151 / 312
特訓2日目!
しおりを挟む今日もマシューはキャサリンから特訓を受ける。
ヴァージニアは今日からマシューの着替えを持って来たのだが、これは本日からより本格的な特訓になるので彼の服が汚れると考えたからだ。
さらにヴァージニアも特訓に参加する方向のようなので、汚れてもいい格好をしてきた。
しかしそんな二人に対してキャサリンは、今から何かの撮影でもあるのかと思うような格好をしていた。
「さあ、今日もやるわよ。最初は昨日の復習よ」
キャサリンの化粧は服の色に合わせたようで、昨日と違う化粧品を使っているようだ。
ヴァージニアはこれも新商品かなと思った。
「押忍っ! 」
マシューはそんなのは気にもせずに元気よく返事をしたが、キャサリンは気に入らなかったらしく眉がピクリと動いた。
「ちょっと、私はジェーンじゃないんだからやめてよ」
キャサリンは言い終えると同時にマシューの顔面を目がけて風を飛ばした。
マシューは反射神経がいいので回避出来たが、ヴァージニアだったら直撃していただろう。
「わーっ! キャサリンさん指をシュッってやってないのに攻撃してきた! 」
「あら、ごめんなさいね。今日からは合図はなしよ」
マシューがキャサリンを睨みつけるので、ヴァージニアはキャサリンが怒るのではないかと冷や汗をかいてしまった。
しかしキャサリンはマシューの睨みを無視して、本日の特訓内容を説明をしだした。
「復習の後は風以外の属性の攻撃に合わせて防御壁を作ってね。どんな属性が良いかは自分で判断して」
「防御壁に属性ってあるの? 」
マシューは今までただの魔力の壁を作っていた。
言うならば無属性の防御壁だ。
「出来た方がいいってだけだけど、攻撃にも転用可能だから出来ると便利よ」
「防御と攻撃を一緒にってこと? 」
「瞬時に切り替えをやれるようになるのが目標ね。けど今は防御だけに専念してちょうだい」
ヴァージニアは二人が話している内容が異次元すぎてついて行けなかった。
「建物の中でも外でも物を壊すといけないから、今日は私の魔法で作った空間内で特訓するわよ」
またもキャサリンは言い終わった瞬間に魔法を発動し、ヴァージニア達は一瞬でギルドの部屋ではなく別の空間に移動していた。
ヴァージニアとマシューがキョロキョロと周囲を見渡すと、西部劇で見るような荒野だと分かった。
「バーンってする人達がいる場所だ! 」
マシューはテレビで西部劇の映画を見ていたので、この風景を知っている。
彼は銃の存在を知らなかったので、ヴァージニアが分かる範囲で教えておいた。
「この空間はただのイメージよ。ヴァージニアはこの中では転移魔法しないでね。はい、二人とも集中して! 」
これはヴァージニアも攻撃されるのは決定のようだ。
風以外の属性で攻撃されたら確実に服が汚れるし傷むので絶対に逃げるか防ぐかしないといけない。
それにヴァージニアは魔力がそんなにないので、攻撃が当たったらダメージを食らう。
(マシューみたいに魔力が高い人は自然と体のまわりに防御壁ならぬ防御膜が出来ているらしいからなぁ。私のはあってもぼろ切れぐらいの防御力しかなさそう……)
ヴァージニアはマシューに魔法で防御力を上げて貰うとおうと思ったが、キャサリンに止められた。
緊張感がなくなるからダメだそうだ。
「マシュー君がきちんと出来れば、ヴァージニアは無傷でランチが食べられるんだから必要ないでしょう? 」
「そっか! ジニー、僕頑張るからね! 任せておいてね! 」
「うん。よろしくね」
しかし、一撃目からヴァージニアの靴は濡れたのだった。
「ヴァージニア……、貴女もこれくらい避けなさいよ。情けない」
「はい……」
ヴァージニアの反射速度だと難しいのだが、彼女は言い返せない。
言ったらより重労働させられる予感がしたからだが、キャサリンはヴァージニアの思考を読み取ったかのように口に出さなくてもよりハードな内容になった。
「ヴァージニアは体力をつけるために走りなさい。マシュー君も動いている相手に防御壁を張る練習にもなるから調度いいでしょう」
「分かりました」
「分かったよ! 」
ヴァージニアは転移魔法出来たら楽なのにと思いながらキャサリンの周囲を走り出した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「嘘でしょ? まだ五分しか経ってないわよ……」
ヴァージニアはフラフラと足がもつれそうになっていたが、立ち止まることなく懸命に足を動かしている。
しかしキャサリンは異常事態だと判断して攻撃の手を止めた。
「え、歩いている速度と大して変わらないじゃない……。なんならそれより遅いわよ」
「ジニー……」
二人はヴァージニアの体力のなさに困惑していた。
ヴァージニアは退院したばかりなのもあって、思っていたより体力や筋力が低下していたようだ。
「ああっ、もういいわよ。ずっと走ってなくていいし、転移魔法で回避していいから」
ヴァージニアはすみませんと言ったつもりだったが声に出ず、キャサリンは完全に呆れていた。
「ジニー大丈夫? 」
「だい……じょぶ……」
マシューは心配そうにヴァージニアに近寄って来た。
ヴァージニアが息を整えている間に、キャサリンは荒野に何か魔法を使った。
「これで転移魔法を使っても問題ないわ。これには少し魔力を使うけど、これくらいなら特訓に支障は出ないからいいわ」
「すみません……」
ヴァージニアはまだ息切れしているが、今度は声に出して言えた。
「謝らなくていいのよ。私がやるって決めたんだからね。そろそろ体力は回復した? 」
「はい、平気です」
ヴァージニアはまだ平気ではないが、これ以上自分のせいで中断するのは嫌だったので嘘を吐いた。
しかし、キャサリンはヴァージニアの考えを見抜いていた。
「はぁ、そういう嘘が命取りになる場合があるのよ。ちょっとでも調子が悪かったらすぐに仲間に言う。そうすればフォロー出来るでしょう? 」
「はい……」
数々の修羅場を乗り越えてきた人の言葉だけにとても重く感じた。
「ねえ! 僕、もう疲れちゃったから休憩しようよ! 」
マシューは疲れたと言うわりに汗をかいていないし、呼吸も乱れていない。
「マシュー……」
ヴァージニアはマシューに嘘を吐かせてしまい申し訳なくなった。
彼女は自分が頼りないせいで、彼に言わなくてもいい嘘を言わせてしまったのだ。
こんなにも恥ずかしいことがあるだろうか。
「嘘おっしゃい! 貴方はまだ全然元気でしょうが! 」
キャサリンの言う通りマシューがこれくらいで疲れるわけがなく、準備運動にすらなっていない。
完全にヴァージニアをかばっているのだ。
「そんなことないよ。僕、疲れたもん! 本当だよ! 」
ヴァージニアはマシューのこの言い方で、彼が彼女のために嘘をついていると確信した。
「マシュー、ありがとう。私はフォローしようとしてくれたんだよね」
「……違うよ。慣れないことをしているから疲れたんだよ」
「はいはい、こうして喋っているうちに休めたでしょう? さっさと再開するわよ」
その後、訓練は再開された。
キャサリンは水属性の次は氷の粒や小石を魔法で作って二人を攻撃した。
炎と雷はまだのようだ。
(キャサリンさんはマシューと違って虹色の目をしていないのに、色んな属性の魔法が使えるんだ。流石ジェーンさんの元仲間で元理事長……)
キャサリンの目の色はヴァージニアと同じく青い色をしている。
しかし、ヴァージニアはキャサリンが水属性が得意とは感じていない。
実際に荒野をイメージしたこの空間は湿潤でなく、むしろ乾燥している。
ヴァージニアがキャサリンの得意属性を考えているとキャサリンから集中しろと注意された。
「さっきまでヨロヨロとしていたのに随分と余裕ね」
「すみません。以後集中します」
ヴァージニアはあまり狙われないが、たまに攻撃が飛んでくる。
前からだけでなく頭上からや背後からも来るので油断してはいけない。
「分かればよろしい」
マシューは必死でヴァージニアに攻撃が当たらないように気を配っているのに、ただでさえ足手まといのヴァージニアが悠長に考え事をしている場合ではないのだ。
「ふふっ、そろそろ当たったら怪我をする炎や雷にしようかしら? その方が緊張感で出ていいかも」
ヴァージニアはキャサリンのニッコリ笑顔を見て顔が青くなった。
キャサリンは本気で怒っているのではないが、やや苛つかせてしまったのは確かだ。
(わざわざ時間を割いてくれているのに、怒らせるなんて……)
しかも怒らせたのはヴァージニアなのにマシューへの負担の方が大きい。
ヴァージニアは自己嫌悪に陥りそうだった。
「考える暇を与える私も悪かったのかもね」
キャサリンは怪しげにクククと笑うと、攻撃間隔を短くしてきたのだった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜
歩く、歩く。
ファンタジー
※第12回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。応援ありがとうございました!
勇者に裏切られ、剣士ディックは魔王軍に捕まった。
勇者パーティで劣悪な環境にて酷使された挙句、勇者の保身のために切り捨てられたのだ。
そんな彼の前に現れたのは、亡き母に瓜二つの魔王四天王、炎を操るサキュバス、シラヌイだった。
ディックは母親から深い愛情を受けて育った男である。彼にとって母親は全てであり、一目見た時からシラヌイに母親の影を重ねていた。
シラヌイは愛情を知らないサキュバスである。落ちこぼれ淫魔だった彼女は、死に物狂いの努力によって四天王になったが、反動で自分を傷つける事でしか存在を示せなくなっていた。
スカウトを受け魔王軍に入ったディックは、シラヌイの副官として働く事に。
魔王軍は人間関係良好、福利厚生の整ったホワイトであり、ディックは暖かく迎えられた。
そんな中で彼に支えられ、少しずつ愛情を知るシラヌイ。やがて2人は種族を超えた恋人同士になる。
ただ、一つ問題があるとすれば……
サキュバスなのに、シラヌイは手を触れただけでも狼狽える、ウブな恋愛初心者である事だった。
連載状況
【第一部】いちゃいちゃラブコメ編 完結
【第二部】結ばれる恋人編 完結
【第三部】二人の休息編 完結
【第四部】愛のエルフと力のドラゴン編 完結
【第五部】魔女の監獄編 完結
【第六部】最終章 完結
鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──
ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。
魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。
その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。
その超絶で無双の強さは、正に『神』。
だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。
しかし、
そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。
………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。
当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。
いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる