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第2章 バカンス先で恋の予感♪お相手はなんと!!

7、可愛いプロポーズ

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翌日また同じ時刻に、マーシアとメイドのネリィは、ヤシの植え込みの下のベンチに座った。

今日は例の「美少年の王子」を見逃さないために、出発のときに飲み物を買ってある。

マーシアのメディテーションも今日ばかりはお休みだ。

ネリィが、ウェットティッシュでベンチの砂を吹くと、二人してベンチに座る。

「くるかな? くるかな?」

そわそわしているネリィのせいか、マーシアもなんだか胸がどきどきしてきた。

昨日とほぼ全く同じ時間に、椰子の木陰からぬっと、くだんの美少年が現れた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

昨日はマーシアが声をかけるなり逃げていってしまったので、よく見えなかったが、少年の姿は上半身裸で、腰みのをつける伝統的なスタイル。

ひざ丈の腰みのからすらりとしたひざ下が伸びていて、サンダルを履いている。

ブランド品の上等のものだ。

外国から輸入したものだろう。

やはり身分の高い少年らしい。

少年は両腕を後ろに回している。

ほっそりとした背中の陰から、ちらちらと赤いハイビスカスの花弁が見える。

ハイビスカスの花束を抱えている?

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「うわっ!! かわいい……尊い」
と涙目で震えているネリィを後目しりめに少年は頬を真っ赤にして、マーシアの眼の前に立った。

緊張した面持ちで、おずおずと形のよい唇を開く。

「き……昨日は挨拶してくださったのに、逃げてしまいごめんなさい」

まだ声変わりしていない、可憐なボーイソプラノだった。

「そんなこと構いませんわ。いきなり知らない大人に声をかけられて、きっとびっくりなさったのね」

マーシアがそう答えると、少年は
「お…姉さまは、僕にとって『知らない大人』ではありません。
僕は3週間前からお姉さまを毎日見ています。
お姉さまはいつも、この時間にベンチに座って、瞑想をなさっていた……」

「まあ! あなた……私がこの島に来た日から、ま……毎日みていたの!!?」

「ごっ! ごめんなさい!!
女性をこっそり盗み見するなんて、紳士のすることではありませんね!!
でもお姉さま!! 
僕はお姉さまほど美しい女性にお会いしたことはありません!! 
今日、お姉様が、もうじき故郷に帰ってしまわれると爺やから聞きました。
もうお姉様をお見かけすることができないなんて、僕は胸が張り裂けそうです。
どうか、帰らないでください。
帰らないで、僕と結婚してください!!」

「あらっ! 嬉しい。
……でも王子様、そういうわけにはいかないわ。
私はあなたには年上すぎるもの」

「僕は王子ではありません。この国の王です。
昨年お爺様が亡くなったので僕が王位をつぎました」

「ええっ?」 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

マーシアは家から持ってきたガイドブックに書かれていた、タラア王国の王についての記述を思い出した。

ガイドブックによればタラア王国の国王は95歳。

在位60年と書かれていた。

けれども、そういえばあのガイドブックは屋敷の図書室で見つけたもので、もう色あせていた。

結構前に出版された本だったのではなかろうか?

少なくとも最新版ではない。

ちょっと情報が古かったのだろう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「昨年僕の、お爺様が亡くなりました。
僕のお父様は、僕が小さいころに亡くなりましたので、僕がお爺様の後を継いで、タラア王国の王様になりました」

「……そうだったのね。
私はてっきりあなたのお爺様はまだお元気なのだと思っていましたわ。
ごめんなさい。
私、この国にバカンスに来るのに、ろくにこの国のことも調べずに……」

「そんなことちっとも構いません。
それよりも、お姉さまは、僕の奥さんになってくださいますか?」

「申し訳ないけれど、そういうわけにはいかないわ。
私とあなたは年が違いすぎるもの」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

少年王の抱えていた大輪の花束がパッと散った。

「そうですか、わかりました」

涙声とともに、少年王はしなやかな体を翻して、椰子の林の中に消えていってしまった。

マーシアとネリィの足元には、赤いハイビスカスの花が散らばっている。

「悪いことしてしまったわ。
あんなに真摯に愛を告げられたのは、生まれてはじめてだった。
でも彼が子供を作れるようになった頃、私は妊娠適齢期を過ぎているわ。
王妃にとっては跡継ぎを産むことが一番大切な仕事。
私はそれを果たせない。
お断りするのは、間違っていなかったと思う」

「まあ、確かに、お嬢様のおっしゃる通りですわ。
かわいい男の子を見るのは大好きだけど、アラサーの私たちがお婿さんにしたいかといいますとねえ」
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