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第2章 バカンス先で恋の予感♪お相手はなんと!!
8、タラア王国の風習
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翌朝マーシアはコテージの掃除にせいをだしていた。
マーシアはバカンス先で、なるべく静かに暮らしたかったので、使用人はネリィしか連れてきていない。
今はそのことを、少し後悔している。
コテージはかなり広い。
それにタラア島はコンビニもないし、レストランも少ない。
食事は基本的に市場で買ってきた食材で、一から作らなければならないのだ。
さらに電気洗濯機もないので、洗濯はすべて手洗い。
バカンスに来てからの、ネリィの負担はなかなかのものだった。
そこでマーシアもせっせと家事を手伝っている。
「まあ、お嬢様、そんなことお嬢様がなさらずとも」
「ここでの家事を、あなた一人で全部やるのはさすがに無理だと思うわ。
それにお医者様からはなるべく身の回りのことは自分でやるほうが、精神にいいと言われているのよ」
ネリィにいくら止められても、マーシアはテキパキと体を動かすことをやめない。
そんなわけで、今では二人で協力して掃除、洗濯、炊事をするのが当たり前になってしまった。
今日も朝早くから二人してせっせと床を掃いたり、台所を磨いたりしている。
マーシアは「 立つ鳥跡を濁さず」でいたいと思っている。
実は最近、マーシアはコテージの使用人たちが、こっそりしていた愚痴を耳にしてしまったのだ。
使用人たちによると、前使っていたロイデン王国からのバカンス客が、ロッジをひどく汚して、そのまま帰ってしまったそうだ。
マーシアたちが来る前に掃除するのが大変だったらしい。
マーシアはそれを聞いてロイデン人として恥ずかしくなり、こう決意した。
「せめて私たちはきれいにしてから帰って、ロイデン人の評判をとりもどしましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ネリィ、その窓ガラスを拭き終わったら今日はもう終わりにしましょう。
今日は私がハイビスカスティーをいれてあげるから」
マーシアはそう言いながら、はずしたエプロンを置きに洗濯室に行こうと、屋外に面した廊下を通る。
マーシアの目線の先、コテージの入口の門の向こうに、70歳ぐらいのお爺さんが立っていた。
服装はこの国の伝統的な半裸の腰みのスタイル。
長いグレーの髪。
立派なウェーブした髭。
半裸の胸と、ひじから下をぎっしりと覆う装身具。
立派な風貌からいって、おそらくかなり身分の高い人物だろう。
「……あの? なにか御用でしょうか?」
マーシアが尋ねると、お爺さんは、分厚い唇をへの字にして、
「マーシア様! 陛下のどこが不足でいらっしゃるのでしょう?
私は陛下の爺やで、陛下が赤ちゃんの頃からお世話をしてまいりました。
私にとって陛下は自慢の若様です。
あのように美しくて賢くて気立てのよい男の子はなかなかおりません。
それに家柄や地位、財産においてもマーシア様にとって不足はないはずですが」
あのかわいらしい少年王の爺やさんだったらしい。
マーシアはさっそくテラスのテーブルにお茶を用意して、軽食を出してお爺さんをもてなした。
「もちろん不足がないどころか、私には過ぎた方だということを、よくわかっておりますわ」
とマーシア。
「ではなぜ陛下からのプロポーズをお断りになったのですか?」
とお爺さん。
「だって、私は今年31歳。
陛下はまだ11歳ぐらいでいらっしゃるのでしょう?
陛下が子供を作れるようになった頃には、もう私は高齢出産になってしまいます。
お世継ぎを生むことが王妃の一番大切な役目でしょう?
私ではその責務を果たせない可能性が高いと思います」
マーシアの話を聞くと、お爺さんは、不機嫌そうな顔をやめ、ににこにこと笑いだした。
ぶ厚い唇がもたらす威圧感がとたんに和らぐ。
「おや、おや、マーシア様、そんなことを心配していらしたのですか?
陛下とご結婚されても、お世継ぎのことはまったく気になさらなくていいのですよ。
お世継ぎなら陛下の二番目以降の奥さんがお生みになるでしょうから」
「ええっ! 二番目以降の奥さんですって!!」
「ああ、そういえばマーシアさまのお国では、貴族の男性は、同年代か年下の女性おひとりだけと結婚されて、その女性がお世継ぎを生むのでしたね。
それが我が国ではちょっと違うのです」
お爺さんによると、タラア王国ではある程度財産のある男性はまず十代半ばで一回り以上年上の未亡人と結婚するのが通常らしい。
「私の第一婦人もマーシア様と陛下と同じく、20歳の年の差でした。
マーシアさまは今31歳。
陛下は11歳。
夫婦になるのにちょうどいい年回りです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お爺さんによると、タラア王国ではこう考えられているらしい。
若くして年上の女性と結婚することで、少年は一人前の男になれる。
年上の妻は世継ぎを生むことは、それほど期待されていない。
そして男性が30歳ぐらいになると、今度はこれからたくさん子供が生めそうな20歳ぐらいの若い女性と結婚するのだという。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マーシア様には、陛下の一番目の奥さんになっていただきたいのです」
……つまり一夫他妻を前提としているわけだ。
どうしよう?
マーシアは悩んだ。
そしてこう答えた。
「一日考えさせてください」
マーシアはバカンス先で、なるべく静かに暮らしたかったので、使用人はネリィしか連れてきていない。
今はそのことを、少し後悔している。
コテージはかなり広い。
それにタラア島はコンビニもないし、レストランも少ない。
食事は基本的に市場で買ってきた食材で、一から作らなければならないのだ。
さらに電気洗濯機もないので、洗濯はすべて手洗い。
バカンスに来てからの、ネリィの負担はなかなかのものだった。
そこでマーシアもせっせと家事を手伝っている。
「まあ、お嬢様、そんなことお嬢様がなさらずとも」
「ここでの家事を、あなた一人で全部やるのはさすがに無理だと思うわ。
それにお医者様からはなるべく身の回りのことは自分でやるほうが、精神にいいと言われているのよ」
ネリィにいくら止められても、マーシアはテキパキと体を動かすことをやめない。
そんなわけで、今では二人で協力して掃除、洗濯、炊事をするのが当たり前になってしまった。
今日も朝早くから二人してせっせと床を掃いたり、台所を磨いたりしている。
マーシアは「 立つ鳥跡を濁さず」でいたいと思っている。
実は最近、マーシアはコテージの使用人たちが、こっそりしていた愚痴を耳にしてしまったのだ。
使用人たちによると、前使っていたロイデン王国からのバカンス客が、ロッジをひどく汚して、そのまま帰ってしまったそうだ。
マーシアたちが来る前に掃除するのが大変だったらしい。
マーシアはそれを聞いてロイデン人として恥ずかしくなり、こう決意した。
「せめて私たちはきれいにしてから帰って、ロイデン人の評判をとりもどしましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ネリィ、その窓ガラスを拭き終わったら今日はもう終わりにしましょう。
今日は私がハイビスカスティーをいれてあげるから」
マーシアはそう言いながら、はずしたエプロンを置きに洗濯室に行こうと、屋外に面した廊下を通る。
マーシアの目線の先、コテージの入口の門の向こうに、70歳ぐらいのお爺さんが立っていた。
服装はこの国の伝統的な半裸の腰みのスタイル。
長いグレーの髪。
立派なウェーブした髭。
半裸の胸と、ひじから下をぎっしりと覆う装身具。
立派な風貌からいって、おそらくかなり身分の高い人物だろう。
「……あの? なにか御用でしょうか?」
マーシアが尋ねると、お爺さんは、分厚い唇をへの字にして、
「マーシア様! 陛下のどこが不足でいらっしゃるのでしょう?
私は陛下の爺やで、陛下が赤ちゃんの頃からお世話をしてまいりました。
私にとって陛下は自慢の若様です。
あのように美しくて賢くて気立てのよい男の子はなかなかおりません。
それに家柄や地位、財産においてもマーシア様にとって不足はないはずですが」
あのかわいらしい少年王の爺やさんだったらしい。
マーシアはさっそくテラスのテーブルにお茶を用意して、軽食を出してお爺さんをもてなした。
「もちろん不足がないどころか、私には過ぎた方だということを、よくわかっておりますわ」
とマーシア。
「ではなぜ陛下からのプロポーズをお断りになったのですか?」
とお爺さん。
「だって、私は今年31歳。
陛下はまだ11歳ぐらいでいらっしゃるのでしょう?
陛下が子供を作れるようになった頃には、もう私は高齢出産になってしまいます。
お世継ぎを生むことが王妃の一番大切な役目でしょう?
私ではその責務を果たせない可能性が高いと思います」
マーシアの話を聞くと、お爺さんは、不機嫌そうな顔をやめ、ににこにこと笑いだした。
ぶ厚い唇がもたらす威圧感がとたんに和らぐ。
「おや、おや、マーシア様、そんなことを心配していらしたのですか?
陛下とご結婚されても、お世継ぎのことはまったく気になさらなくていいのですよ。
お世継ぎなら陛下の二番目以降の奥さんがお生みになるでしょうから」
「ええっ! 二番目以降の奥さんですって!!」
「ああ、そういえばマーシアさまのお国では、貴族の男性は、同年代か年下の女性おひとりだけと結婚されて、その女性がお世継ぎを生むのでしたね。
それが我が国ではちょっと違うのです」
お爺さんによると、タラア王国ではある程度財産のある男性はまず十代半ばで一回り以上年上の未亡人と結婚するのが通常らしい。
「私の第一婦人もマーシア様と陛下と同じく、20歳の年の差でした。
マーシアさまは今31歳。
陛下は11歳。
夫婦になるのにちょうどいい年回りです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お爺さんによると、タラア王国ではこう考えられているらしい。
若くして年上の女性と結婚することで、少年は一人前の男になれる。
年上の妻は世継ぎを生むことは、それほど期待されていない。
そして男性が30歳ぐらいになると、今度はこれからたくさん子供が生めそうな20歳ぐらいの若い女性と結婚するのだという。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「マーシア様には、陛下の一番目の奥さんになっていただきたいのです」
……つまり一夫他妻を前提としているわけだ。
どうしよう?
マーシアは悩んだ。
そしてこう答えた。
「一日考えさせてください」
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