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「明朝には出て貰うから、そのつもりで今日のうちに荷造りをしておけ。いいな」
「は?え?あの……父上?」
「本来ならば伯爵家にはお前も連れて謝罪に向かわねばならないところだ。だが今のお前の態度で良く分かった。ニコラスの言う通り、連れていったところでお前はさらに我が家の醜聞を広げることになるだろう。だからお前はここで病気とする」
「病気って……父上、あの──」
「話はそれだけだ」
「いいえ、お待ちください、父上。明日も学園があるので、私はどこへも行けませんよ。領地に行けとは、次期当主としての視察か何かですか?それにしても、学園の長期休暇までお待ちいただきたいのですが。そもそもそれって私が行く必要があるのですかね?誰かに任せられるなら、そうしましょうよ。それから伯爵家の件ですけど。私も婚約者として同席しますよ?あいつには立場を分からせなければなりませんし、謝罪の言葉は婚約者の私こそが受け取らなければ。それより病気って、もしや父上は何かのご病気で。あぁ、そうか。それで私に視察の話が──」
「もう黙ってくれ」
信じられない。
父上はいつもなんでも聞いてくれていたのだ。
そうか、やはりこれは夢なんだな。
なんとも痛い想いをする嫌な夢だ。
早く覚めよう。
夢から覚めるには、どうすればいいのだ?
起きろ、私、起きろ!早く起きてくれ!
これでは駄目か?
「ここまで分からない男だったとは……。長く保留にしていた我が家の後継は、今日をもってこのニコラスに決定した。よってお前がこの侯爵家の先を憂える心配はない。だがまだ憂える気持ちがあるならば、これからはおとなしく過ごし、今後は一切何もしないでくれ」
ニコラス?弟が後継だって?
は?保留?どういうことだ?
確認は済んだ、急いで対応せねば。そう言った父上は部屋に戻っていった。
弟はただ突っ立って父上を見送った後、私に視線を向けている。
「おい、ニコラス!私を起こしてくれ!」
どいつもこいつも。夢の中でも察しが悪くて嫌になるな。
夢でくらい私をもっと大切に気遣ってくれればいいものを。
腰を強く打ったのだろう。
痛みで立ち上がれない私に手を差し伸べず、ぼーっと側に立っている弟は、私が何をすべきか教えてやったというのにそれでも何もしなかった。
夢でも兄を気遣えない最低な弟だな。
そのうえ、薄気味悪く笑ったのだ。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってきたけれど。真性の馬鹿は予測を越えて来るものだったんだね。これは私の甘さなのかな」
*************
<蛇足>
「弟に名前があっただと?∑(゚□゚; )byナナシ1」
名無しさんの名を得る物語が今ここにはじま──らなかった。
次回『名無しさんは夢を見る!』です(`・ω・´)キリッ
「は?え?あの……父上?」
「本来ならば伯爵家にはお前も連れて謝罪に向かわねばならないところだ。だが今のお前の態度で良く分かった。ニコラスの言う通り、連れていったところでお前はさらに我が家の醜聞を広げることになるだろう。だからお前はここで病気とする」
「病気って……父上、あの──」
「話はそれだけだ」
「いいえ、お待ちください、父上。明日も学園があるので、私はどこへも行けませんよ。領地に行けとは、次期当主としての視察か何かですか?それにしても、学園の長期休暇までお待ちいただきたいのですが。そもそもそれって私が行く必要があるのですかね?誰かに任せられるなら、そうしましょうよ。それから伯爵家の件ですけど。私も婚約者として同席しますよ?あいつには立場を分からせなければなりませんし、謝罪の言葉は婚約者の私こそが受け取らなければ。それより病気って、もしや父上は何かのご病気で。あぁ、そうか。それで私に視察の話が──」
「もう黙ってくれ」
信じられない。
父上はいつもなんでも聞いてくれていたのだ。
そうか、やはりこれは夢なんだな。
なんとも痛い想いをする嫌な夢だ。
早く覚めよう。
夢から覚めるには、どうすればいいのだ?
起きろ、私、起きろ!早く起きてくれ!
これでは駄目か?
「ここまで分からない男だったとは……。長く保留にしていた我が家の後継は、今日をもってこのニコラスに決定した。よってお前がこの侯爵家の先を憂える心配はない。だがまだ憂える気持ちがあるならば、これからはおとなしく過ごし、今後は一切何もしないでくれ」
ニコラス?弟が後継だって?
は?保留?どういうことだ?
確認は済んだ、急いで対応せねば。そう言った父上は部屋に戻っていった。
弟はただ突っ立って父上を見送った後、私に視線を向けている。
「おい、ニコラス!私を起こしてくれ!」
どいつもこいつも。夢の中でも察しが悪くて嫌になるな。
夢でくらい私をもっと大切に気遣ってくれればいいものを。
腰を強く打ったのだろう。
痛みで立ち上がれない私に手を差し伸べず、ぼーっと側に立っている弟は、私が何をすべきか教えてやったというのにそれでも何もしなかった。
夢でも兄を気遣えない最低な弟だな。
そのうえ、薄気味悪く笑ったのだ。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってきたけれど。真性の馬鹿は予測を越えて来るものだったんだね。これは私の甘さなのかな」
*************
<蛇足>
「弟に名前があっただと?∑(゚□゚; )byナナシ1」
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