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第3章 マーシア、タラア王妃となる
10、いよいよ結婚式
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マーシアは一度実家に戻ると、ご近所や親せきへの挨拶まわりをすませた。
使用人に荷造りの指示をしたのち、島に戻る。
これから三か月間のお后教育が始まる。
忙しくなりそうだ。
ネリィもマーシアと一緒にタラア島に移住することになった。
ネリィはタラア人と結婚するわけではないので国籍の取得が大変かと思ったが、意外なほど簡単だった。
小さな国なので国王の知り合いなら、かなり融通が利くらしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マーシアのお后教育の内容は、多岐にわたった。
伝統舞踊、古代タラア語(現代タラア語はロイデン語とは方言程度の違いしかないが、古代タラア語はロイデン語とは全然違う。古代タラア語は王宮の儀式でつかわれるので、王族にとっては必須の教養となっている)。
ハイビスカスなどの南国の花を使った華道。
豚肉と海鮮がメインの伝統料理。
挨拶の仕方などの礼儀作法。
伝統的な手工芸。
タラア王家の歴史、などなどだ。
マーシアは毎日目の回るような忙しさだった。
教えられたことはすべてメモをとって、夕方にコテージに戻ってからは毎晩復習。
日々努力を重ねていたところ、タラア人にとっては驚きの習得の速さだったらしい。
先生たちにマーシア様は天才だ、と噂されていると聞いて、マーシアは照れ臭くなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから三か月後、今日はいよいよ少年王とマーシアの婚礼の儀。
結婚式に現れた王族、貴族の夫婦たちは、女性が年上で、親子ほども年が違う人ばかり。
少年王の爺やの言っていた通りだった。
マーシアは王様との年齢差を気にしなくてもいいことを、改めて実感した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
花嫁衣裳は、伝統的な腰蓑衣装。
半裸の上半身を覆う、重い重い装身具。
日本の歌舞伎や中国の京劇のようなメイク。
結いあげて砂糖で固めた髪に、肩こり必至の重厚な髪飾り。
花婿も花嫁よりは簡素なものの、先祖代々使用しているという、髪飾りは重そうで、健気に耐えている姿は見るのもつらい。
マーシアは王様から早く髪飾りを外してあげたくなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マーシアとタラア王が乗った輿は、タラア島の海岸線を丸一日かけて、ぐるりと一周する。
行く先々で近隣の村人たちが、万歳三唱をしながら、イランイランの花びらを二人に投げかける。
濃厚で妖艶な花の香がマーシアの鼻腔をくすぐる。
タラア島の海岸線を丸一日かけて一周したあとも、長々と儀式は続く。
マーシアはヘトヘトだったが、幼い国王が文句ひとつ言わずにぴんと背筋を伸ばして、常に微笑みを絶やさない様子を見て、「私も頑張らなければ」と思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いよいよ儀式の最終段階となった。
王宮の大広間でマーシアが、タラア王家と王家に代々仕えている重臣たちの前で、伝統の「花嫁のダンス」を披露する。
腰をくねくねと振りながら足を踏み鳴らす、セクシーで野性的な踊りだ。
三か月間の練習のかいあって、マーシアのダンスは大成功をおさめた。
ダンスが終わり、マーシアが集まった人々に挨拶をすると、割れるような大喝采がおこり、結婚式はお開きとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「陛下、マーシアさま、これでお終いです。
おふたりともよく頑張りましたね」
結婚式が終わると、二人は爺やの案内で、新しく建てられた夫婦の寝室に入り、ベッドに座った。
国王夫妻の新婚の寝室は、一般庶民の家よりすこし大きい、竪穴式住居。
マーシアが寄宿学校に通っていたころ、学校の歴史の教科書の最初の方に、「古代人の住居」として掲載されていた写真にそっくりである。
地面に穴を掘って、円錐型に組まれた丸木の柱の上に、藁がふかれている原始的な建物だ。
けれども一般庶民はこれよりも狭い家に、5人ぐらいの家族で住んでいるという。
夫婦だけ、しかも寝るだけの目的で使っているというのは、タラア島では、かなりの贅沢なのだった。
床は土の上に、茣蓙が敷かれているだけ。
壁も天井もないので、丸木の骨組みが丸見えだ。
その中心に、素朴な内装にはちょっと不釣り合いな、ロイデン王国の高級家具メーカー製のキングサイズのベッドが、どんっと置いてある。
もともとタラア王家の人々は床の茣蓙の上にそのまま眠るそうだが、わざわざマーシアのために、ロイデン王国から輸入してくれたらしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少年王は重い髪飾りや装身具にぐったりとしたようすだが、満足そうにマーシアを見つめている。
マーシアは夫に優しく笑いかけると、ねぎらいの言葉をかけた。
「陛下、今日は本当に頑張りましたね。
丸一日、日差しと潮風の強い中、こんなに重い髪飾りをつけて、一言も文句をおっしゃらずに……
まだお小さいのに本当にご立派でいらっしゃいました」
マーシアは、少年王の滑らかなあごの下に手をすべらせると、髪飾りを支えている紐の蝶結びをほどく……
使用人に荷造りの指示をしたのち、島に戻る。
これから三か月間のお后教育が始まる。
忙しくなりそうだ。
ネリィもマーシアと一緒にタラア島に移住することになった。
ネリィはタラア人と結婚するわけではないので国籍の取得が大変かと思ったが、意外なほど簡単だった。
小さな国なので国王の知り合いなら、かなり融通が利くらしい。
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マーシアのお后教育の内容は、多岐にわたった。
伝統舞踊、古代タラア語(現代タラア語はロイデン語とは方言程度の違いしかないが、古代タラア語はロイデン語とは全然違う。古代タラア語は王宮の儀式でつかわれるので、王族にとっては必須の教養となっている)。
ハイビスカスなどの南国の花を使った華道。
豚肉と海鮮がメインの伝統料理。
挨拶の仕方などの礼儀作法。
伝統的な手工芸。
タラア王家の歴史、などなどだ。
マーシアは毎日目の回るような忙しさだった。
教えられたことはすべてメモをとって、夕方にコテージに戻ってからは毎晩復習。
日々努力を重ねていたところ、タラア人にとっては驚きの習得の速さだったらしい。
先生たちにマーシア様は天才だ、と噂されていると聞いて、マーシアは照れ臭くなった。
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それから三か月後、今日はいよいよ少年王とマーシアの婚礼の儀。
結婚式に現れた王族、貴族の夫婦たちは、女性が年上で、親子ほども年が違う人ばかり。
少年王の爺やの言っていた通りだった。
マーシアは王様との年齢差を気にしなくてもいいことを、改めて実感した。
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花嫁衣裳は、伝統的な腰蓑衣装。
半裸の上半身を覆う、重い重い装身具。
日本の歌舞伎や中国の京劇のようなメイク。
結いあげて砂糖で固めた髪に、肩こり必至の重厚な髪飾り。
花婿も花嫁よりは簡素なものの、先祖代々使用しているという、髪飾りは重そうで、健気に耐えている姿は見るのもつらい。
マーシアは王様から早く髪飾りを外してあげたくなった。
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マーシアとタラア王が乗った輿は、タラア島の海岸線を丸一日かけて、ぐるりと一周する。
行く先々で近隣の村人たちが、万歳三唱をしながら、イランイランの花びらを二人に投げかける。
濃厚で妖艶な花の香がマーシアの鼻腔をくすぐる。
タラア島の海岸線を丸一日かけて一周したあとも、長々と儀式は続く。
マーシアはヘトヘトだったが、幼い国王が文句ひとつ言わずにぴんと背筋を伸ばして、常に微笑みを絶やさない様子を見て、「私も頑張らなければ」と思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いよいよ儀式の最終段階となった。
王宮の大広間でマーシアが、タラア王家と王家に代々仕えている重臣たちの前で、伝統の「花嫁のダンス」を披露する。
腰をくねくねと振りながら足を踏み鳴らす、セクシーで野性的な踊りだ。
三か月間の練習のかいあって、マーシアのダンスは大成功をおさめた。
ダンスが終わり、マーシアが集まった人々に挨拶をすると、割れるような大喝采がおこり、結婚式はお開きとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「陛下、マーシアさま、これでお終いです。
おふたりともよく頑張りましたね」
結婚式が終わると、二人は爺やの案内で、新しく建てられた夫婦の寝室に入り、ベッドに座った。
国王夫妻の新婚の寝室は、一般庶民の家よりすこし大きい、竪穴式住居。
マーシアが寄宿学校に通っていたころ、学校の歴史の教科書の最初の方に、「古代人の住居」として掲載されていた写真にそっくりである。
地面に穴を掘って、円錐型に組まれた丸木の柱の上に、藁がふかれている原始的な建物だ。
けれども一般庶民はこれよりも狭い家に、5人ぐらいの家族で住んでいるという。
夫婦だけ、しかも寝るだけの目的で使っているというのは、タラア島では、かなりの贅沢なのだった。
床は土の上に、茣蓙が敷かれているだけ。
壁も天井もないので、丸木の骨組みが丸見えだ。
その中心に、素朴な内装にはちょっと不釣り合いな、ロイデン王国の高級家具メーカー製のキングサイズのベッドが、どんっと置いてある。
もともとタラア王家の人々は床の茣蓙の上にそのまま眠るそうだが、わざわざマーシアのために、ロイデン王国から輸入してくれたらしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少年王は重い髪飾りや装身具にぐったりとしたようすだが、満足そうにマーシアを見つめている。
マーシアは夫に優しく笑いかけると、ねぎらいの言葉をかけた。
「陛下、今日は本当に頑張りましたね。
丸一日、日差しと潮風の強い中、こんなに重い髪飾りをつけて、一言も文句をおっしゃらずに……
まだお小さいのに本当にご立派でいらっしゃいました」
マーシアは、少年王の滑らかなあごの下に手をすべらせると、髪飾りを支えている紐の蝶結びをほどく……
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