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マシューに緊急の依頼!
しおりを挟む「ジニー、遅いよ!もうお昼買っちゃったよ!これじゃあ図書館に行けないよ!」
ヴァージニアは牧場に戻るなり、ご機嫌斜めのマシューに遭遇した。
彼女の戻りが遅かったので彼は怒っているらしい。
「ごめんね。……ねぇマシュー、買いすぎてない?」
「そんなことないよ。ハンバーガーとコロッケパンとレモンパイとドーナツだけだよ」
以前よりかは減ったが、ヴァージニアが普段食べる量よりは多い。
パン類4つにしては量が多いので、どれかを複数買ったはずだ。
「そっか。ソフトクリームは何個食べたの?」
「まだ食べてないよ。ジニーと一緒に食べようと思ったんだ」
マシューは笑顔で可愛いことを言っているが、ヴァージニアはマシューの口に付着している物を見逃さなかった。
「マシュー?口にソフトクリームついてるよ」
「はわわっ」
マシューは慌てて口の周りを拭いたが、時すでに遅しである。
彼の企みは叶わない。
「グリーンさんに報告してくるから、とうめいの所にいてね」
「はーい」
(あれ?)
ヴァージニアがマシューの所に戻ると、とうめいが何かジェスチャーしていた。
その様子をマシューは面白そうに見ている。
「あははっ!何それー。んもう、さっきから分からないよー」
マシューには伝わっていないようだが、とうめいは綺麗な妖精が来たことを伝えようとしているようだ。
とうめいは背中?に突起を作り一生懸命に動かしている。
妖精の羽のつもりらしいが、一緒にあの場にいなかったらヴァージニアにも分からない出来映えである。
「!」
とうめいはヴァージニアを見つけ、彼女に通訳しろと訴えている。
「とうめいはね、さっき妖精が来たのを教えようとしてるんだよ」
ヴァージニアがこう言うと、とうめいは分かってくれて嬉しかったのか何度も飛び跳ねた。
「この間の?それとも別の?」
「この間の綺麗な妖精さんだよ」
名前を聞いておけばよかったとヴァージニアは思った。
「いいなぁ。僕も見たかったなぁ」
「!」
とうめいはまた何かを言いたげに必死に体を動かしている。
しかしマシューは理解出来なかったので、ヴァージニアに通訳しろと訴えだした。
とうめいは腹?を指している。
「……えーっとねぇ、妖精がとうめいの上に横になったのを言いたいのかな?」
「!」
正解だったようだ。
「いいなぁ。僕もとうめいの上で寝てみたい。……とうめいがもっと大きくなればいいのになぁ」
「!!」
とうめいは必死に草を食べ始めた。
沢山食べればミディアムサイズからラージサイズのスライムになれるかもしれない。
「あっ、僕が妖精ぐらいに小さくなれればいいのかな?」
「?!」
とうめいは草を食べるのをやめた。
「だけど、そんな魔法あるのかな?ジニー、知ってる?」
「大きさを変える魔法かぁ。とうめいが大きくなる方が現実的じゃない?」
「!!」
とうめいは再び草を食べ始めた。
他のスライムはとうめいが何をしているのか気にしている。
中にはとうめいの真似しているものいる。
(とうめい、大きくなりたいならマシューの汗や涙を貰えばいいんだよ。教えないけど)
とうめいがスモールからミディアムになったのは、マシューの顔面から出る体液を摂取したからだ。
ヴァージニアはその事をとうめいは気付いていると思っていたが、一生懸命に草を食べているのを見ると違うようだ。
(わざわざ摂取しに行ってる気がしていたんだけど、気のせいだったんだ)
「とうめい、急に大量に食べると具合が悪くなるよ」
「……」
とうめいは疲れたらしく、少し潰れた。
それも真似しているのがいる。
「ジニー、僕もご飯食べたい。お腹空いた」
「そろそろ帰ろうか」
とうめいに別れを告げ、ヴァージニアもパンを買い転移魔法で南ノ森町に帰った。
ヴァージニアとマシューは自宅でパンを食べた。
マシューには良く噛んで食べるように言っているが、早々に食べ終わりヴァージニアのパンを狙っている。
「あげないよ」
「見ているだけだよ」
そのわりにマシューは目を輝かせている。
今にもよだれを垂らしそうだ。
「……そうだ。さっき行った町でクッキーを買ったんだった」
「くれるの?」
マシューは嬉しさのあまり勢いよく立ち上がった。
「私の分をとっておいてね」
ヴァージニアも立ち上がり、鞄からクッキーを出してマシューに渡した。
マシューが包み紙を破ると木の実やベリーがそれぞれ乗せてあるクッキーが出てきた。
彼は食器棚から小皿を取り出し、クッキーを並べだした。
(いつもなら、そのままパクパク食べちゃうのに……)
どうやら彼は木の実とベリーのクッキーを交互に並べているようだ。
「食べる順番かな?」
「へへへっ……」
容器には何枚か残っているので、これらがヴァージニアの分だろう。
「いただきます」
マシューはいつもの勢いはなく、ゆっくりと味わいながらクッキーを食べだした。
別人のようだ。
(マシューが食べている間に……)
ヴァージニアは自分の分のクッキーを回収しておいた。
「美味しい」
マシューはゆっくりと咀嚼しながら食べている。
思えば手作り風のクッキーは初めてだったかもしれない。
ヴァージニアはもう少し色んな物をマシューに食べさせようと思った。
昼食後、ヴァージニアはマシューと依頼を受けた報告をしにギルドに行った。
マシューの今後についても相談したかったが、誰にしたらいいのか分からないので保留した。
(通信制でいいかな?けど実技はそう言うわけにはいかないしなぁ。やっぱり体術はジェーンさんかな?信用してもいいのかなぁ?)
マシューの素性を知ったら豹変するのではないかとヴァージニアは恐怖している。
それだけ勇者と魔王は絶大な人気がある。
親しい人のそんな姿を見たくないのもあって言うに言えないのだ。
「ジニー、どうしたの?もう、お腹空いたの?」
マシューはヴァージニアの表情が優れないので心配したようだ。
「空いてないよ。夕飯をどうしようかと悩んでたんだよ」
ヴァージニアは嘘をついてしまった。
世話になっている人を疑っているだなんて言えるはずがない。
「もう夕飯を考えてるの?やっぱりお腹空いてるんじゃ……」
「いつも栄養バランスを考えて作ってるんだよ」
「本当?お腹空いてない?」
マシューはふふふと笑っている。
ヴァージニアはこの笑顔に怪しさを感じた。
「……マシュー、もしかしてコロッケ定食を食べる気なんじゃない?」
「バレたか」
やはりマシューはコロッケについて考えていたようだ。
「よぉし、仕事の依頼がないならポテチとコロッケを買って帰ろう」
「残念だけど、まだお金入ってないから買えないんだ」
ヴァージニアはお金があってもどちらも買うつもりはない。
油を摂取しすぎは体に良くないからだ。
「そんなぁ……」
ヴァージニアはため息を吐くマシューの手を引き、ギルドから出た。
家に向かう途中、誰かが後ろから呼ぶ声が聞こえた。
何を言っているのかは分からず、誰かが大きな声を出している事しか分からない。
「ジニー、ジェイコブが呼んでるよ」
マシューは聴力を強化して聞き取ったようだ。
「急ぎの仕事かな?」
「夕飯の準備が遅れちゃうね」
二人は来た道を戻り、ジェイコブの元に向かった。
「よかった。追いついた」
ジェイコブは走っていたのに呼吸が乱れていない。
「そんなに急いでどうしたの?緊急事態なの?」
マシューは目をパチパチとさせ不思議そうだ。
ジェイコブが町にいるのが珍しいからでもある。
「ああ、マシューに依頼だ」
「僕に?」
マシューが出来る事とされているのはブラッシングぐらいだが、緊急のブラッシング、そんなはずない。
「説明するからギルドに戻ってくれ」
ヴァージニアとマシューは先に転移魔法でギルドに行った。
するとジェーンが待っており、奥の部屋に案内された。
受付で依頼内容を言われないのを見ると、かなり重要な依頼のようだ。
中に入ると身なりの良い男性が椅子に座っていた。
彼は偉そうな素振りも見せず、ただ背筋を伸ばして座っていた。
「こんにちは。おじさんが依頼の人なの?」
ヴァージニアはマシューに話し方を教えておけばよかったと後悔した。
「私の主が依頼主で、私は代理です。主は席を外せぬ用がありますので、私が代わりにやって来ました」
男性は子どもだからと侮ったりせずに、きちんと応じていた。
「俺が説明する。二人とも座ってくれ」
ジェイコブはもう到着していたようで、ヴァージニア達の後ろに来ていた。
二人は男性の向かいに、ジェイコブは男性の隣に座った。
「先ほども言ったが最優先の仕事だ。人命がかかっている」
「僕は回復とか治癒の魔法は知らないよ」
マシューは以前コーディの怪我を治した時のように、まじないでだったら出来るが魔法では出来ないらしい。
ヴァージニアには違いがよく分からないが、まじないは魔力を使わないようなので魔法ではないのは確かだ。
「はっ!とうめいに頼めばいいのかな?」
グリーンスライムは傷口に張り付けておくと怪我が治るのだ。
「え?とうめい?」
「すみません。この子の友達なんです」
ヴァージニアはスライムだと言うのは伏せておいた。
魔物と友達だなんて変だと言う人もいるからだ。
「話を戻すぞ。この方の雇い主の孫が魔力欠乏症になってしまったんだ」
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