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第一章 出会いと使命

スイレン国を襲う脅威

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 遡る事約一年前、ユーディアルとファイは二人だが勇者御一行としてスイレン国から旅だった。

 その国には優しく微笑む国民思いの国王と女王、年老いてもなお仲睦まじくそして貫禄のある二人がいて国中で憧れ的だった。

 そんな素敵な国から旅立った勇者御一行は各地の町や村を救っていった、時には裏切りにあい、時には人質を取られる事もあった。

 しかし世界を救うと誓った二人の想いは負ける事なく、そんな彼らに誰もが感謝し称えた。

『ゆうしゃさまっ、ありがとう』
『助けてくださりありがとうございます、勇者様』
『勇者御一行に神のご加護が有らん事を』

 子供から大人まで勇者御一行を信じたし、二人も民を信じていた、のだが。


 旅に出て一年後、後は魔界との入り口を探し封印するだけとなった時、二人はスイレン国に労いの言葉と共に呼び出された。

 魔界の入り口について情報が欲しかった事もあり、この世界で一番の大国であるスイレン国に戻ることになったのだが。

 城下町に入った時の国中からの冷たい目線が今も忘れられないとユーディアルは語る。

 一年の内に国王は息子へと代替わりをしており、聖女と名乗る美しい女性と結婚していた。民はおかしいくらいに聖女を崇拝しており、彼女が言ったことは事実として信じている。

・本物の聖女は今の女王
・二十年前の戦争は頭がおかしくなった前国王の戯言
・勇者は本当は悪魔と戦っておらず、逆に罪もない人からお金を騙し取っている

 これが新しい聖女から告げられた事実、と言われているものだった。



「最終的には俺は偽聖女を信じている民から石を投げつけられ俺は怪我をしました、その時守りの力が消えていることに気がついたのです」
「守りの、力?」
「俺は精霊からどんな攻撃を受けても傷一つ、HPも削れない守りの力を手に入れたのです」
「ただし、この世界の民からの信頼とユーディアルが民を守りたいと思う気持ちが重ならないと守りの力は発揮されない」

 つまり怪我したと言うことは人々からの信頼がなくなりスイレン国で罵倒され、ユーディアルが民を守りたいと思えなくなった為守りの力をが消えてしまった。

「結果洗脳されたファイの攻撃に瀕死の状態にまでなりました・・・実際あの時このまま死んだ方が楽になれると、生きる事も勇者である事も放棄しかけてました」
「そんな・・・」

 一晩経ち朝食後に語られたスイレン国での出来事に、リーンはその一言しか発する事しかできなかった。

「ごめん、ユーディアル、本当に、ごめん」
「ファイは悪くないよ、俺の精神が弱いから・・・それに洗脳されていたんだからしょうがないさ」
「ユーディアル、ありがとう・・・その洗脳なんだけど」

 申し訳なさそうなファイは困惑した様に話を続けた。

「実はどうやって僕が洗脳されたのかわからないんだ」

 自分を洗脳した方法、それがファイが考えてもわからない謎の一つ。

「それは気付かれないうちに魔法で洗脳されたんじゃないのか?」
「いや、洗脳される方法は分かってる。出てくる殆どの料理に洗脳の効果がのっていたから、口から体内に取り込む、もしくは女王による誘惑により洗脳状態にする方法なんだ。
 ただ僕にはユーディアルも知っての通り誘惑は効かないし、食事の時は必ず料理を鑑定をして洗脳は避けていた。
 実際調理していない野菜や肉を焼いただけなどの料理には効果がなかったから、調味料に含まれていると睨んでたんだけど」
「だからファイはあまり食事をとっていなかったのか、そうとは知らず普通に食べてしまって悪かった」
「いや、大丈夫だよ、そこはあまり気にしてないから」

 二人の会話で素朴な疑問が生まれ、リーンはおずおずと手を上げながら質問した。

「あ、あの、ユーディアルさんは食事されて平気なんですか?」
「はい、ユーディアルは勇者ですから、勇者と聖女は状態異常にはならないんです」
「なるほど」

 この後ファイに他に口にしたものを確認して行ったが彼は洗脳の効果がない食材と水しか口にしてないと言う。

「水も城下町の井戸から直接汲み上げたものしか飲んでません、なので効果が乗っているとは考えにくい・・・」
「水の鑑定はしていないんですか?」
「え? してないね、井戸に仕込むって方法もわからないし・・・勇者御一行は二人なんだから僕らを洗脳する為にそんな大掛かりな事」
「いえ、洗脳は無差別にしているんじゃないですか?」

 リーンがそう言うと二人は固まった、それは城内部どころか国中が洗脳されている可能性があると言う事だ。

 そう考えれば民の反応も、異様なまでの聖女信仰も納得できる。

「ぼ、僕、水を水筒に入れてきたんだ! 城ではなく城下町にある井戸から、喉が渇いた時に飲もうと思って」

 偶然持って来ていた汲んだ水、ファイは水筒のコップに移し水を鑑定した。

「・・・洗脳の、効果がのってるっ」
「なっ、と言う事は、あの国は・・・」
「全国民、洗脳済み、と言う事だね」
「まさか、カーゴ、様も?」
「可能性は、高い」

 ユーディアルの言葉に力なく答えるファイ、彼らにとってそれは絶望的な状況だった。

「これで納得したよ、あの国では聖女が偽物だと訴えても理解はしてくれない」
「あぁ、ファイの言うとおり・・・あの女王が聖女だと崇められている理由がわからなかったが、洗脳されているなら理解できる」
「しかし聖女のベルを使えば正気には戻せますよね?」

 リーンの言葉に二人は頷くが顔は険しい。

「リーン様の言うとおり、ただ問題は井戸の方だね」
「問題は浄化する方法がわからないのと、俺達はあの国に簡単には入れなくなったと言う事です」
「そうだね、僕が洗脳されている時には城下町で【勇者は反逆者】と騒がれてたから・・・僕も仲間として追い出されちゃったし」

 やる事はわかるが解決策が見つからない、そんな悩みの中ファイにはもう一つ問題があった。

「あと、僕の力でないと言う問題点もあるんだよ」
「魔法力か、原因も不明か?」
「うん・・・あ、リーン様、僕は炎・水・風・光の属性を持つ攻撃ができるんだけど、全て最弱の魔法なんだ」
「え、最弱、ですか」
「うん、そもそも僕はサポート魔法が得意で攻撃魔法はおまけ・・・ただ元々の魔法力が高く最弱の魔法でも威力は誰にも負けないんだ」
「範囲や威力の調整も出来るから、ファイの攻撃魔法はとても重宝していたんだが」

 誇らしげに自分の魔法の説明をしていたファイだが、ユーディアルの言葉に顔を歪める。

「てっきり洗脳されて魔法力を奪われたのかと思ったんだけど、今も力は戻ってきていないんだよなぁ」
「でも力が弱まっていたからユーディアルさんが助かったのかもしれません」
「・・・確かに」
「流石にファイの全力魔法食らったら即死だろうな・・・」

 体を震わせているユーディアルとファイを見て「本当に、生きててよかった」と心の底から呟く。

 出会ったばかりだがこの二人が死んでしまうのはこの世界に対しても自分に対しても良くない事だと、リーンが持つ聖女の感が語りかけていた。


「やっぱり魔法力がでない・・・」

 ファイは徐に炎を手に宿したが、とても弱々しく見える。その炎を見ながらリーンは思い出した事を呟いた。

「近衛さんに力の強さがこの世界の強さだと聞きました、愛が一番強いと・・・なにか思い当たる節はありませんか?」

 ファイに訊ねるとハッと顔を上げて呟いた。

「まさか、エミーに、何か、あったんじゃ」

 さぁっと血の気が引いている、その表情だけでファイにとっての大切な人だと見てとれた。

「まさかルーン・リバーの村が・・・」

 ユーディアルがつぶやいた村の名前、それは二人の出身村でリーンは当然知らない名前だったが急に寒気を覚えた。

 それは聖女の感がリーンに知らせた危険信号に、彼女も大きな声を張り上げて訴えた。

「い、行きましょう、私も嫌な予感がします」

 彼らは大急ぎで村に向かうことに決めたのだった。
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