疑心暗鬼

玉城真紀

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死に際の疑問

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お祖母ちゃんのご先祖の話として伝えられているものらしい。

遠いご先祖に侍がいたという。
ある日、その侍はトメという女中に恋心を持つ。しかしトメは身分の違いから侍の誘いを断り続けた。だが、侍の地道なアピールが功を奏したのかトメと恋仲になり人目を忍んで夜な夜な会っていたそうだ。

しかしそんな幸せも長くは続かなかった。
侍の友人が気に入った娘がいると言ってきた。(ちょうどあの店から出てくる娘なんだ)と言うので侍も友人を冷かしながらも店の出入口を建物の影から見ていた。(ほら!あの娘だ)友人が指さす方を見て侍は驚いた。友人が気に入った娘というのはトメだったのだ。侍は友人に対し腹が立ったが、友人にしてみれば、侍とトメがもう恋仲になっているなんて事とは知らなかったのだ。

侍は迷った。
トメも大切だし友人も大切だ。どちらかを選ぶという事なんて出来ない。一番の解決は自分が身を引く事。そうすれば万事解決する。
夜も眠れず悩み続けた。

私はそこまでの話を祖母から聞いた時、又兵衛が言っていたことに似てると思った。
では、又兵衛がその侍なのか・・・

話は続く。
悩み続けて、食事もろくに取れず日に日にやせ衰えていく侍。周りが心配して医者に見せるが原因不明と家族は言われるばかり。
ついに、床に臥せってしまった。

そんなある日。
心配した友人が見舞いに来た。
侍は複雑な気持ちで見舞いに来てくれた友人と話をしていると、友人が少し言いにくそうに切り出した。
(実は今度祝言を挙げる事になってな。お前にも来てほしいから早く良くなってくれ)
それを聞いた侍はそれはそれは喜んだ。
体を起こし、骨が浮き出た手で友人の手を掴み(良かったな)と泣いて喜んだ。
なぜなら、今まで悩んできた事が一気に解決されたと感じたからだ。
友人も嬉しそうに侍の手を握り返し
(実は今連れて来てるんだ。会ってやってくれないか)
侍は二つ返事で受け入れる。
友人の(おい)という言葉で座敷に入って来た女性はトメだった。

侍の心はその時に壊れた。

自分と会っていた時より綺麗な着物に身を包み、恥じらいながら入って来たトメ。友人に寄り添うように音もなく座り深々と頭を下げ
(初めまして・・・)
その後の挨拶は続かなかった。
三つ指を付き頭を垂れた女の頭を、侍ははねたのだ。
ホースから水が噴き出すかのように血が勢いよく出る。隣にいた友人は何が起こったのか理解できず、これから夫婦めおととなるはずだった女の転がった首を見つめる。
(裏切者!)
と吐き捨てると、続けざまに侍は友人の首もはねた。
勿論、家中大騒ぎとなり侍は暴れまわるところを取り押さえられる。
役人?(今で言う警察だろうか)が呼ばれ連れていかれた。
侍は打ち首を言い渡される。昔は打ち首をする時、人々の前で行う公開処刑をしていたようで侍も例にもれず公開処刑に。
町の人達の好奇の眼が降り注ぐ中、筵の上に正座をさせられ手は縄で後ろ手に縛られる。頭を垂れ、打ち首執行人というのだろうか、その人が持つ刀が振り上げられた時だ。

「又兵衛さん!」

自分を呼ぶ懐かしい声。
侍は咄嗟に声のする方を向いた。しかし顔には白い布がつけられているので声の主を確認することは出来ない。声を聞きそれに侍が反応し動いたことで、振り下ろされた刀は侍の後頭部から後ろの首をそぐように切られてしまった。しかしそのお陰で顔についていた白い布がはらりと落ちた。激痛の中、何度も自分の名を呼ぶ声の方を見る。そこには、自分がこの世で一番愛した人。自分の手で首を撥ねたはずの人がいつものみすぼらしい着物を着て涙を流しながら策にしがみつきながら自分の名を呼んでいる。

「え?なん・・で」

その答えは出なかった。
侍の視界はぐるりと回り、青い空が見えた。
そして・・・何も見えなくなった。

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