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第4章 乙女ゲーム編
夢の中での再会
しおりを挟む「近寄らないでください」
真っ暗闇の中鋭い視線で言ったチェリアさんを見送る私。
「待ってください!」
そう叫んで外聞も気にせず走りますが、歩いているチェリアさんは遠ざかるばかり。
ああ、体がとても重い。痛い。
上手く走る事も出来ず、足がもつれて倒れてしまいました。
「まぁ、はしたない。やはり貴方は床に転がっているのがお似合いですわ」
背後から声をかけられ振り返ると、数人の女子生徒さん達と一緒にマリベルさんが私を見下すように笑っています。
「マリベルさん」
その姿も笑い声も聞きたくなくて目を耳を塞ぎました。
なんで、どうして? あんなに仲が良かったではないですか。
それとも、全部私の思い違い?
「ああああああああああああ」
立ち上がり声の限り叫んで走ります。
どうしてよいのか分かりません。本当に、私はどうしたらいいの?
ねぇ、誰か教えてよ!
『アメリア、遅くなってごめんなさい』
頭に響いでくるディア様の声。
立ち止まると、いつもと違い私と同じサイズほどの美しい精霊様が立っていました。
ううん、彼女は間違いなくディア様です。面影がありますし、それ以前に私がディア様を見間違いはしません。
「ディア様」
私に優しく話し掛け微笑んでいる。それだけで不覚にも涙があふれてしまいました。
声だって震えていましたし、ちゃんとディア様のお姿を見たいのに視界が歪んできちんと見えません。
『そうね、守るって言っておきながら全然守れませんでしたよね。ごめんなさい』
口調と同じく申し訳ない気持ちも流れ込んできます。
ディア様がそんな事を感じる必要なんてないのですのに。
そんな思いから首を横に何度も振って、ディア様に抱き着きました。
ディア様の体温が心地よくて、とても安心できます。
私はディア様に抱きしめられ頭を撫でられ、そこでやっと涙が落ち着きました。
『ふふふ、そうよね。アメリアは頑張り屋さんだけど、実は甘えん坊さんだよね。私は知っているわ。だから自分が好きになっちゃったらもう絶対に相手を裏切れないし、嫌いにもなれない。その分お願いって形でずっと甘えちゃう。私が精霊だって言っても、そのくらい分かるもん』
ずっと優しく抱きしめなだめるように言ってくださるディア様。
「そうですね、きっとそうだと思います」
私は自然と笑顔で答える事が出来ました。
それを見て安心したような表情をディア様は見せます。
『それでも、アメリアが弱り切っているのに助けられなくてごめんなさい。それでも立ち上がろうとしているのが分かっているのに、好きなのに助けられなくてごめんなさい』
「謝らないで下さい、ディア様。だって私は今心から救われています」
私の言葉に目を丸々と広げ、嬉しそうに満面の笑みをディア様は浮かべてくださいました。
『ふふふ、ありがとうアメリア。きっとこうして会う事はまたしばらく出来なくなってしまうのだけど。私は常に貴方と共にありますからね』
「はい!」
元気に答えた私を見たディア様は、今度は撫でるのを止めてぎゅっと抱き着かれました。
『アメリア、私は何が起ころうと貴方の味方ですからね。他の誰が貴方の気持ちを踏みにじろうと、私は絶対にそんな事はしないわ』
ディア様の言葉に止まった涙がまた溢れてきます。
と、急に体が軽くなります。
体を包んでいた何かが取り払われたような感覚でした。
同時にディア様のお姿がどんどん透けていきます。
「ディア様!」
『ああ、大丈夫よアメリア。本当に消えたりはしないから。でも、またしばらく会う事は出来ません。だから、どうか悲しまないで』
そうです、ディア様だって弱っていらっしゃったではありませんか。
それでも弱音を一切見せず、今だって私の心配をなさっていらっしゃいます。
言い終えるやディア様のお姿は消えてしまいました。
「ディア様、ありがとうございます。私、また頑張ります!」
もしかすると無茶をしないでとお答えになったのかもしれません。
ですが、大事なディア様をここまで弱らせた相手に対しての怒りが沸き上がってきたのです。
どうしてここまでされて黙っていられるでしょうか?
勿論逃げる事だって大事でしょう、でも、私はまだやり残している事があるではないですか。
「いざとなったら逃げるとしても、転校生さんと接触はしなければなりませんね」
口に出しますが、何故この事を忘れていたのでしょうか?
いえ、今はもう思い出しました。
ずっと続いていた出来事に強がってはおりましたが、チェリアさんとのやり取りが止めになってしまっていたようです。
それで、私は自分の心を守るために一時的に忘れていたのでしょう。
「ああ、これは夢の中でしたか」
ふと気付いた事を呟きます。
そりゃそうです、こんな真っ暗な場所なのにチェリアさんやマリベルさんははっきり見えていましたからね。
まぁ、夢だからこそ気付かなかったのでしょうけど、でも、ディア様は別です。
力を振り絞って夢の中にいらっしゃった。
ええ、きっとそうだと思います。
起きたら体は軽くなっている事でしょう。
ああ、でも起きたら私はこの事を覚えていられるでしょうか?
目が覚め体を起こします。
爽快な気分で目覚め、そのまま大きな伸びをしました。
うん、気分よく目覚められたのは体調がとても良いからですね。でも服を見れば制服のままで、そこでやっと体のベタつきを感じます。
出来ればお風呂に入りたい。ただ、それ以上に気になる事があります。
「とても大事な夢だったような気がするのですが……」
気になる事を呟きました。それでも思い出せないものは思い出せません。
とても気になりますけど、今明らかに分かる変化の方を調べましょう。
そう、信じられないほど体が軽いんです。
元々寝起きは良い方ですけど、ここまで朝から体が軽いのは初めてかもしれないくらいですね。
ベッドから起き上がり、体を動かしてみます。
うん、やっぱり絶好調です。
「あんなに体が重かったはずですのに」
昨日力尽きるように意識を失った事は覚えています。
それから何があったというのでしょうか、不思議です。
私が寝ている間に何か変わったとでも言うのでしょうか?
でしたら、ディア様が反応なさっているはずです。
そう思ってブレスレットを手に取りますが、相変わらず弱々しい力しか感じられません。
「ディア様が何かをなさったという事はなさそうですね」
残念に思いながらまた独り言をもらします。
出来ればディア様が元気になって、なんて思うのは都合が良すぎたようです。
これで私が何故急に元気になったのか謎になってしまいましたが、これ以上気にしている暇もないですね。
フランソワーヌ様が心配ですし、殿下やラクサスと話しもしたいです。
できうる限り早く転校生さんにも会いに行きたいですし。
「軽く身を整えたらフランソワーヌ様のもとへ参りましょう」
手早くまとめた考えを口に出し、部屋にあった姿見で乱れた服装や髪を整える為に歩きます。
そして、その鏡で自分の姿を見て固まってしまいました。
何故なら、私の目が薄くですが赤く発光しているように感じられたからです。
同時に、その原因についても思い当たりました。
ああ、何故すぐ気が付かなかったのでしょうか、こんなに明らかな変化があったと言うのに。
「ディア様、ありがとうございます」
沸き上がった感情を言葉にし、ギュッとブローチを胸に抱きしめます。
結局思い出す事は出来ませんでしたが、この体調の良さはディア様のおかげに間違いありません。
そして、この赤く光る目はディア様がそのお力を私に貸して下さったのだと確信します。
だから何が出来るのか今は分かりませんが、きっと私の助けになる事でしょう。
ううん、もうすでに助けになっています。だってこの力のおかげで私は元気なのですから。
ディア様、本当にありがとうございます。
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