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おまけ!
しおりを挟むとうめいと分裂体は一匹ずつ、牧場とマシュー達との間を行き来するようになった。
今日マシュー達はとうめい本体を連れて来たので、分裂体のうち一匹を連れて帰る。
とうめいは仲間と分裂体達がいる区画に到着すると柵の中に飛び込んだ。
「……! 」
元は同じ個体だったからか、とうめい達は触れ合うと情報交換が出来るようだ。
そのため一匹が牧場に戻って来ると、とうめい達はツンと触れて合って交信する。
「! 」
「! 」
交信が終わるととうめい達はハイタッチし、分裂体はぴょんとマシューに飛びついた。
「ところでとうめいは寒くても平気になったのに、その魔水晶を持ったままでいいの? 」
「……! ……! 」
とうめいは体とマシューを示して何かアピールしている。
「マシューが作ってくれた物だから持っていたいんだって」
「……! 」
ヴァージニアはいつものようにとうめい達にペチペチと拍手された。
「……ジニーは何で分かるの? 」
「何でだろうねぇ」
エルフには小物同士だからと言われたが、実際の所は未だに不明だ。
「ああそうだ。ピンクちゃん、ジェーンさんは週末に来るって」
「! 」
ピンクちゃんは嬉しそうにぷるりと震えた。
「よし! とうめいの交代は済んだから、アチチのところに行って、その後にオルルとトロロのところに行こう」
「! 」
「みんなまたねー」
とうめいはグリーンスライムの亜種として学会で発表された。
その名もトウメイグリーンスライムだ。
「他のとうめい達は元気かな? 」
「とうめいの事だから大丈夫でしょう」
「世界中のとうめいに会いたいなぁ」
「流石に全員は無理じゃない? 」
「魔力探知を使えばいけるよ」
と言っても早くも分裂体達の中にはとうめい本体と違う性格になっている個体が出てきているそうだ。
これはとうめい本体と接触する機会がない遠い地域にいる個体に多いらしい。
なのでマシューに会っても好意的でないかもしれない。
「とうめいのレンタルは上手くいってるのかな? 」
現在はお試しということで、とうめいと面識のある人々、南ノ森町のギルドやケヴィンのパーティやヴァネッサのパーティに貸し出されている。
「何かあったら連絡があると思うよ」
「便りがないのが良い便りってやつだね」
ヴァージニア達がレッドスライムのアチチの区画に到着すると、アチチは火の粉を出して虫を退治していた。
「アチチー! 」
「! 」
アチチはパン屋のおじさんから焦げたパンを貰ったようで、マシューに見せている。
レッドスライムの食事は炎と炭と灰なので、こういった焦げたものも食べるのだ。
「ハッ! もしやコロッケのパン粉はおじさんのお店にお願いしろっていうメッセージかな? 」
「……ただの報告じゃないかな? 」
いつものようにヴァージニアが正解のようだ。
アチチは焦げたパンを丸飲みにした。
「なぁんだ」
続いてヴァージニア達はオルトロスがいる羊舎に移動した。
事前に連絡してあったのでオルトロスが待機していた。
「ワフー! ワフー! ワーワフ! 」
「マシューとジニーととうめいって言ってるね! 」
オルトロスは思い切り尻尾を振ってマシューの来訪を喜んでいる。
彼らはたまにチラリとヴァージニアを見るが、マシューに撫でられるのに忙しいのか近寄って来ない。
(よかった。涎まみれにならずに済む……)
とうめいの分裂体は自ら進んで涎まみれになりに行っていた。
とうめいの分裂体は世界中にいる。
そのため、とうめいから知り合いだと思われている人は、分裂体達に匂いや気配を察知されて取り囲まれてしまう。
この人も旅先で緑色の丸い奴らに懐かれて注目の的になったそうだ。
「――ってことがありましてね。本当に大変でしたよ」
ヒューバートは局長や先輩秘書達に旅行先で購入した土産を配布していた。
「ちゃんとデータは取りましたか? 」
「ええ、休暇中になのに何故と思いながら個体差を調べましたよ。すでにグリーン氏に送ってあります」
グリーンは通信機越しでも分かるくらい大層喜んでいたそうだが、どこか疲れている声だったそうだ。
「あ、今はスライム研究者になりたい人が増えているそうですね」
増えていると言っても人気のある学問と比べたらまだ少ない。
そのためスライム学者は各地から届くデータを対応し切れていないらしい。
各所から応援が派遣されているが、まだ猫の手も借りたいそうだ。
「消費期限の早い物から食べちゃいましょう」
「お茶とコーヒーどちらがいいですかね? 」
「……楽しそうなところ申し訳ないのですが、休憩にはまだ早いですよ、皆さん」
局長はいつもの作り笑顔で対応するが、皆は異国の珍しい菓子の目の前にして手を止めることはなかった。
「どれも高価格帯の商品なのにどの店舗でも売り上げが上がってるわ……。流石ね……」
ファッションデザイナーのジャスティンは各店舗からの売上報告書を見て目を丸くしていた。
そんな彼の前には黒髪の美青年が椅子に腰掛けている。
「まあね」
長い足を組んだマシューはフフンと鼻を鳴らし上機嫌だ。
「この調子でどんどんいくわよ」
ジャスティンは創作意欲が溢れ出して大変なのだそうだ。
現に今も紙に何かを書き続けている。
「お金をくれるなら多少無茶な要求にも応えてあげるよ」
「やぁねぇ。そんなに無茶なこと言ってないでしょう」
「儚い感じとか獲物を見つけた時みたいにとか訳分からないからね。あと面白くもないのに笑うとか、悲しくもないのに悲しそうにするとかさ。これがマシな方だって言うから驚きだよ」
「あら、分かりやすいじゃないの。もっと抽象的な指示を出すカメラマンだっているのよ? 」
「あれより? 嘘だぁ」
マシューは文句を言いながら西都にあるコロッケ店で買ったコロッケを食べている。
「飽きないのねぇ。こっちが胃もたれしちゃいそうよぉ」
「ここのは油がさっぱりしているからいくつ食べても平気だよ」
「年を取るとそれでも気になっちゃうのよぉ」
ジャスティンはため息を吐きながらもデザインを書く手は止めない。
マシューはただただ感嘆して見ているのだった。
マシューとヴァージニアは地竜がいる無人島にやって来た。
もちろんとうめいも一緒だ。
「! 」
「! 」
とうめいとサンドスライムのジョリジョリは再会の挨拶で触れ合った。
前回のようにとうめいは水分を取られ、ジョリジョリは水分過多で倒れた。
「水水! 」
「砂砂! 」
二人は二匹に必要な物をかけて復活させた。
「何やってんだか……」
そんな二人と二匹を見て地竜は呆れているらしく、ため息を吐いた。
「今日はお一人なんですね」
「まあな。あいつはあいつの住みやすい所にいるのだろう」
「雷が起きやすい所ですか? 」
「どうなんだかなぁ。あいつがいるから雷が起きるのか、起きやすいからいるのか……」
「卵が先か鶏が先かみたいな話になっちゃう……」
ここで地竜は何かを思い出したようで、大きな目をパチリと開いた。
「そういや、良い場所を見つけたと言って長いことその場所から動いていない奴がいるな。元は人間の国だったらしい」
その龍は当然ながら、あの時火山島に集合していない。
「どの辺の国ですか? 」
ヴァージニアは龍が住んでいる国なんて素敵だなと思っていた。
しかしそんな国があったらとっくに有名になっているはずだ。
「ジニー、違うよ。地竜さんは国だったって言ったじゃない」
「ああそうだ」
「亡国ってことですか? 国が滅びたところ……」
ヴァージニアは何処か思い出そうと頭に世界地図を浮かべていると、先にマシューが思いついたようだ。
「前にジニーがそんな話をしていたような? えーっと人間に殺された龍の呪いがどうのって」
マシューがこう言うと、地竜がピクリと反応した。
「殺された? 龍が人間にやられたなんて聞いたことないぞ」
ヴァージニアとマシューは地竜の土臭い息を全身に浴びた。
「え? ですけど、そこに人間が近づくと精神がおかしくなるという噂を聞きましたよ」
「そりゃそいつが呪いの龍だからだ。少し前に会ったとき、ちょいちょい人間がやって来るから楽しいと言っていたぞ」
肝試しだか度胸試しだかで年に何人もの人間がその龍の住処に行くらしい。
呪いの龍は自分の住処に人間がやって来たので、挨拶代わりに呪っているだけのようだ。
「えええ……」
「死んだ龍の呪いじゃなくて、呪竜さんだからかぁ。なぁんだ」
マシューは雷竜と地竜を間近で見たので、龍が人間によって倒されるなんてあり得ないと思っていたそうだ。
「変だと思ったんだよね。おっとりしてる綿竜さんだって人間には倒せないと思うよ」
「まぁ、あやつの毛に火を放っても表面が焦げるぐらいだろうしな。……お、噂をしたら来たようだぞ」
地竜が見ている方をヴァージニア達も見ると、白いモコモコが近づいて来ていた。
皆が見守る中、綿竜は静かに着陸した。
「皆さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「何の用だ? 」
「特に用はないんです。決して風に飛ばされたとかではないですよっ」
綿竜は相変わらず嘘をつけないようだ。
「近くに来たらお二人の気配、いえ、マシューさんの気配を感じたので立ち寄っただけです」
ヴァージニアは何故言い直したのだろうかと思い、じとりと綿竜を見つめた。
だが綿竜は気付いていない。
「僕に会いに来てくれたんだね」
「ええそうですよ。会って何かするのではないですけどね」
「会話するだけでもいいと思うよ」
「そうですよね。お話しするだけでもいいですよね。それなのに風の龍さんはいつも私の毛をいじくるのです。失礼ですよねっ」
風竜は綿竜の毛を面白いと思っているらしく、度々弄られてしまうそうだ。
「それで今回も飛ばされちゃったんだね」
「ち、違いますよ! くしゃみは浴びてませんからねっ」
「じゃあ咳かな? 」
風竜は綿竜の毛を堪能しているうちに、毛の一部が喉に入ってしまったのだろう。
「な、何故それを? 見てたんですか? 」
「うわ、今日もばっちぃのか」
地竜は露骨に嫌そうな顔をしている。
ヴァージニアはモコモコに埋もれる前に聞いておいてよかったなと思った。
「じゃあ僕が水の魔法で洗ってあげるよ」
「ううっありがとうございます」
水が得意でない地竜とジョリジョリは別の場所に移動した。
ヴァージニアととうめいはその場に残り、綿竜の洗髪? を見守ることにした。
(そう言えば風竜さんってどんな龍なんだろう? )
ヴァージニアは風竜のくしゃみの被害に遭っているので文句を言いたい、という訳ではないが、どんな龍なのか見てみたかった。
(気まぐれらしくて挨拶に行ってもいなかったもんね)
風竜も妖精女王の念話を聞いてアンデッド討伐に参加していたらしいので、ヴァージニアはマシューと共に礼を言いに行ったのだ。
しかし他の大きな力を持つ者達には会えたのに、風竜だけは見つけられなかった。
マシューも会ったことがないので気配を探せないそうだ。
ヴァージニアは綿竜なら居場所を知っているのだろうかと思いモコモコに視線を向けると、今はモコモコでなくなっていた。
「わわわー」
綿竜はマシューの水の魔法によってかなりボリュームダウンして骨格が分かるようになっていた。
随分とほっそりとして別龍のようだ。
「! 」
いつの間にかとうめいも洗髪? に参加していたが、とうめいには毛がないのでただの水浴びである。
マシューは綿竜の全身を洗い終えると、水分を除去して乾燥も行った。
「……! 」
とうめいはマシューの水魔法と、綿竜に付着していた風竜の唾を吸収したので一段とツヤツヤしている。
「なんだかスッキリしました! ありがとうございます! 」
「どういたしまして」
綿竜は先ほど見た時よりもふっくらとしている。
この毛に埋もれたら安眠間違いなしだ。
「いいなぁ」
現在、綿竜の抜け毛はジェーンが所持している。
きっと彼女は良い睡眠時間を過ごしていることだろう。
ヴァージニアは綿竜の毛に埋もれた時を思い出し、羨ましく思った。
ヴァージニアはマシューと一緒に秘境に魔境、呼び名のない土地とあちこちに行った。
当然その分だけ年月が経過した。
「ねぇ、ジニー。気付いてるよね? 」
「……何に? 」
「年を取らないってことに」
ヴァージニアは五年経過したぐらいから、周りとの差を感じ取っていた。
そして十年経過してから確信に変わった。
彼女は皆に取り残されている気がして、なんとも表現しにくい感覚に陥っていた。
「いやいや、ジェーンさんみたいな感じで、エネルギーが満ちあふれているから老化が遅いだけでしょ」
「ジェーンさんは超人ってやつだよ。ジニーは普通の人間だよ。元は」
「じゃあキャサリンさんみたいに変身魔法で若さをキープして……」
「ジニーはその魔法を使ってないよね」
「じゃあ実はリチャードさんみたいにエルフの血が流れてて長命とか」
「違うから。先に言うけどジョーさんのように活力が漲ってるからでもないよ」
「えー……」
それではこの他の理由で年を取るのがうんとゆっくりなのだろうか。
「あら? じゃあジニーは私達と沢山お喋り出来るのね! 」
こう言ったのは雷鳥である。
二人は雷鳥の背に乗せて貰い、天空ジャガイモの様子を見に来ていた。
転移魔法で行かなかったのはただの気まぐれだ。
「せっかく人間と仲良くなって会いに行っても、いるのは孫や曾孫なんだもの。嫌になっちゃう! 」
「え、そんなに長生きするんですか。私」
「ははは、雷鳥さん聞いた? ジニーったらまだ長生きとか言ってるよ」
「長生きとかじゃないのにねー! クスクス」
ヴァージニアが目眩がしたのは高所にいるからではないだろう。
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いったん終了します
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