恋情は様々あれど

猫丸

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獅子と猫(※R18無し・BL要素あり)

6 空腹な獅子

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「ジル、君が先刻言ったことを纏めてみた。違っていたら教えてくれると嬉しい」

 ジュレルの来るのを焦れに焦れて待っていたレオンは、開錠されてすぐにジュレルを部屋に引き摺り入れて、長椅子へと強引に座らせていた。しかも逃がさないように自分はジュレルと膝がぶつかるほど近くに寄せた椅子へと腰を下ろす。

「質問とかは後で答えるから、聞いて?」
「わかった」
 ジュレルが神妙に頷くと、レオンは覚悟を決めて口を開く。
「ジルは私と離れる気はない。私が君をいらないと言ったと思っている」
「言ったでしょう?」
「聞いて。反論は後で好きなだけしていいから。それで、ジルはそれでも私といたいと考えている。どんなことをしても私と一緒にいたいし、暮らしたいと思ってくれたから。間違ってるか?」
 自分でも強引過ぎると思いながら、レオンは結論まで一息に語るとじっとジュレルの翠の瞳を見つめて、彼の言葉を待った。
「……間違ってはいないんだけど、レオの纏めだとちょっと……なんだろう、僕の言いたいことがすごくシンプルにされてる気がする」 
 それはそうだとレオンも思う。自分たちの間にある問題は、シンプル以前に肝心な言葉をすっ飛ばしてきた、ただそれだけなのだから。
「ジル、たぶん、本当にシンプルなんだよ。その前に一つ間違いを指摘する。ギリアムと話していたのは、ハンネル国の伯爵の件なんだ。亡命を希望しているから私が先日面会してきた。その男のことをと言った」
 嘘だ─とジュレルがキツく睨んでくるが、その頰を優しく撫でながらレオンはきっぱりと言う。
「本当だよ。人柄はお世辞にも良いとはいえなくてね。それにジルをいやらしい目で見る男など、この世にいらないと心底思ってる。これが真相。誤解をさせるような態度をとってごめん。でも、本当はその件とは関係なくジルから離れようとは考えたんだ。その理由を聞いてくれるかな?」
 まだ俄には信じがたいのだろう。呆然とレオンを見、それから自分の膝に置かれた手をじっと見つめて、少したってからジュレルは小さく頷いた。

◇◇

 幼いころからの付き合いで、あまりに近くにいすぎたのだ。
 レオンにとっては友であり弟であり。ジュレルにとっても友であり兄である。
 執着に気がつくことなど思いもよらないほど、静かに深く。
 あの、ジュレルが攫われた夜の出来事がなければ、おそらく、いや。遅かれ早かれジュレルを愛してしまったに違いないと、レオンは長年ずっと狂おしい想いを抱えてきた。

「あの夜私は何も考えてなかったんだ。君がジルファスの息子だとか、同性だとか、そういうこと全部そっちのけで、ただ夢中で君を抱いてたよ」
 レオンはそっとジュレルの手を握る。
「そのうち、君に婚約者が決まって、私は学園卒業が近づいて……そのころには自分の気持ちから目を背けることはできなくなっていた」
 同情でも友情でもない、欲に。何度も否定して諦めようと足掻いて、それでも最後には認めるしかなかった想いに気がついてしまったあのころは地獄の日々だったよ─と、レオンは初めて言葉にする。
 ずっと心の奥深くにしまい込んだ想いを日の当たる場所に引き摺りあげるのは苦しい。それでも言葉にすれば、重い何かが溶けてきえるように心は楽になっていた。
「でも、私はコルバンの嫡男としての誇りを捨てることは考えられなくて、父の勧めるままに子供を三人もうけた。ちょうどそのころからかな、ジルが私に再婚を勧めてくるようになったのは?」
「──僕は、僕は」 
 そこからジュレルは言葉が紡げないようで、苦しげに唇を噛む。レオンは微笑んでその唇を指先で触れて戒めをといてやる。
「責めているんじゃないよ、ジル? 説明をしているだけなんだ。私たちは互いの距離に甘えすぎて大切なことをちっとも伝えずに来てしまったから……」
 腕を伸ばし、細い肩を引き寄せればジュレルの躰は抵抗もなくレオンの胸へと倒れてきた。震える肩を撫でながら、レオンは一番伝えたい想いを言葉にのせる。
「ジルにだけ伝えたい言葉があるんだ。他の誰にも渡さない、ジルだけのだ」
 初めてあった時に人慣れない仔猫のようだと微笑ましく感じた少年は、いつまでたってもレオンの心にどっかりと居場所を作って居座っている。そしてレオンはそれがたまらなく嬉しくって愛しいのだ。
 腹を空かせてふて寝をする獅子の前を美味しい匂いをさせてうろうろする我が侭な猫など、すべて喰らってしまおう─レオンは悪い男の顔で笑う。
 仕方ないよね、ジル? だって君が自分で私を叩き起こしてしまったのだから。

「私の愛は君だけに捧げているよ……だから覚悟してね──」 
 レオンはいまだに理解しきれていないジュレルの唇に口づけ、すべてを手に入れるためにその躰を抱き上げる。
 
「私を壊せるのはジルだけなんだよ」
 秘密だよ、とジュレルの耳元に甘く囁いた。
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