるとまだまだ過疎化が進んだ田舎町で、電影風景が広がる。線路も畑を寸断する形で敷かれているだけの為容易に入る事は可能である。
「悪質な悪戯だよな。二人も死んでる」
「ホントよね。あ、起きてきた。早く顔洗ってご飯食べちゃいなさい!」
パジャマ姿で寝ぼけた顔をして起きてきた香織に気づいた明子は、脱線事故の事等すぐに忘れ洗面所の方へと香織を連れて行った。
行平と明子の間には香織(小学三年生)という一人の子供がいる。香織を妊娠する前に二度妊娠したが残念な事に流産してしまった。三度目の正直と、妊娠するも流産経験を二度もした明子は念のため長期入院を余儀なくされた。妊娠初期頃の定期健診時、医者から「双子かな?」と言われた時は躍り上がるほど喜んだ。しかし、産んでみると一人。少し残念な気もしたが子供を無事に産めたことに感謝した。
そういう経緯もあり、一人娘の香織は二人にとって自分の命より大切な宝物なのだ。
そんな香織ももう小学三年生。一人っ子という事もあり少し甘えん坊な所はあるが、とても明るい性格で勉強はさほどでもないが体を動かす事が大好きなようで授業で体育がある日はとても嬉しそうにしている。もう少し、女の子らしい遊びや興味が出てくれるといいのにと、明子達は思っていたが、香織の好きなようにさせてあげたいという思いもある。
いずれ何か好きなスポーツでもあればやらせてみようかと二人は考えていた。
行平と香織を送り出した明子は家事に取り掛かる。
結婚する前の明子は銀行に勤めていた。転勤で、他県からやってきた行平と出会い社内恋愛の末結婚。しかし結婚後、行平の強い要望もあり専業主婦へ。共稼ぎの友達には羨ましがられるが、外に出るのが好きな明子にとってはなんとも退屈な主婦業である。
「俺が稼ぐから、明子は家を守ってくれればいい」
結婚のプロポーズと共に言われたこの言葉を聞いた明子は、何とも時代錯誤な考えだと思った。しかし、結婚に憧れていたのもありソレを承諾。
始めは後悔したが、今は自分の時間を楽しむようにしていた。
「よし。これで終わり!」
家事を一通り済ませた明子はふと時計を見る。10時15分。
明子は、家の事を任されたのならと念入りに家事をこなす。お陰で家の中は塵一つなく綺麗な部屋が保たれていた。
「さぁてどうしようかな・・」
家事が終わってしまうとやることがない。特に趣味もない明子は普段好きな本を読んだりして過ごすのだが、早々新しい本ばかりも買えないので同じ本を繰り返し読んだりするのだが、それも限界に来ていた。
「そうだ。図書館にでも行って見ようかしら」
バスを利用しないといけない場所だが、時間はたっぷりある。
明子は身支度を済ませるとマンションを出た。
今日は雲一つない秋晴れの良い天気。
冬の訪れを少しだけ感じながらも、涼しい街の中を歩きバス停まで歩いて行った。
「あと5分か」
明子が住む地域に来るバスは比較的本数が多い。車は持っているが、駐車場の事を考えるとバスの方が効率がいいのでよく利用する。この時間には余りバスを利用する人もいないのか、バスを待っているのは明子一人だった。
時間通りに到着したバスに乗り込む。
何度か行った事のある図書館だが、最近リニューアルされ新しくなったと友人から聞いていた。どんな風に変わったのか、ほんの種類は多くなったのだろうかなど、はやる気持ちを押さえながらバスに揺られていた。
「へぇ~結構変わっちゃったわね」
真っ白な外観に洋館のような作りになった図書館を前に、明子は驚いた。
元は、出張所のようなこじんまりとした建物でなぜこんな色にしたのかと思う程汚い灰色がかった外壁。中に入れば、何処を踏んでも軋む床。一応本の匂いはするが同時にかび臭い匂いもしていた建物内。
しかし今は、前にはなかったロビーがあり受付なる人が愛想よく図書館を訪れる人に笑顔を振りまいている。ピカピカの軋まない床を歩き奥に進むと、ジャンルごとに分けられた本が棚いっぱいに納まっていた。
「これなら、一日いても飽きないかも」
明子はワクワクしながら一番端の方から本棚を眺めて行った。
明子が良く好んで読む本はミステリーや歴史もの。気持ちは早くミステリーや歴史小説の棚の方へと行きたいが、明子には時間がたっぷりある。はやる気持ちを押さえながらゆっくりと棚に敷き詰められた本の背表紙を上から下へと見ていく。
「種類もすごく多くなってる。一日じゃ見て回れなさそうね」
早く自分の好きなジャンルの本の場所へ行きたいだけなのを、本の多さのせいにするとさっそくミステリーの棚を探し出した。
「あったあった」
天井からぶら下がる案内板にミステリーと書かれた文字を見つけた明子は足早にその場所へと急いだ。
棚にずらりと並ぶミステリー小説の本は、明子にとって宝の山に見えた。勿論読んだ事のある本もあるが、初めて知る作家の名も多く並ぶ。
「凄い・・・」
明子はそうつぶやくと、時間を忘れミステリー小説の世界に入って行った。
朝食を取りながら新聞を読んでいた行平は
「脱線事故か・・」
ぼそりと呟いた。行平は、朝食を食べながらいつも新聞を読み気になる記事があると口に出すのだ。
テーブルに家族の食事を並べていた妻、明子は忙しく手を動かしながらも
「なぁに?脱線事故?何処で?」
行平の言葉に反応する。
「上之川駅の辺りらしいな」
「上之川?それいつの話?」
普段明子はニュースや新聞を見ない。時事情報を知るのは大切な事だと思ってはいるが碌な事がないこの世の中だ。いちいちそんな情報を自分から見る必要などないと思っている明子は極力見ないようにしているのだ。
そんな明子が珍しく行平の呟きにすぐに反応した。
「昨日の夜7時30分ごろだって」
「ふ~ん。私が帰った後に脱線があったんだ」
明子は昨日、香織を連れて実家に帰っていた。実家は件の上之川駅から3㎞位の場所にある。とてものどかな田舎町で、明子が高校の時に利用していた上之川駅は当時無人駅だった。しかしその数年後、駅の周りに大型ショッピングモールが出来たのをきっかけに駅前周辺は様々な商業施設が出来、人も多く移り住んできた。その為駅を利用する人も多く、無人だった駅に駅員がいるのを見た時は少し寂しさを感じたものだった。
「でも、あの辺りは線路に近づけるかしら?」
「上之川駅の所は無理でも少し離れた所は近づけるだろ?畑の所とか」
「ああ。あの辺りね。確かに線路に近づけるけど・・」
駅から少し離れた場所になるとまだまだ過疎化が進んだ田舎町で、電影風景が広がる。線路も畑を寸断する形で敷かれているだけの為容易に入る事は可能である。
「悪質な悪戯だよな。二人も死んでる」
「ホントよね。あ、起きてきた。早く顔洗ってご飯食べちゃいなさい!」
パジャマ姿で寝ぼけた顔をして起きてきた香織に気づいた明子は、脱線事故の事等すぐに忘れ洗面所の方へと香織を連れて行った。
行平と明子の間には香織(小学三年生)という一人の子供がいる。香織を妊娠する前に二度妊娠したが残念な事に流産してしまった。三度目の正直と、妊娠するも流産経験を二度もした明子は念のため長期入院を余儀なくされた。妊娠初期頃の定期健診時、医者から「双子かな?」と言われた時は躍り上がるほど喜んだ。しかし、産んでみると一人。少し残念な気もしたが子供を無事に産めたことに感謝した。
そういう経緯もあり、一人娘の香織は二人にとって自分の命より大切な宝物なのだ。
そんな香織ももう小学三年生。一人っ子という事もあり少し甘えん坊な所はあるが、とても明るい性格で勉強はさほどでもないが体を動かす事が大好きなようで授業で体育がある日はとても嬉しそうにしている。もう少し、女の子らしい遊びや興味が出てくれるといいのにと、明子達は思っていたが、香織の好きなようにさせてあげたいという思いもある。
いずれ何か好きなスポーツでもあればやらせてみようかと二人は考えていた。
行平と香織を送り出した明子は家事に取り掛かる。
結婚する前の明子は銀行に勤めていた。転勤で、他県からやってきた行平と出会い社内恋愛の末結婚。しかし結婚後、行平の強い要望もあり専業主婦へ。共稼ぎの友達には羨ましがられるが、外に出るのが好きな明子にとってはなんとも退屈な主婦業である。
「俺が稼ぐから、明子は家を守ってくれればいい」
結婚のプロポーズと共に言われたこの言葉を聞いた明子は、何とも時代錯誤な考えだと思った。しかし、結婚に憧れていたのもありソレを承諾。
始めは後悔したが、今は自分の時間を楽しむようにしていた。
「よし。これで終わり!」
家事を一通り済ませた明子はふと時計を見る。10時15分。
明子は、家の事を任されたのならと念入りに家事をこなす。お陰で家の中は塵一つなく綺麗な部屋が保たれていた。
「さぁてどうしようかな・・」
家事が終わってしまうとやることがない。特に趣味もない明子は普段好きな本を読んだりして過ごすのだが、早々新しい本ばかりも買えないので同じ本を繰り返し読んだりするのだが、それも限界に来ていた。
「そうだ。図書館にでも行って見ようかしら」
バスを利用しないといけない場所だが、時間はたっぷりある。
明子は身支度を済ませるとマンションを出た。
今日は雲一つない秋晴れの良い天気。
冬の訪れを少しだけ感じながらも、涼しい街の中を歩きバス停まで歩いて行った。
「あと5分か」
明子が住む地域に来るバスは比較的本数が多い。車は持っているが、駐車場の事を考えるとバスの方が効率がいいのでよく利用する。この時間には余りバスを利用する人もいないのか、バスを待っているのは明子一人だった。
時間通りに到着したバスに乗り込む。
何度か行った事のある図書館だが、最近リニューアルされ新しくなったと友人から聞いていた。どんな風に変わったのか、ほんの種類は多くなったのだろうかなど、はやる気持ちを押さえながらバスに揺られていた。
「へぇ~結構変わっちゃったわね」
真っ白な外観に洋館のような作りになった図書館を前に、明子は驚いた。
元は、出張所のようなこじんまりとした建物でなぜこんな色にしたのかと思う程汚い灰色がかった外壁。中に入れば、何処を踏んでも軋む床。一応本の匂いはするが同時にかび臭い匂いもしていた建物内。
しかし今は、前にはなかったロビーがあり受付なる人が愛想よく図書館を訪れる人に笑顔を振りまいている。ピカピカの軋まない床を歩き奥に進むと、ジャンルごとに分けられた本が棚いっぱいに納まっていた。
「これなら、一日いても飽きないかも」
明子はワクワクしながら一番端の方から本棚を眺めて行った。
明子が良く好んで読む本はミステリーや歴史もの。気持ちは早くミステリーや歴史小説の棚の方へと行きたいが、明子には時間がたっぷりある。はやる気持ちを押さえながらゆっくりと棚に敷き詰められた本の背表紙を上から下へと見ていく。
「種類もすごく多くなってる。一日じゃ見て回れなさそうね」
早く自分の好きなジャンルの本の場所へ行きたいだけなのを、本の多さのせいにするとさっそくミステリーの棚を探し出した。
「あったあった」
天井からぶら下がる案内板にミステリーと書かれた文字を見つけた明子は足早にその場所へと急いだ。
棚にずらりと並ぶミステリー小説の本は、明子にとって宝の山に見えた。勿論読んだ事のある本もあるが、初めて知る作家の名も多く並ぶ。
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