1 / 14
第1章 侯爵令嬢マーシア婚約破棄される
1、「喜んでくれマーシア!! 僕はついに僕の天職に出会ったんだ!」
しおりを挟む
「喜んでくれマーシア!! 僕はついに僕の天職に出会ったんだ!」
そう猛スピードで語るイケボの主は、侯爵令嬢マーシア・エミルランドの婚約者、ロ
イデン王国の第二王子クラークだ。
いま海外留学中で、マーシアと王子は国際電話で会話をしている。
「まるで天から啓示が降りてきたみたいなんだ!! 僕の今までの回り道は料理の道に進むための道しるべだったんだと今わかったんだ!!」
電話の向こうからツバキが飛んできそうな、熱っぽい語り口はマーシアにとって、聞きなれたものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
侯爵令嬢マーシア エミルランドの婚約者、ロイデン王国の第二王子クラークは29歳になるのに生まれてから一度も働いたことがない。
通常ならロイデン国の王太子以外の王子は、21歳で大学を卒業したら軍人か、国家公務員になって忙しく働くものと決まっていた。
けれどもクラークときたら、大学を卒業してからもう何年もたつというのに、いまだに働く気が起こらないようだ。
留学したい、今度はミュージシャンを目指したい、それがうまくいかないと今度は小説家、やはり僕の本当に目指す道は役者だった、としょっちゅうやりたいことが変わり、どれもものにならない。
そんなクラークが今度は料理研究家になる、と言い出した。
これにはどちらかというと、のんびりやのマーシアも、いよいよ危機感を持たずにはいられない。
というのはマーシアは王子より1歳年上で今年30歳。
そろそろプリンセスラインのウェディングドレスは、似合わなくなってきたころ。
この21世紀にもなって、封建制、身分制、男尊女卑が現役の、中世ヨーロッパのようなロイデン王国では、完全にいきおくれだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
三十路にもなって、まだ結婚できていないことを、社交界でこそこそ言われていることを、マーシアがそれとなくクラークに伝えると、
「大丈夫だよ。マーシア。
僕は自分は心底料理の道に向いていると思うから。
一年間学校で料理の基礎をみっちり勉強すれば、来年にはバンバン独自のレシピを発案して、レシピ本を出版して一躍有名料理研究家になってみせるって」
電話が切れた後、マーシアはさっそく、クラークが通うことになったという、料理学校をネットで調べた。
生徒の年齢層は高校卒業後の18歳、19歳ぐらい。
二年制で、一年目は料理の基礎を勉強。
二年目は料理人試験の試験対策と就職活動と、インターン。
主な就職先は町の食堂らしい。
……こんなところで勉強したって「有名料理研究家」などになれるのだろうか?
「大丈夫、僕はこの前友達とのパーティのときに、ハンバーグをちょっと材料を変えて作ったら皆に絶賛されたんだ。僕には才能があるから一年も料理の基礎を学べば、すぐに料理本をどんどん出版して、有名料理研究家になれるよ」
マーシアは王子のそんな言葉を思い出して、ああ!! この人は本当に学習能力というものがないんだなあ!! とため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
王子は今まで、夢見がちな若者が挑戦しそうなことには、一通りチャレンジしてきた。
王子はそのたびに「僕には天才的才能があるんだ!!」と思い込んで、死に物狂いで勉強を始める。
けれどもその興味はもって二年、早い場合は三か月というところだ。
そして飽きてくると、今まであれほど熱中して、お金もつぎ込んでいた道を、あっけなく捨ててしまう。
それからまた別の「天職」を見つけ出して、学校に入ったり、必要な道具を揃えだしたりしだす。
そしてある程度その道を進むと、すぐにいやになってしまって、放り投げて、また別の方面に自分の才能を見いだす。
クラーク王子が今まで目指したのは、画家(油絵からアニメ風萌え絵まで一通り)、小説家(純文学から、俺TUEE系まで多数のジャンルの)、漫画家、ミュージシャン(歌手、ギターの弾き語り、バンドに入ってドラム)などなど。
多すぎて、両手の指で数えきれないほどだ。
どうせ今度の料理研究家も今までの二の舞になるのだろう。
そう思ってマーシアが暗澹たる思いで日々を過ごしていると、クラーク王子の父上と母上である国王陛下と王妃様からマーシアに、お茶のご招待があった。
そう猛スピードで語るイケボの主は、侯爵令嬢マーシア・エミルランドの婚約者、ロ
イデン王国の第二王子クラークだ。
いま海外留学中で、マーシアと王子は国際電話で会話をしている。
「まるで天から啓示が降りてきたみたいなんだ!! 僕の今までの回り道は料理の道に進むための道しるべだったんだと今わかったんだ!!」
電話の向こうからツバキが飛んできそうな、熱っぽい語り口はマーシアにとって、聞きなれたものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
侯爵令嬢マーシア エミルランドの婚約者、ロイデン王国の第二王子クラークは29歳になるのに生まれてから一度も働いたことがない。
通常ならロイデン国の王太子以外の王子は、21歳で大学を卒業したら軍人か、国家公務員になって忙しく働くものと決まっていた。
けれどもクラークときたら、大学を卒業してからもう何年もたつというのに、いまだに働く気が起こらないようだ。
留学したい、今度はミュージシャンを目指したい、それがうまくいかないと今度は小説家、やはり僕の本当に目指す道は役者だった、としょっちゅうやりたいことが変わり、どれもものにならない。
そんなクラークが今度は料理研究家になる、と言い出した。
これにはどちらかというと、のんびりやのマーシアも、いよいよ危機感を持たずにはいられない。
というのはマーシアは王子より1歳年上で今年30歳。
そろそろプリンセスラインのウェディングドレスは、似合わなくなってきたころ。
この21世紀にもなって、封建制、身分制、男尊女卑が現役の、中世ヨーロッパのようなロイデン王国では、完全にいきおくれだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
三十路にもなって、まだ結婚できていないことを、社交界でこそこそ言われていることを、マーシアがそれとなくクラークに伝えると、
「大丈夫だよ。マーシア。
僕は自分は心底料理の道に向いていると思うから。
一年間学校で料理の基礎をみっちり勉強すれば、来年にはバンバン独自のレシピを発案して、レシピ本を出版して一躍有名料理研究家になってみせるって」
電話が切れた後、マーシアはさっそく、クラークが通うことになったという、料理学校をネットで調べた。
生徒の年齢層は高校卒業後の18歳、19歳ぐらい。
二年制で、一年目は料理の基礎を勉強。
二年目は料理人試験の試験対策と就職活動と、インターン。
主な就職先は町の食堂らしい。
……こんなところで勉強したって「有名料理研究家」などになれるのだろうか?
「大丈夫、僕はこの前友達とのパーティのときに、ハンバーグをちょっと材料を変えて作ったら皆に絶賛されたんだ。僕には才能があるから一年も料理の基礎を学べば、すぐに料理本をどんどん出版して、有名料理研究家になれるよ」
マーシアは王子のそんな言葉を思い出して、ああ!! この人は本当に学習能力というものがないんだなあ!! とため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆
王子は今まで、夢見がちな若者が挑戦しそうなことには、一通りチャレンジしてきた。
王子はそのたびに「僕には天才的才能があるんだ!!」と思い込んで、死に物狂いで勉強を始める。
けれどもその興味はもって二年、早い場合は三か月というところだ。
そして飽きてくると、今まであれほど熱中して、お金もつぎ込んでいた道を、あっけなく捨ててしまう。
それからまた別の「天職」を見つけ出して、学校に入ったり、必要な道具を揃えだしたりしだす。
そしてある程度その道を進むと、すぐにいやになってしまって、放り投げて、また別の方面に自分の才能を見いだす。
クラーク王子が今まで目指したのは、画家(油絵からアニメ風萌え絵まで一通り)、小説家(純文学から、俺TUEE系まで多数のジャンルの)、漫画家、ミュージシャン(歌手、ギターの弾き語り、バンドに入ってドラム)などなど。
多すぎて、両手の指で数えきれないほどだ。
どうせ今度の料理研究家も今までの二の舞になるのだろう。
そう思ってマーシアが暗澹たる思いで日々を過ごしていると、クラーク王子の父上と母上である国王陛下と王妃様からマーシアに、お茶のご招待があった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
半世紀の契約
篠原 皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる