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三日間の過ごし方!
しおりを挟むジェーンは入院九日目から歩行訓練を始めたそうだが、彼女が予測していた通りすぐに歩けたとのことだ。
だがいきなり走るのは許されず、歩いたり軽い運動をしただけだそうだ。
「ジェーンさん凄い! あんなひどい怪我をしたのにすぐに治ったんだね! 」
現在マシューはジェーンと通信機で会話中だ。
「治療した人達が凄いのよ。ジェイコブの応急処置もよかったみたいだしね」
「皆凄いね! 僕ももっと色々覚えないと! 」
マシューはニコニコとご機嫌だ。
先ほどまでジェイコブとのスモーの稽古でヘトヘトだったとは思えない。
(マシューが回復魔法が出来ないって分かった時どうなるんだろう……)
マシューが出来ないと決まった訳ではないが、マシューの母親が苦手だったそうなので可能性は高い。
だが出来ない理由は別にあるとヴァージニアは考えている。
(出来ない……不可能……駄目とかあり得ないとか……)
ヴァージニアは言い換えたら分かるかもと思ったが何もピンと来なかった。
(予想外の理由だったら分かりようもないよねぇ)
ヴァージニアは考えても分かるはずがないのに、いつも考えてしまうのが嫌になった。
彼女はキャサリンが駄目ならリチャードに聞こうかと考えたが、彼はキャサリンが言っていないならと断りそうだ。
「自分でご飯が食べられるようになったんだね。うんうん。グミも食べたんだ。他にも何か買っていく? 」
「キャサリンさんに許可をとってからだよ」
「何がいいの? ポテチ? 」
これは確実にマシューが食べたいだけである。
「甘いのがいいんだね。ハッ! 僕クレープ作れるよ! 」
「え、キャサリンさんに絶対駄目って言われるよ」
クレープだと結構な量になるし、何より持って行き辛い。
「駄目かぁ……。じゃあ金平糖とグミにするね」
この二つなら持って行きやすいし、口に運びやすいだろう。
と言うわけで二人は金平糖とグミを買いに行った。
翌日、ジェーンの入院十日目、マシューは再び女装をした。
キャサリンに貰ったチョーカーとつけたので、完全に女児のようだ。
ただし動かなければである。
「あーあー、どうかしら? ちゃんと女の子が喋っているみたいに聞こえるかしら? 」
「さっきも確認したから声と喋り方は大丈夫だよ。ただもうちょっと歩幅を小さくしてね」
マシューの動きはやんちゃな男児そのもので、今の見た目とは全く合わない。
見た目と動きが合っていなければ違和感がありまくる。
「女の子は大股で歩かないのかしら? 」
「歩く子もいるけど……」
ヴァージニアはマシューにもう少しお淑やかな動きをさせたいが、どう教えたらいいのか分からない。
「次回からは大人しそうな子じゃなくて活発そうな子にしよう! うん、絶対に可愛いに決まってる! 」
マリリンは次回何を買おうかと嬉しそうだ。
なお、今回も彼女の手によってマシューの髪型はお洒落になっている。
ヴァージニアには何がどうなっているのか不明だが、編み込まれているように見えた。
「私は可愛くなくていいのよ。それに次回はなくていいのよ」
「ええー。……あ、そうだ。キャサリンさんの代わりに写真を撮っておかないと……」
これは後ほどジャスティンに送られる。
彼の創作意欲を湧かせるためだ。
マリリンは何回もシャッターを切るのでジェイコブは驚いていた。
「娘さんにも大好評みたい。いいピアノが弾けるって! 」
「……それはよかったわね」
マシューの他の三人も変装をして病院に向かった。
「あらいらっしゃい。四人ともいつも変装して大変ねぇ」
四人はジェーンに挨拶をした。
「マスコミにジェーンさんの知り合いだって目をつけられないためなのよ」
「フフッ、可愛いわねぇ」
マシューはマリリンの手によって沢山の飾りがついた服を着せられている。
「そんな事を言うジェーンさんにはおやつあげないわよ」
「あ、こちらがご所望のものです」
荷物はヴァージニアが持っていたので、ジェーンに渡した。
それを見てマシューはしまったという顔になった。
「嬉しいわぁ。本当にありがとう」
早速ジェーンは金平糖を口に入れた。
彼女はすぐに噛まずに口の中で転がしているようで、小さくコロコロという音がする。
「私が毒味しようと思っていたのよ」
「マーサちゃんありがとう。だけど私は解毒の魔法が出来るから大丈夫よお」
「ね、念のためなのよ……」
素直に食べたいと言わないマシューである。
「ふふふ、大丈夫よ。ああそうだわ。手の運動にいいと思って編み物をしたんだったわ」
「編み物って結構筋肉を使いませんかね……」
編み物をして腱鞘炎になる人もいる。
だがこれは長時間やった人がなるのかもしれない。
「そう? 私は全然平気よ? それでね、早速セーターが出来たの」
「え、早っ」
そう言ってジェーンが指さした先にあった袋をマシューが開けると、中から子ども用のセーターが出てきた。
そのセーターには複数の丸い模様がある。
「これってとうめい達よね。あ、ピンク色のもいるわ! 」
セーターの胸元には緑と青とピンクのスライム達がずらりと並んでいた。
なかなかインパクトのあるデザインだ。
(なるほど、これがジェーンさんのセンス……)
子どもが着ているなら可愛いだろうが、大人が着たらネタか何かだと思われるだろう。
キャサリンが以前言った通りだ。
(ジャスティンさんとは別の意味で忘れられないデザイン……)
マシューが大変喜んでいるので、ヴァージニアは微笑んでおいた。
ジェイコブとマリリンも同じように思ったようだ。
そのまた翌日、ジェーンの入院十一日目、マシューはギルドの一室でリチャードと話をしていた。
二人の会話は当然美味しい物である。
「ジャガイモは何にでも合う素晴らしい食材です」
「何にでもなれるし凄いよね! 」
ヴァージニアはこの二人の言葉を何度も聞かされてうんざりしていた。
決まり文句のようになっているのだ。
「あの、リチャードさんマシューに補助魔法を教えて頂けると嬉しいのですが……」
キャサリンは忙しくてマシューの指導が出来ないそうなので、代わりにリチャードに指導役をお願いしたのだ。
というかこれはキャサリンからの指示である。
「そうでしたね。ちゃんとやらないとキャサリンに怒られてしまいますもんね」
「お願いします! 」
「いいお返事ですねぇ。これだけで合格ですよ。では美味しい料理の話をしましょう」
「やった! 」
二人のやり取りをヴァージニアがジロリと見ていると、リチャードは流石にまずいと思ったのか咳払いをしマシューに指導を始めた。
リチャードはヴァージニアは理解出来ない話をしているが、マシューはふむふむと聞いている。
「まぁ、要するに道を作るんですよ」
「蜘蛛の巣みたいにでしょ」
「そうです。それを投網のように広げてですね……」
その網に魔法を乗せるらしい。
ヴァージニアはなんのこっちゃと首を捻った。
(そうだ。場所を入れ替える練習をしよう。私と他の人は出来るから、私と物をね……)
ただしヴァージニアが愛用している物とだ。
彼女はいきなり何の関わりもない物と場所を入れ替えるのは無理だと判断した。
これは彼女が元々物を移動させるのが苦手だからである。
(人間で出来るならいけると思う)
と思ってやってみたヴァージニアであったが見事失敗した。
何も変化がなかったのだ。
「ジニーがハンドタオルと睨めっこしてるよ」
「不思議ですねぇ」
二人ともニコニコしている。
その笑顔にヴァージニアはイラっとした。
「もしかして転移魔法させようとしてるのかな? 」
「かもしれませんねぇ」
二人はヴァージニアに聞こえないようにヒソヒソと話しているらしいが、彼女の耳にしっかりと届いていた。
(家に帰って練習しようかな……)
ヴァージニアはハンドタオルを鞄の中に入れた。
(二人の集中力を削ぐのもよくないし……。いや、私がいなくなったら二人は魔法の特訓をしなくなるかも……)
ヴァージニアが二人を見ると特訓をしている風を装った。
やはりヴァージニアは帰らない方がいいようだ。
なので仕方なくヴァージニアは場所の入れ替えの練習を再開することにした。
(私と物が無理なら、人間同士でやってみたらどうかな? )
ヴァージニアはリチャードとマシューで試してみることにした。
(断りを入れた方がいいかな……。まぁ上手くいかないだろうからいいか)
ヴァージニアは試してみる前に二人を凝視して、二人がいる場所が入れ替わるのを想像した。
「ジニーが僕達を監視してる……」
「しっかりやらないとですねぇ」
ヴァージニアは何度かイメージトレーニングしたので、早速やってみようとした。
当然ながら上手くいかなかったのだが、これはヴァージニアのせいではない。
「ヴァージニアさん、今私達に魔法をかけようとしました? 」
「そうだよね、ジニー何かしようとしたよね! 」
二人はヴァージニアに向かって歩いてきた。
リチャードは先ほどまでにこやかだったのが嘘かのように真顔になっている。
それに対しマシューはワクワクとした顔である。
「すみません。二人がいる位置を交換しようとしました」
リチャードの表情に気圧されてヴァージニアはすぐに白状した。
「なるほど。貴女は転移魔法のみが得意だと聞いていたので、どんな魔法かと思いましてね。貴女自身が移動するだけだと思っていたので、警戒してしまいました」
リチャードはいつもの笑顔に戻った。
彼はヴァージニアが魔法を発動したのを感知して発動しないように打ち消したらしい。
これは通常の転移魔法でも有効なのはもちろんのこと、他の魔法でも可能だそうだ。
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