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ことの裏側(another side)
ロイド&ラナエラ:守りたい未来
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※ありがとうございます。これでanother sideは終わります。今後は番外編を投稿します。
春風が暖かい。
王妃のお気に入りの薔薇園は子供たちの笑い声に溢れている。
「母上さま、お花です!」
「わたくしもお花です!」
五歳の王子と三歳の王女が母親である王妃に摘んだばかりの花を差し出す。
「ありがとう。綺麗なお花ね」
腕に生まれたばかりの末っ子王子を抱きながら微笑む王妃は、ラナエラという。
結婚して六年の間に、二男一女の母となった彼女は、民からも賢妃と愛されている。
「姉さま、ご機嫌よう!」
息子とさして変わらない弟が走ってくる。その後ろを、
「「おばさま、ごきげんよう!」」
双子の、同じく幼い甥と姪が追ってきた。
「遊ぼうよ!」
大好きな親戚の到着に、待ちわびていた王子と王女が突撃していく。まるで仔いぬが仲良く遊ぶように微笑ましい。
「ラナエラ、風邪をひくよ?」
華奢な肩に上着がかけられる。
「あなた、もう今日の執務は終わられましたの?」
眩しげに見つめられ、
「明日から少し留守にするからね、今日は英気を養えと云ってくれたから」
おっかない側近筆頭の気が変わらないうちに逃げて来たよ、と笑う。
ロイド・レイ・ランスロット。先日代替わりをしたばかりの若き国王だ。
「君を補充しておかないと私はすぐに駄目になってしまうから」
「あら、わたくしも同じですわ」
「父上たちの様子を見に行くだけだし、早く戻るよ」
ロイドは疲れを滲ませて、激務の原因を思う。
隣接した小国があった。
悪政と飢饉で激減した資源を安易に他国から調達しようと目論んだ彼の国は、事もあろうか大国であるランスロットの国境を侵した。
結果、報復のため攻め込んだランスロットの圧勝となり、悪政に疲弊しきっていたその国はろくな抵抗もせず、新たに王国の領土になった。愚王と無能な貴族に愛想をつかした民はランスロットに組み込まれることを心から歓迎したという。
戦に加わったロイドは父のもとで再建案を練るつもりだったのだが……。
まだまだやる気も体力もある前国王と五公爵がほぼ同時に隠居宣言をしたために、ロイドは家族団欒をする間もあまりとれないで、政務に取り組む日々を送っている。
「五公爵の代替わりが完了するまでは大変だけど、その後は時間がつくようになる」
「……吸収したばかりの領土に、何も皆様が行かずともよいのに。困った方々ですわね」
「子供だよね、本当にあの人たちは…」
くすり、と微笑みを交わし合う。
いつまでも精力的なのは羨ましい限りだが、少しは若者にも安らぎに浸る暇を与えて欲しいものだと心底思うロイドである。
「帰ったら甘やかしてくれる、ラナ?」
甘えたくなって囁くロイドに、
「わたくしはあなたに甘いの。ご存じでしょう?」
愛しい最愛の妻は頬への口づけをくれた。
うん。私はいつだって君が大好きだ。
山あり谷ありな日々だけれど、この幸せがずっと続きますように……
はしゃぐ子供たちの歓声に、ふたりは慈しむ眼差しで未来を見つめるのだった。
春風が暖かい。
王妃のお気に入りの薔薇園は子供たちの笑い声に溢れている。
「母上さま、お花です!」
「わたくしもお花です!」
五歳の王子と三歳の王女が母親である王妃に摘んだばかりの花を差し出す。
「ありがとう。綺麗なお花ね」
腕に生まれたばかりの末っ子王子を抱きながら微笑む王妃は、ラナエラという。
結婚して六年の間に、二男一女の母となった彼女は、民からも賢妃と愛されている。
「姉さま、ご機嫌よう!」
息子とさして変わらない弟が走ってくる。その後ろを、
「「おばさま、ごきげんよう!」」
双子の、同じく幼い甥と姪が追ってきた。
「遊ぼうよ!」
大好きな親戚の到着に、待ちわびていた王子と王女が突撃していく。まるで仔いぬが仲良く遊ぶように微笑ましい。
「ラナエラ、風邪をひくよ?」
華奢な肩に上着がかけられる。
「あなた、もう今日の執務は終わられましたの?」
眩しげに見つめられ、
「明日から少し留守にするからね、今日は英気を養えと云ってくれたから」
おっかない側近筆頭の気が変わらないうちに逃げて来たよ、と笑う。
ロイド・レイ・ランスロット。先日代替わりをしたばかりの若き国王だ。
「君を補充しておかないと私はすぐに駄目になってしまうから」
「あら、わたくしも同じですわ」
「父上たちの様子を見に行くだけだし、早く戻るよ」
ロイドは疲れを滲ませて、激務の原因を思う。
隣接した小国があった。
悪政と飢饉で激減した資源を安易に他国から調達しようと目論んだ彼の国は、事もあろうか大国であるランスロットの国境を侵した。
結果、報復のため攻め込んだランスロットの圧勝となり、悪政に疲弊しきっていたその国はろくな抵抗もせず、新たに王国の領土になった。愚王と無能な貴族に愛想をつかした民はランスロットに組み込まれることを心から歓迎したという。
戦に加わったロイドは父のもとで再建案を練るつもりだったのだが……。
まだまだやる気も体力もある前国王と五公爵がほぼ同時に隠居宣言をしたために、ロイドは家族団欒をする間もあまりとれないで、政務に取り組む日々を送っている。
「五公爵の代替わりが完了するまでは大変だけど、その後は時間がつくようになる」
「……吸収したばかりの領土に、何も皆様が行かずともよいのに。困った方々ですわね」
「子供だよね、本当にあの人たちは…」
くすり、と微笑みを交わし合う。
いつまでも精力的なのは羨ましい限りだが、少しは若者にも安らぎに浸る暇を与えて欲しいものだと心底思うロイドである。
「帰ったら甘やかしてくれる、ラナ?」
甘えたくなって囁くロイドに、
「わたくしはあなたに甘いの。ご存じでしょう?」
愛しい最愛の妻は頬への口づけをくれた。
うん。私はいつだって君が大好きだ。
山あり谷ありな日々だけれど、この幸せがずっと続きますように……
はしゃぐ子供たちの歓声に、ふたりは慈しむ眼差しで未来を見つめるのだった。
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