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第2部
2038年5月11日(火) 2
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撥水タイルが貼られた真新しい床が延々と遠くまで続いている。天井から放たれた最新式の自然光LEDからの強い光が床を照らしていた。その明るい空間にベルが鳴り響いた。そこは建設されて間もない駅だった。ホームには、アクリル製の転落防止壁が線路との間に立てられている。その壁の向こうには、遠くまで連なっているリニア列車が停車していた。
到着アナウンスと共に一斉にアクリル製の壁のドアと車両のドアが同時に開き、リニア列車から乗客が降りてきた。旧首都である東京への来訪者は依然として多い。ホームの上はあっという間に降車した人で溢れかえった。人の波は何かに急きたてられるように、幅の広い下りのエスカレーターの方へと流れていった。緩い傾斜の長いエスカレーターは、一段に大勢の人を乗せて、人々を次々に階下へと運んでいく。
やがて、ほとんどの乗客が階下に進み、ホームに静けさが戻った。まだ停車しているリニア列車の乗降口の一つからホームの上に、スニーカーを履いた小さな足が揃えられたままピョンと着地する。その小柄な女性は着地と同時に両手を広げ、ポーズをとった。
「はい、東京上陸う。やって来ました、東京にイ」
その後から降りてきた勇一松頼斗が、呆れたように春木を見ながら言った。
「あんたね、なに浮かれてるのよ。たかが東京じゃない」
春木陽香は頬を膨らませる。
「ええー。初めて来たんですよ。ちょっとくらい感動してもいいじゃないですか」
勇一松頼斗は溜め息を吐いた。
「はあ。――しかも、その、いかにも『御上りさん』的な恰好。いや、違った、『御下りさん』ね。もう首都はあっちだったわ」
背後を親指で指している勇一松を置いて、春木陽香はホームの先端に駆け出した。高い位置に高架式で設置されているリニア線のホームからは、街の景色が一望できる。春木陽香は額の上に手をかざして、背伸びをしながら景色を望んだ。
「わあ、でも、すっごいなあ。遷都したって言っても、凄い活気ですねえ。こっちがまだ日本の首都みたい」
「浜松町駅で驚いてちゃ駄目よ。東京駅なんか、もっとすごいんだから」
「へえー。びっくらこいた」
勇一松頼斗は両手を肩まで上げて言った。
「遷都してから、もう十六年になるのよ。昔はもっと凄かったんだから。今の新首都で言えば、もう、そこら中が有多町の大交差点か、寺師町のメイン通りかって感じよ。はあ、懐かしいわあ。向うに東京タワーが見えて、こっちにはスカイツリー……あら、無くなってる。取り壊したのかしら……。ん? 何よ」
戻ってきた春木陽香は、話している最中の勇一松に自分のウェアフォンを渡した。そして、もう一度ホームの端まで走っていき、外の景色を指差しながら興奮気味に言った。
「あれ、モノレールですよね。ライトさん、画像を撮ってもらってもいいですか」
春木陽香は羽田から走って来るモノレールを背後にしてポーズをとった。
勇一松頼斗は呆れ顔でウェアフォンを構えながら、春木に言った。
「もう。仕方ないわねえ。ほら、もっと右に寄って。いくわよ、はい、チーズかまぼこ」
撮り終えた勇一松頼斗は、春木のウェアフォンをズボンのポケットに仕舞うと、今度は首に提げていた自分の一眼レフ・カメラを顔の前で構えた。
「ほら、天才カメラマンが、ちゃんとしたプロ仕様のカメラで撮ってあげるから。もっと肩あげて。そう。モノレールがいい位置に来たら……今よ、はい、チーズ饅頭っと」
ピースサインをする春木陽香をフラッシュの光が強く照らした。
到着アナウンスと共に一斉にアクリル製の壁のドアと車両のドアが同時に開き、リニア列車から乗客が降りてきた。旧首都である東京への来訪者は依然として多い。ホームの上はあっという間に降車した人で溢れかえった。人の波は何かに急きたてられるように、幅の広い下りのエスカレーターの方へと流れていった。緩い傾斜の長いエスカレーターは、一段に大勢の人を乗せて、人々を次々に階下へと運んでいく。
やがて、ほとんどの乗客が階下に進み、ホームに静けさが戻った。まだ停車しているリニア列車の乗降口の一つからホームの上に、スニーカーを履いた小さな足が揃えられたままピョンと着地する。その小柄な女性は着地と同時に両手を広げ、ポーズをとった。
「はい、東京上陸う。やって来ました、東京にイ」
その後から降りてきた勇一松頼斗が、呆れたように春木を見ながら言った。
「あんたね、なに浮かれてるのよ。たかが東京じゃない」
春木陽香は頬を膨らませる。
「ええー。初めて来たんですよ。ちょっとくらい感動してもいいじゃないですか」
勇一松頼斗は溜め息を吐いた。
「はあ。――しかも、その、いかにも『御上りさん』的な恰好。いや、違った、『御下りさん』ね。もう首都はあっちだったわ」
背後を親指で指している勇一松を置いて、春木陽香はホームの先端に駆け出した。高い位置に高架式で設置されているリニア線のホームからは、街の景色が一望できる。春木陽香は額の上に手をかざして、背伸びをしながら景色を望んだ。
「わあ、でも、すっごいなあ。遷都したって言っても、凄い活気ですねえ。こっちがまだ日本の首都みたい」
「浜松町駅で驚いてちゃ駄目よ。東京駅なんか、もっとすごいんだから」
「へえー。びっくらこいた」
勇一松頼斗は両手を肩まで上げて言った。
「遷都してから、もう十六年になるのよ。昔はもっと凄かったんだから。今の新首都で言えば、もう、そこら中が有多町の大交差点か、寺師町のメイン通りかって感じよ。はあ、懐かしいわあ。向うに東京タワーが見えて、こっちにはスカイツリー……あら、無くなってる。取り壊したのかしら……。ん? 何よ」
戻ってきた春木陽香は、話している最中の勇一松に自分のウェアフォンを渡した。そして、もう一度ホームの端まで走っていき、外の景色を指差しながら興奮気味に言った。
「あれ、モノレールですよね。ライトさん、画像を撮ってもらってもいいですか」
春木陽香は羽田から走って来るモノレールを背後にしてポーズをとった。
勇一松頼斗は呆れ顔でウェアフォンを構えながら、春木に言った。
「もう。仕方ないわねえ。ほら、もっと右に寄って。いくわよ、はい、チーズかまぼこ」
撮り終えた勇一松頼斗は、春木のウェアフォンをズボンのポケットに仕舞うと、今度は首に提げていた自分の一眼レフ・カメラを顔の前で構えた。
「ほら、天才カメラマンが、ちゃんとしたプロ仕様のカメラで撮ってあげるから。もっと肩あげて。そう。モノレールがいい位置に来たら……今よ、はい、チーズ饅頭っと」
ピースサインをする春木陽香をフラッシュの光が強く照らした。
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