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第1章 侯爵令嬢マーシア婚約破棄される

1、「喜んでくれマーシア!! 僕はついに僕の天職に出会ったんだ!」

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「喜んでくれマーシア!! 僕はついに僕の天職に出会ったんだ!」



そう猛スピードで語るイケボの主は、侯爵令嬢マーシア・エミルランドの婚約者、ロ

イデン王国の第二王子クラークだ。



いま海外留学中で、マーシアと王子は国際電話で会話をしている。



「まるで天から啓示が降りてきたみたいなんだ!! 僕の今までの回り道は料理の道に進むための道しるべだったんだと今わかったんだ!!」



電話の向こうからツバキが飛んできそうな、熱っぽい語り口はマーシアにとって、聞きなれたものだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆



侯爵令嬢マーシア エミルランドの婚約者、ロイデン王国の第二王子クラークは29歳になるのに生まれてから一度も働いたことがない。



通常ならロイデン国の王太子以外の王子は、21歳で大学を卒業したら軍人か、国家公務員になって忙しく働くものと決まっていた。



けれどもクラークときたら、大学を卒業してからもう何年もたつというのに、いまだに働く気が起こらないようだ。



留学したい、今度はミュージシャンを目指したい、それがうまくいかないと今度は小説家、やはり僕の本当に目指す道は役者だった、としょっちゅうやりたいことが変わり、どれもものにならない。



そんなクラークが今度は料理研究家になる、と言い出した。



これにはどちらかというと、のんびりやのマーシアも、いよいよ危機感を持たずにはいられない。



というのはマーシアは王子より1歳年上で今年30歳。



そろそろプリンセスラインのウェディングドレスは、似合わなくなってきたころ。



この21世紀にもなって、封建制、身分制、男尊女卑が現役の、中世ヨーロッパのようなロイデン王国では、完全にいきおくれだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆



三十路みそじにもなって、まだ結婚できていないことを、社交界でこそこそ言われていることを、マーシアがそれとなくクラークに伝えると、



「大丈夫だよ。マーシア。

僕は自分は心底料理の道に向いていると思うから。

一年間学校で料理の基礎をみっちり勉強すれば、来年にはバンバン独自のレシピを発案して、レシピ本を出版して一躍有名料理研究家になってみせるって」







電話が切れた後、マーシアはさっそく、クラークが通うことになったという、料理学校をネットで調べた。



生徒の年齢層は高校卒業後の18歳、19歳ぐらい。



二年制で、一年目は料理の基礎を勉強。



二年目は料理人試験の試験対策と就職活動と、インターン。



主な就職先は町の食堂らしい。



……こんなところで勉強したって「有名料理研究家」などになれるのだろうか?






「大丈夫、僕はこの前友達とのパーティのときに、ハンバーグをちょっと材料を変えて作ったら皆に絶賛されたんだ。僕には才能があるから一年も料理の基礎を学べば、すぐに料理本をどんどん出版して、有名料理研究家になれるよ」



マーシアは王子のそんな言葉を思い出して、ああ!! この人は本当に学習能力というものがないんだなあ!! とため息をついた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆



王子は今まで、夢見がちな若者が挑戦しそうなことには、一通りチャレンジしてきた。



王子はそのたびに「僕には天才的才能があるんだ!!」と思い込んで、死に物狂いで勉強を始める。



けれどもその興味はもって二年、早い場合は三か月というところだ。



そして飽きてくると、今まであれほど熱中して、お金もつぎ込んでいた道を、あっけなく捨ててしまう。



それからまた別の「天職」を見つけ出して、学校に入ったり、必要な道具を揃えだしたりしだす。



そしてある程度その道を進むと、すぐにいやになってしまって、放り投げて、また別の方面に自分の才能を見いだす。



クラーク王子が今まで目指したのは、画家(油絵からアニメ風萌え絵まで一通り)、小説家(純文学から、俺TUEE系まで多数のジャンルの)、漫画家、ミュージシャン(歌手、ギターの弾き語り、バンドに入ってドラム)などなど。



多すぎて、両手の指で数えきれないほどだ。



どうせ今度の料理研究家も今までの二の舞になるのだろう。



そう思ってマーシアが暗澹たる思いで日々を過ごしていると、クラーク王子の父上と母上である国王陛下と王妃様からマーシアに、お茶のご招待があった。
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