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㉑
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あの日から、時間の流れが早くなったように感じます。
わたくしが行動を起こして、元婚約者さまと婚約解消のお話をしたあの日。
ルカが我が家に婚約を打診して、急いで会いに来てくれたあの日は。
それだけの騒動で終わりませんでした。
まずはルカとわたくしが話をしている間に、侯爵さまのお使いの方が訪ねてきました。
婚約のことで我が家を訪問したいが、いつがいいか、という相談です。
これに伯爵さまは、あえて数日先の日程を指定して使者を帰しておりました。
侯爵さまから面会を希望されれば予定を空けてでもすぐに応対していた伯爵さまはどこへやら。
使者が急ぎ出ていかれると、伯爵さまの高笑いはわたくしたちのところまで聴こえてきました。
『はっはっはっ!いつもいつもこちらが伯爵だからと見下してきた天罰だな!公爵家に睨まれるとは!なんと、いい気味!』
権力に従順な伯爵さまですが、わたくしが公爵家と縁付くことが決まった途端、自身が伯爵であることは忘れてしまったようです。
弟も公爵家のご令嬢を妻としてお迎えするよう準備をしておりましたけれど。
そちらの公爵さまからは婚約のお話が始まった時点で、『娘は家を出る身であり、公爵家の名を騙ることは婚姻後にも許さない』と釘を刺されておりました。
伯爵さまの性格をよくよくご存知だったのだと思います。
伯爵さまはこれが大層ご不満だったようで。
たびたび不満を漏らし、弟には『よく婚約者を躾けろ』だなんて、失礼なことを言っておりましたね。
あちらの公爵さまのお耳に入ったら、大変なことになりますでしょうに。
これに関しては、二大公爵家のもう一家、ルカのお父さまである公爵さまとて、伯爵さまの性質をご存知になれば、同じように仰るのではないかしら?と思うのですけれど。
伯爵さまがその辺りをきちんと予想しているのか、いないのかは分かりません。
ただ今回は元婚約者とのあれこれは任せろと公爵さまからお手紙を頂いたことが大きかったのでしょうね。
とにかく侯爵さまに対しての伯爵さまの気は、爵位を飛び越えて大きくなってしまったよう。
婚約の打診をしたその日のうちにわたくしの父親である人の本質というものを知ったルカに、婚約は取り止めようと言われてしまうのではないかしら?それならばやはり領地に引き籠って……と考えてみたところで、それは杞憂のように終わりました。
伯爵さまの笑い声を耳にしながら、顔色を窺うようなはしたない真似をしてしまいましたのに、ルカはにこにこと笑っておりましたので、わたくしもあえて自分からは何も聞いておりません。
当時のわたくしには何か問えるほどに、公爵家のお考えについて知るところもありませんでしたから。
それに……結局わたくしは、その後にすべてを話してしまっていました。
元婚約者さまとのこれまでの関係や、領地のこと、そして伯爵さまとの会話、さらにはわたくしが伯爵家の令嬢としては無責任にも領地で生きようと考えていたこと──そういった恥ずかしいお話をして、婚約相手が本当にわたくしでよろしいのですかと尋ねることになったのですが。
ルカはそれでも優しい顔で笑っていて。
『アメリアがいい。というか、アメリアでないと嫌だから。諦めが付くまでは誰とも婚約しないようにしていたんだよ』
どういうことなのでしょうか?
領地にいたあの頃に。
陽だまりの中で微睡んでいたあのときのように。
あの日のルカを思い出すだけで、わたくしの身体がぽかぽかと温まってしまうのです。
ルカはわたくしにとって不思議な人──。
わたくしが行動を起こして、元婚約者さまと婚約解消のお話をしたあの日。
ルカが我が家に婚約を打診して、急いで会いに来てくれたあの日は。
それだけの騒動で終わりませんでした。
まずはルカとわたくしが話をしている間に、侯爵さまのお使いの方が訪ねてきました。
婚約のことで我が家を訪問したいが、いつがいいか、という相談です。
これに伯爵さまは、あえて数日先の日程を指定して使者を帰しておりました。
侯爵さまから面会を希望されれば予定を空けてでもすぐに応対していた伯爵さまはどこへやら。
使者が急ぎ出ていかれると、伯爵さまの高笑いはわたくしたちのところまで聴こえてきました。
『はっはっはっ!いつもいつもこちらが伯爵だからと見下してきた天罰だな!公爵家に睨まれるとは!なんと、いい気味!』
権力に従順な伯爵さまですが、わたくしが公爵家と縁付くことが決まった途端、自身が伯爵であることは忘れてしまったようです。
弟も公爵家のご令嬢を妻としてお迎えするよう準備をしておりましたけれど。
そちらの公爵さまからは婚約のお話が始まった時点で、『娘は家を出る身であり、公爵家の名を騙ることは婚姻後にも許さない』と釘を刺されておりました。
伯爵さまの性格をよくよくご存知だったのだと思います。
伯爵さまはこれが大層ご不満だったようで。
たびたび不満を漏らし、弟には『よく婚約者を躾けろ』だなんて、失礼なことを言っておりましたね。
あちらの公爵さまのお耳に入ったら、大変なことになりますでしょうに。
これに関しては、二大公爵家のもう一家、ルカのお父さまである公爵さまとて、伯爵さまの性質をご存知になれば、同じように仰るのではないかしら?と思うのですけれど。
伯爵さまがその辺りをきちんと予想しているのか、いないのかは分かりません。
ただ今回は元婚約者とのあれこれは任せろと公爵さまからお手紙を頂いたことが大きかったのでしょうね。
とにかく侯爵さまに対しての伯爵さまの気は、爵位を飛び越えて大きくなってしまったよう。
婚約の打診をしたその日のうちにわたくしの父親である人の本質というものを知ったルカに、婚約は取り止めようと言われてしまうのではないかしら?それならばやはり領地に引き籠って……と考えてみたところで、それは杞憂のように終わりました。
伯爵さまの笑い声を耳にしながら、顔色を窺うようなはしたない真似をしてしまいましたのに、ルカはにこにこと笑っておりましたので、わたくしもあえて自分からは何も聞いておりません。
当時のわたくしには何か問えるほどに、公爵家のお考えについて知るところもありませんでしたから。
それに……結局わたくしは、その後にすべてを話してしまっていました。
元婚約者さまとのこれまでの関係や、領地のこと、そして伯爵さまとの会話、さらにはわたくしが伯爵家の令嬢としては無責任にも領地で生きようと考えていたこと──そういった恥ずかしいお話をして、婚約相手が本当にわたくしでよろしいのですかと尋ねることになったのですが。
ルカはそれでも優しい顔で笑っていて。
『アメリアがいい。というか、アメリアでないと嫌だから。諦めが付くまでは誰とも婚約しないようにしていたんだよ』
どういうことなのでしょうか?
領地にいたあの頃に。
陽だまりの中で微睡んでいたあのときのように。
あの日のルカを思い出すだけで、わたくしの身体がぽかぽかと温まってしまうのです。
ルカはわたくしにとって不思議な人──。
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