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第1章 目覚め
※侍女達の心情変化(とある侍女視点)
しおりを挟む私がランドーク侯爵家に勤めて早15年ほどになります。
新しい当主様が奥様を迎えられる際募集がありまして、その給与の高さに集まった大勢の中から選ばれた1人が私です。
ですが、正直選ばれてしまった事を今では少し後悔しています。
旦那様はいい意味でも悪い意味でも何もおっしゃらない方で、よほどの粗相をしなければ文句も言われない代わりに突然能力不足だからと首を切ってしまわれるお方。
奥様は風のようなお方で、本当にご自分のお気持ちで発言かコロコロと変わります。
機嫌がよろしい時は何にも問題がないのですが、悪い時は何も粗相をしていなくとも怒鳴られなじられる事すらあります。
ただ、この程度なら貴族の屋敷で働くならよくある事でもありますし。
寧ろまだ恵まれている方でしょう。
何より、長男で第2子であらせられるラクサス様はとても温厚なお方で、あの方付きになれるのなら最高の環境と言いきれます。
問題は、成長するにつれ使用人達の仕事に文句を言うのが趣味のようになって来ている、長女で第1子のアメリア様でしょうか。
その愛らしい容姿に騙されそうになりますが、辛い仕事を言いつけてそれを見るのを楽しまれたり、理不尽とも言えるお叱りをするのも非常に好きなようです。
天使の皮を被った悪魔だと裏では呼んでいます。
ええ、小悪魔なんて可愛いレベルでは既にありませんから。
本当にただただ可愛らしくて天使のようだったのは、喋られるようになる前までだったと言っても過言ではありません。
結局誰かのお付きに成れるのは使用人達の中でもほんのひと握りで、大多数は誰付きにもならず仕事をし、場合によってお付きの手伝いに参上する程度でしょうか。
本当にアメリア様お付きの皆には同情しています。
続々と旦那様に言い出し、高給取りの仕事を辞めていく方もいらっしゃって、気付けばアメリア様お付きの筆頭侍女は、アメリア様のほんの5歳年上のナタリアになっているくらいですからね。
事情があって辞められない者しか居ない中、一番若くて立場の弱かった彼女に押し付けられたのでしょう。
可愛そうだとは思いますが、たかが給料が3倍程度になるくらいでは変わりたい何て思えません。
私は誰のお付きでもない、大多数の使用人達と同じ立場の1人なんですが。
若様だけ見るとほんの少しだけ残念に思えますが、ぶっちゃけ誰のお付にもならなくて良かったと思える程です。
上手く立ち回ればアメリア様の無差別攻撃も、ある程度回避出来ますからね。
しかし、まだ10歳になられたばかりでこれだと、辞められるうちに辞めた方が無難かもしれませんね。
ですが、このお給料は魅力的ですし……別に他の待遇も悪い訳ではありませんからね。
あくまでアメリア様がネックなだけですし。
やっぱり、もう少し頑張ってみる事にしましょう。
とんでもない事が起きました。
天地がひっくり返ってもないと思っていたのですが、アメリア様が変わられたのです。
それも良い方に!
何せ、私の仕事を褒めて下さったのです。
ありえません、何が起こったのでしょう?
いえ、何やらアメリア様お付きの侍女達がある日から突然騒ぎ出して、いつも死んだような目で静かにしているのに珍しいなとは思っていたのです。
内容も、徐々にアメリア様を絶賛する内容になって行き、とうとう気までおかしくなったかとなるべく関わらないようにしていました。
そのせいで、私は特に気付くのが遅れてしまったようです。
流石に私のように誰のお付きでない人達もアメリア様を絶賛し始めた辺りから、もしかすると本当なのかも? とは思っていたのですが、流石に実際に体験するまで信じられませんでした。
そのくらい本当に以前のアメリア様は酷かったですから。
だからこそ気になってアメリア様と遭遇出来そうな仕事担当の侍女と、1日だけ仕事を交換しないかと提案したりしました。
皆にけんもほろろに断られましたけど。
そうなると、もう気にするもんかと意地になってしまった私ですが。
それもあってこんなに気付くのが遅れてしまいました。
「あら、折角素晴らしい仕事に感心していましたのに、その間抜け面はなんですか。
ピシッとなさい。
貴方なら出来るでしょう?」
「は、はい!
恐れ入ります」
「はい、それで良いのです。
今後も宜しくお願い致しますよ」
柔らかく微笑むアメリア様。
以前の目を釣り上げ見下すようなところとまるで違い、本当に慈愛に満ちていらっしゃるように感じてしまいます。
本当にあのアメリア様なのでしょうか?
いえ、でもこのプライドの高そうな面はお変わりないようですし、本当に何が起こったのでしょう?
そのままナタリアをともない去っていかれるアメリア様。
ああ、もう最近は皆の会話にも入ろうとしていなかったのですが、これは今すぐにでも集めて話したいです。
実は未だに半信半疑ですので、情報が欲しいのもあります。
既に仕事終わりが待ち遠しくて仕方ありません。
とは言え、手を抜くなんて出来ませんね。
元々いつアメリア様や機嫌の悪い奥様につつかれるか分からないと頑張っていましたが、なんだかモチベーションが違う気がします。
アメリア様が激変されてから早2年。
本当に侯爵家にお使えできて良かったと痛感しています。
旦那様こそ相変わらず全く掴めないのですが、それでも突然首になさる真似はされなくなりましたし。
奥様も自由と言えば自由のままですが、周りに当たったりは殆どされなくなりました。
ラクサス様は相変わらずお優しいですし。
何よりアメリア様のお世話が出来るのが嬉しくて仕方ありません。
昔の私が聞いたらきっと今の私の言葉に正気を疑うでしょう。
そう思うくらい、私の気持ちが変わった事を自覚しています。
それが良い事か悪い事かは分かりませんが、だって仕方ないではありませんか。
常に努力されているお姿にを見ていると応援したくなります。
私達など1使用人なはずですのに、誰が相手でも顔を合わせればほんのわずかな体調の変化ですら気付いて下さいます。
高い仕事結果を求めていらっしゃいますが、それを私達が出来ると信じて下さっていますし、私の自慢の1つですとまでおっしゃって下さいます。
そんなアメリア様をお慕いせずにいられますでしょうか?
少なくとも、私はアメリア様を大好きになってしまいました。
お給料を頂く瞬間より、アメリア様が笑顔でお褒め下さる瞬間の方を心待ちにしてしまう程に。
勿論変わりすぎについて行けなかったり、合わずに辞めていった人も数人いましたが、それはほんの1部の例外と言い切れます。
どんなに素敵な方でも、万人に好かれるのは不可能と言う事でしょうね。
そう言えば、心配な事があります。
それは、精霊様に愛されすぎて何と家までお連れになってしまわれた事です。
それ自体が誇らしく同時にもし心無い者にバレたらと不安で仕方ないのです。
少なくともこの屋敷にそんな不届き者はいないのですが、精霊様は奥様どころでは無い程気まぐれな存在と聞いています。
アメリア様の精霊様はそう言う部分を今のところお見せになっていませんが、アメリア様以外どうでも良いと思われている節は感じますし、どうなるか分かりません。
アメリア様を大切に思われているからこそ、今のところ屋敷の者以外の目があるとお姿を隠されますが、だからこそご不快に思われたらと思ってしまうのです。
勿論、アメリア様の危機を救うためでしたら致し方ないと思うのですけどね。
ああ、思わないようにしていたのですが、もうすぐアメリア様が学園に入学されてしまいます。
つまり、お付きでない私達は長期休暇でご帰宅なさって下さる時以外は、お会い出来なくなってしまうのです。
喜ばしい事ですのに、残念でなりません。
どうか、アメリア様に取って良い学園でありますようにと、そう願わずにはいられませんね。
そう言えば、精霊様が漠然とアメリア様にご注意なさるように注意されていたとお付きの侍女達が言っていた事を思い出してしまいました。
精霊様とお気に入りになった人との間には心の繋がりが出来ると言いますし、時折り精霊様が周りにはよく分からない事をおっしゃい、でもアメリア様は理解される事は多かったですね。
今回も明確に言葉に出せる程ではないらしいですけど、真意は伝わっていると心配して聞いてきた侍女に答えていらっしゃいますし。
って、大失敗ですね、ますます心配が膨らんでしまいました。
これはもう何度も何度も口にしていますが、ナタリア達にくれぐれも宜しくと改めて言わねばなりませんね。
彼女達は皆に言われてだいぶうんざりしているようですが、それもこれもアメリア様を独占しているのが悪いのです。
さぁ、それでは一息付けましたしまた仕事を頑張りましょう!
運良くアメリア様に見て頂いて褒めて頂ければ最高ですし、そうでなくても絶対力を抜く何て事は出来ません。
頑張りますよー!
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