上 下
26 / 312

天国と地獄!(2)

しおりを挟む
 看板娘のかけ声が聞こえなくなったので、二人は受付に行った。

「鑑定魔導具の商品モニター終わりました」
「はい。お疲れ様!ちょっと待ってねぇ。はい、これが報酬よ!」
「ありがとうございます」

 受け取ったお金は多くなかった。

「すくない……」

 ヴァージニアの代わりにマシューが言った。
 彼の顔はとても険しかった。

「でも!仕事が入ったから大丈夫よ!」

 看板娘のは少し焦ったようだが、いつものように明るい表情で言った。

「何を運ぶんですか?」
「あらやだ。さっき見ていたでしょう?」
「まさか…」

 マシューはハッとした表情になった。

「毒きのこを運ぶんですか?」
「あらー、分かっているじゃない!これを王立魔導研究所に持って行って欲しいの」

 看板娘はニコニコ笑顔でとんでもない事を言った。

「げ」

 また局長に会ってしまうのだろうかと思うと、げと言いたくなる。
 というか、もう言ってしまった。

「げ?」
「どうしたの?」

 マシューと看板娘は首を傾げた。

「いえ、何でもないです。王都に行けばいいんですか?」

 ヴァージニアは顔が引きつりそうになるのをなんとか堪えた。

「王都じゃなくて学園都市の方ね。毒物は王様達がいる所じゃ研究出来ないでしょう?危ないもの」
(学生や研究者はいいのか?)
「学園都市って海の近くでしたっけ?行ったことあったかなぁ?」
「ここから遠くないから平気よ」
「ちかかったら、すぐにかえってこられるね!」
「近いのに私が運ぶのは…何故でしょう?」

 遠くないのはいいが、近いのならば依頼された人達が届けた方が余分に時間もお金もかからずにすむ。

「それはだな、俺たちはここに待機してジェイコブと合流しないといけないからだ」

 そう言ったのは毒きのこを採ってきた剣士だった。
 少し離れた所にいたと思ったが、いつの間にか隣に来ていた。

「ジェイコブとですか?」
「そうなの。逃げ足の速い禁術使いが近くにいるらしい情報が入ったの。私達はその人を捕まえに行くんだけど、ジェイコブは別の仕事をしているから戻るのを待っているの」

 さっきの魔導師が言った。

「禁術って、もしかして生き物を合成するやつですか?」
「そう、その人!知ってるの?」

 魔導師達が少し驚いていた。
 確かにそんな危険な生き物と遭遇するのは、もっと腕のいい人達だろう。

「この子達も合成生物に遭遇しているのよ」
「はい。ケリー兄弟に助けていただきました」
「ああ、奴等がヘマして逃がしちまったやつか」

 筋骨隆々の武闘家らしき男性が腕組みをしながら言った。

「あの時は魔力の流れが乱れていたから仕方ないですよ」
「普段から気の流れの感知を鍛錬していれば失敗などしない」

 武闘家は表情を変えずに言った。

「コイツ、ケリー兄弟となるといつもこんな感じなんだ」
「あはは……」

 武闘家はケリー兄妹をライバル視しているのだろうか。

「けんかはよくないよ」
「違う違う。コイツが目の敵にしているだけだって!」
「そうなの?」
「そうそう!」

 剣士が言うと武闘家は気まずそうにそっぽを向いた。

「ねぇねぇあなた!さっきから思っていたんだけど、綺麗な目をしているのね。こんなに綺麗な虹色は久しぶりよ」

 魔導師がマシューの顔を覗き込んだ。

「いいでしょ!」

 マシューはドヤ顔をしている。
 ドヤ顔をしててもイラッとしないのは、マシューの顔立ちがいいからだろうとヴァージニアは思った。

「虹色かぁ。しかもどの色も同じように出ているってことは全属性を均等に使えるのか。羨ましいな」
「均等にですか?」
「そう。目が虹色をしていても、得意な属性の色が濃く出たりするの」
「その逆もある」
「へぇぇえ」

 得意だと濃く、不得意だと薄くなるようだ。
 だが、全属性使えるのには変わりはないのだろう。

「鍛錬しても虹色になるかは分からないのよね。魔力が強ければ可能性はあるけど、今言ったように得手不得手があるからね」

 局長が言っていたのはこの事だったようだ。
 ならば、きちんと説明してくれればいいのにとヴァージニアは思った。

「それに加えて、巨大な力を持つものに気に入られるとその属性の色が強くなるんだ」
「魔力は強くないけど、転移魔法テレポート出来るってことは、目の色からして貴女は水属性の何かに気に入られているんでしょうね」
「水属性の……」
「水辺にいる生き物を助けたんじゃないのか?」

 武闘家に言われヴァージニアは記憶を掘り起こして見たが、特に印象的な出来事は思い出せなかった。

「うーん、記憶にないですね。そもそも助けただけで力を貸してくれるものなんですか?それに力を貸してくれるほど大きな力を持った生き物を私が助けられるんですかねぇ…?」
「眷属を助けたとかじゃないか?」
「そうそう。彼もトカゲを助けたら、それ以来地属性の力を貸して貰ってるんだって」

 魔術師が武闘家の方を向いて言った。

「トカゲじゃなくてドラゴンの子どもだったんだろ?」
「随分デカいトカゲがいるなとは思ったんだ」
「はっ!ジニー!さっきのトカゲはなにかあるかな?」

 マシューはトカゲと聞いて目が輝いている。

「あのトカゲは頭に宝石がついているだけじゃないの?」
「ジェムストーンリザードね。そうなの、あのトカゲは成長しても大きな魔力は持たないんだよね」
「繁殖場があるぐらいだしな」
「なぁんだ。ぼくもなにかと、なかよくなりたかったなぁ」

 これは午前中に喧嘩した子の言ったセリフである。

「どんなのがいいんだ?それなりに魔力があるんだから、使役するのも簡単だろう」
「後は自分で作るとかね」

 剣士と魔導師は何やらすごい話をしている。
 使役は難しいし、作るなんて意味が分からない。

「そうだなぁ、かっこいいのがいいなぁ」
「え~、可愛いのじゃ駄目?」

 魔導師が言うと彼女が被っていた帽子が動いて、その中から何かが出てきた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

<番外編>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
< 嫁ぎ先の王国を崩壊させたヒロインと仲間たちの始まりとその後の物語 > 前作のヒロイン、レベッカは大暴れして嫁ぎ先の国を崩壊させた後、結婚相手のクズ皇子に別れを告げた。そして生き別れとなった母を探す為の旅に出ることを決意する。そんな彼女のお供をするのが侍女でドラゴンのミラージュ。皇子でありながら国を捨ててレベッカたちについてきたサミュエル皇子。これはそんな3人の始まりと、その後の物語―。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...