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病院の待合室!

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 マリリンとヴァージニアとマシューがジェーンの荷物を持って、話が聞けそうな病院関係者を探していると、ちょうど一人の女性が三人に近づいて来た。
 格好からすると病院のスタッフだろう。

「ジェーンさんの関係者の方ですよね。ご案内いたします」

 女性はジェイコブに頼まれて三人を迎えに来たそうだ。
 皆は救急処置室の横を通り過ぎ、エレベーターに乗った。
 もしやマシューは初エレベーターなのではとヴァージニアが思っていると、やはりそのようで彼は戸惑っていた。

「謎の部屋……謎の小部屋……」

 密室に閉じ込められたのに、マリリンもヴァージニアも変わりないのでマシューは一人でブツブツ言っていた。

「これはエレベーターって言って、行きたい階に行ける上下する乗り物だよ」
「ふぅん、魔法で移動すればいいのに」

 マシューは変な部屋に不満げに唇を尖らせた。

「色んな患者さんがいらっしゃいますので、魔力をあまり使わない方法で移動するんですよ」
「怪我や病気が悪化しちゃったりするの? 」
「はい。魔法が原因の怪我や症状だとそうなる場合もあるんです」

 女性が言い終わると目的階に到着したのかベルが鳴った。
 エレベーターの扉が開くとジェイコブが立っており三人を出迎えた。
 そんな彼は少々どころか大分疲れた顔をしている。

「では、私はここで失礼致します」

 皆で女性に礼を言い、待合室に移動しソファーに腰掛けた。

「まだ手術が終わってないんだ」
「そんなにジェーンさんは酷い怪我をしたの? 」
「……ところでこの子はマシューでいいんだよな? オーラがそうだから、そうなんだよな? 」

 ジェイコブは周りに聞こえないように声を潜めて確認した。
 今のマシューは眼鏡をかけた金髪のツインテール美少女なので、ジェイコブが疑うのも無理はない。
 現在疲労困憊なら尚のことだ。

「……アタシはマーサだよ」

 これはマシューの女装時の偽名ある。
 なお変装の指示はキャサリンからだそうだ。

「うん、分かった。マーサだな。ああ、ジェーンさんは両手足を骨折したんだが、かなり酷い折れ方だった……。いや、あれは骨折でいいのだろうか……」

 ジェイコブが応急処置をしたそうだが、回復の専門家ではない彼の回復魔法で得られる効果はたかが知れているので、止血や痛みを和らげることしか出来なかったそうだ。
 ヴァージニアからしたらそれだけでも凄いのだが、ジェイコブは唇を噛んで悔しそうにしていた。

「ねぇねぇ、骨折を治す手術ってこんなに時間かかるの? 事故が起きてから結構時間経ってるよね? 」

 確かに病院には回復魔法が得意な人々がいるはずなのに、随分と時間がかかっている。

「手足だけじゃなくて他も骨折してたかもな。それに粉砕骨折とか複雑骨折だったから時間がかかっているのかもしれない」

 粉砕骨折と複雑骨折が分からないマシューのためにマリリンが説明した。

「粉々と骨が飛び出て……! あわわっ」
「手足の原型がなくなっていた。俺は魔法でジェーンさんの……。ここから先はマーサは耳を閉じてた方がいいぞ」
「けど、ぼ……アタシ、耳がいいから……」

 マーサことマシューは事件の一部始終が気になるらしい。

「まぁ、魔法で集めたんだな」

 ジェーンの体に戻すために腐敗等の傷みを阻止する魔法もかけたそうだ。

「ととと、飛び出たやつ? はわわー」
「飛び散ったの方が正しいな」

 マリリンとヴァージニアは小さくヒッと声を出した。

「わわわ。……ジェーンさんでもそんなことに」

 マシューも顔を青くしている。

「俺もジェーンさんに能力付加の魔法をかけたし、ジェーンさん自身も身体強化魔法を最大限にまでやってたのにだ。クソッ……」

 ジェイコブの拳に力が入って、色が白くなった。

「だってあんなに大きくて重たい物だもの……」
「分かっているが、もっと何か出来たはずだと思ってしまう。だが、ジェーンさんの指示は最低限守れたと思う」

 こう言いつつもジェイコブはまだ悔しげな顔をしている。

「指示って? 」
「私以外の人や物を傷付けるな、だ」
「ええっ? ジェーンさん以外にも魔法をかけたの? それでこんなに魔力量が少なくなってるのね」

 マリリンは驚きの声を上げた。
 ヴァージニアはテレビで負傷者が何名とは言っていなかったのを思い出した。
 ジェーン以外は誰も怪我をしなかったのだ。

「これでも回復したんだがな」

 ヴァージニアは鞄から魔力回復薬を出してジェイコブに渡そうとしたが、笑顔で大丈夫だと言われて返された。

「いいの? 」
「ああ。いざとなったらマーサから分けて貰う」
「今分けてあげるよ。……やり方わからないけど」

 マシューは前にお金持ちのお坊ちゃんの時にやったはずだが忘れているらしい。

「いや、前に依頼でやっただろ……」
「アタシ、嫌な事は忘れるタイプだからさ」

 マシューの表情からすると本当に今まで忘れていたが、ジェイコブに言われて思い出したようだ。

「マーサにとって嫌な事だったってのは覚えてるんだね」
「……えー何のことー? 」

 ヴァージニアに言われ、マシューはフフフと笑いながらジェイコブに魔力を分けた。
 そんな彼を見てジェイコブとマリリンは苦笑していた。

「ところで、その大きな荷物ってジェイコブのなの? 」
「いや、ジェーンさんのだ。列車に立ち向かう前に渡されたんだ」

 こう言いながら、ジェイコブは袋を少し開けて中身を見せた。
 すると中には色とりどりの毛糸が山ほど入っていた。

(私達にマフラーとかを編んだから編み物の製作欲が再燃したのかな? )
「えっと、確かこの町には大きな手芸店があるんだっけ? 」
「しゅげー! 」

 マシューは定番のギャグを言ったが、状況が状況なだけに皆の反応は薄かった。

「ああ、そのようだ。……俺がどうやって列車を減速させるかや海に道を作るか考えていたら、気配もなく背後から声をかけられてな」

 そしてジェーンに先ほどの言葉を言われたそうだ。

「どうやって止めたの? 教えて教えてっ」

 マシューはジェイコブに接触感応サイコメトリーさせてくれとせがんだ。

「んー、俺だと自然にブロックしてしまうから接触感応サイコメトリー出来ないと思うぞ。悪いな」

 ジェイコブは通常時ならブロックしないように出来るが、今の状態だと無理だそうだ。

「あ! 事故現場に毛糸もあったなら、毛糸からなら読み取れるんじゃないかな? 」
「やってみる! 」

 マシューはマリリンの言葉通りに毛糸から情報を読み取るために接触感応サイコメトリーした。

「…………あわー! 」

 接触感応サイコメトリー開始から数十秒後、マシューはあまりに衝撃的だったのか毛糸を離して仰け反り、ヴァージニアは慌てて毛糸を受け取った。

「マーサちゃん、どうだったの? 」
「ジェーンさんね、ハッキヨイって構えてた! 」

 マリリンとヴァージニアにはそれがなんなのか分からなかったので、ジェイコブに助けを求めた。
 彼によると、東の島国に古くから伝わる格闘技だそうだ。
 ジェーンはその格闘技も学んだのだろう。

「あれなら受け止められるね! 」

 マシューもジェーンからその格闘技を教えられていたようで、それらしき動きをやっている。
 それも毛糸が入った袋に向かってやっているのでガサガサといって少々うるさい。
 なのでヴァージニアは毛糸を戻すふりをして彼から袋を遠ざけた。

「あの方法で出来るのは人間ならジェーンさんぐらいだろう……」
「地竜さんなら? 」

 マシューは目に沢山の星を浮かばせて言ったが、ジェイコブは地竜に会ったことがないので質問されても分からない。

「え……、龍なら片手でいけるんじゃないか? 体も巨大だろうし体重もあるだろうし……。なんなら持ち上げられるかもな」
「そうだね! とっても大きいからね! 」

 龍達なら普通に魔法を使えば容易に止められるだろう。

「けど体が大きいと他の建物にぶつかっちゃうね」
「んもう! もしもの話だよ! 」

 マシューは興奮しているのか、ヴァージニアの現実的な意見に一段と大きな声を出した。
 おかげで待合室にいる他の人々からチラリと見られてしまった。

「マーサちゃん、病院だから静かにしようねー」
「ごめんなさい」

 マシューは他の人々にペコリと頭を下げた。

「そういえば、キャサリンさんは? ひょっとして手術に立ち会ってるの? 」
「いや、キャサリンさんは事故の調査と処理に行ったらしい。手術は元々この病院にいる医者と術者が執刀している」

 キャサリンはこの病院ならジェーンを治せると判断したようだ。
 もしそうでなければ何処かから適任者を呼ぶだろうし、自ら魔法をかけるだろう。

「そのキャサリンさんは、今こっちに近づいている気がする……」
「本当か? まだマ……マーサの魔力が馴染んでないのか感知出来なかった」

 四人で廊下を見たら数秒後にキャサリンが登場した。
 そのキャサリンは四人がじっと見ているのでたじろいでいた。

「な、何よ、みんなして……」
「荷物持って来ましたので、一応確認してくださいますか? 」

 マリリンに促され、キャサリンは荷物が入った袋を覗いた。

「ええ、これで大丈夫よ。足りなかったら現地調達するしね。ありがとう」
「お金持ちの発言だ」

 マシューはマリリンとヴァージニアの会話や大切そうに扱っているのを見て、高級品だと理解している。

「いいでしょう別に。経済回しているのよ」
「アタシも早く経済回したいなあ」
「どうせ貴方はすぐ食べ物に使っちゃうでしょうに……」

 誰もがその姿を想像出来るので、皆は微笑んだ。


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