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特訓2日目!

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 今日もマシューはキャサリンから特訓を受ける。
 ヴァージニアは今日からマシューの着替えを持って来たのだが、これは本日からより本格的な特訓になるので彼の服が汚れると考えたからだ。
 さらにヴァージニアも特訓に参加する方向のようなので、汚れてもいい格好をしてきた。
 しかしそんな二人に対してキャサリンは、今から何かの撮影でもあるのかと思うような格好をしていた。

「さあ、今日もやるわよ。最初は昨日の復習よ」

 キャサリンの化粧は服の色に合わせたようで、昨日と違う化粧品を使っているようだ。
 ヴァージニアはこれも新商品かなと思った。

「押忍っ! 」

 マシューはそんなのは気にもせずに元気よく返事をしたが、キャサリンは気に入らなかったらしく眉がピクリと動いた。

「ちょっと、私はジェーンじゃないんだからやめてよ」

 キャサリンは言い終えると同時にマシューの顔面を目がけて風を飛ばした。
 マシューは反射神経がいいので回避出来たが、ヴァージニアだったら直撃していただろう。

「わーっ! キャサリンさん指をシュッってやってないのに攻撃してきた! 」
「あら、ごめんなさいね。今日からは合図はなしよ」

 マシューがキャサリンを睨みつけるので、ヴァージニアはキャサリンが怒るのではないかと冷や汗をかいてしまった。
 しかしキャサリンはマシューの睨みを無視して、本日の特訓内容を説明をしだした。

「復習の後は風以外の属性の攻撃に合わせて防御壁を作ってね。どんな属性が良いかは自分で判断して」
「防御壁に属性ってあるの? 」

 マシューは今までただの魔力の壁を作っていた。
 言うならば無属性の防御壁だ。

「出来た方がいいってだけだけど、攻撃にも転用可能だから出来ると便利よ」
「防御と攻撃を一緒にってこと? 」
「瞬時に切り替えをやれるようになるのが目標ね。けど今は防御だけに専念してちょうだい」

 ヴァージニアは二人が話している内容が異次元すぎてついて行けなかった。

「建物の中でも外でも物を壊すといけないから、今日は私の魔法で作った空間内で特訓するわよ」

 またもキャサリンは言い終わった瞬間に魔法を発動し、ヴァージニア達は一瞬でギルドの部屋ではなく別の空間に移動していた。
 ヴァージニアとマシューがキョロキョロと周囲を見渡すと、西部劇で見るような荒野だと分かった。

「バーンってする人達がいる場所だ! 」

 マシューはテレビで西部劇の映画を見ていたので、この風景を知っている。
 彼は銃の存在を知らなかったので、ヴァージニアが分かる範囲で教えておいた。

「この空間はただのイメージよ。ヴァージニアはこの中では転移魔法テレポートしないでね。はい、二人とも集中して! 」

 これはヴァージニアも攻撃されるのは決定のようだ。
 風以外の属性で攻撃されたら確実に服が汚れるし傷むので絶対に逃げるか防ぐかしないといけない。
 それにヴァージニアは魔力がそんなにないので、攻撃が当たったらダメージを食らう。

(マシューみたいに魔力が高い人は自然と体のまわりに防御壁ならぬ防御膜が出来ているらしいからなぁ。私のはあってもぼろ切れぐらいの防御力しかなさそう……)

 ヴァージニアはマシューに魔法で防御力を上げて貰うとおうと思ったが、キャサリンに止められた。
 緊張感がなくなるからダメだそうだ。

「マシュー君がきちんと出来れば、ヴァージニアは無傷でランチが食べられるんだから必要ないでしょう? 」
「そっか! ジニー、僕頑張るからね! 任せておいてね! 」
「うん。よろしくね」

 しかし、一撃目からヴァージニアの靴は濡れたのだった。

「ヴァージニア……、貴女もこれくらい避けなさいよ。情けない」
「はい……」

 ヴァージニアの反射速度だと難しいのだが、彼女は言い返せない。
 言ったらより重労働させられる予感がしたからだが、キャサリンはヴァージニアの思考を読み取ったかのように口に出さなくてもよりハードな内容になった。

「ヴァージニアは体力をつけるために走りなさい。マシュー君も動いている相手に防御壁を張る練習にもなるから調度いいでしょう」
「分かりました」
「分かったよ! 」

 ヴァージニアは転移魔法テレポート出来たら楽なのにと思いながらキャサリンの周囲を走り出した。



「ハァ……ハァ……ハァ……」
「嘘でしょ? まだ五分しか経ってないわよ……」

 ヴァージニアはフラフラと足がもつれそうになっていたが、立ち止まることなく懸命に足を動かしている。
 しかしキャサリンは異常事態だと判断して攻撃の手を止めた。

「え、歩いている速度と大して変わらないじゃない……。なんならそれより遅いわよ」
「ジニー……」

 二人はヴァージニアの体力のなさに困惑していた。
 ヴァージニアは退院したばかりなのもあって、思っていたより体力や筋力が低下していたようだ。

「ああっ、もういいわよ。ずっと走ってなくていいし、転移魔法テレポートで回避していいから」

 ヴァージニアはすみませんと言ったつもりだったが声に出ず、キャサリンは完全に呆れていた。

「ジニー大丈夫? 」
「だい……じょぶ……」

 マシューは心配そうにヴァージニアに近寄って来た。
 ヴァージニアが息を整えている間に、キャサリンは荒野に何か魔法を使った。

「これで転移魔法テレポートを使っても問題ないわ。これには少し魔力を使うけど、これくらいなら特訓に支障は出ないからいいわ」
「すみません……」

 ヴァージニアはまだ息切れしているが、今度は声に出して言えた。

「謝らなくていいのよ。私がやるって決めたんだからね。そろそろ体力は回復した? 」
「はい、平気です」

 ヴァージニアはまだ平気ではないが、これ以上自分のせいで中断するのは嫌だったので嘘を吐いた。
 しかし、キャサリンはヴァージニアの考えを見抜いていた。

「はぁ、そういう嘘が命取りになる場合があるのよ。ちょっとでも調子が悪かったらすぐに仲間に言う。そうすればフォロー出来るでしょう? 」
「はい……」

 数々の修羅場を乗り越えてきた人の言葉だけにとても重く感じた。

「ねえ! 僕、もう疲れちゃったから休憩しようよ! 」

 マシューは疲れたと言うわりに汗をかいていないし、呼吸も乱れていない。

「マシュー……」

 ヴァージニアはマシューに嘘を吐かせてしまい申し訳なくなった。
 彼女は自分が頼りないせいで、彼に言わなくてもいい嘘を言わせてしまったのだ。
 こんなにも恥ずかしいことがあるだろうか。

「嘘おっしゃい! 貴方はまだ全然元気でしょうが! 」

 キャサリンの言う通りマシューがこれくらいで疲れるわけがなく、準備運動にすらなっていない。
 完全にヴァージニアをかばっているのだ。

「そんなことないよ。僕、疲れたもん! 本当だよ! 」

 ヴァージニアはマシューのこの言い方で、彼が彼女のために嘘をついていると確信した。

「マシュー、ありがとう。私はフォローしようとしてくれたんだよね」
「……違うよ。慣れないことをしているから疲れたんだよ」
「はいはい、こうして喋っているうちに休めたでしょう? さっさと再開するわよ」



 その後、訓練は再開された。
 キャサリンは水属性の次は氷の粒や小石を魔法で作って二人を攻撃した。
 炎と雷はまだのようだ。

(キャサリンさんはマシューと違って虹色の目をしていないのに、色んな属性の魔法が使えるんだ。流石ジェーンさんの元仲間で元理事長……)

 キャサリンの目の色はヴァージニアと同じく青い色をしている。
 しかし、ヴァージニアはキャサリンが水属性が得意とは感じていない。
 実際に荒野をイメージしたこの空間は湿潤でなく、むしろ乾燥している。
 ヴァージニアがキャサリンの得意属性を考えているとキャサリンから集中しろと注意された。

「さっきまでヨロヨロとしていたのに随分と余裕ね」
「すみません。以後集中します」

 ヴァージニアはあまり狙われないが、たまに攻撃が飛んでくる。
 前からだけでなく頭上からや背後からも来るので油断してはいけない。

「分かればよろしい」

 マシューは必死でヴァージニアに攻撃が当たらないように気を配っているのに、ただでさえ足手まといのヴァージニアが悠長に考え事をしている場合ではないのだ。

「ふふっ、そろそろ当たったら怪我をする炎や雷にしようかしら? その方が緊張感で出ていいかも」

 ヴァージニアはキャサリンのニッコリ笑顔を見て顔が青くなった。
 キャサリンは本気で怒っているのではないが、やや苛つかせてしまったのは確かだ。

(わざわざ時間を割いてくれているのに、怒らせるなんて……)

 しかも怒らせたのはヴァージニアなのにマシューへの負担の方が大きい。
 ヴァージニアは自己嫌悪に陥りそうだった。

「考える暇を与える私も悪かったのかもね」

 キャサリンは怪しげにクククと笑うと、攻撃間隔を短くしてきたのだった。


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