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ここはエンペラー王国の辺境にあるココ村、普段はゆったりとした時間が流れる村だけど、今日はみんなソワソワして落ち着きがないみたい。
理由は分かってる。
今日は、王都で行われる勇者と聖女の選定の儀式に村長の娘ジュリアが、聖女候補として参加するために王都に出発する日だからだ。
何故か、わたしも付き人として行くことになっていて驚いたのが昨日で、慌てて荷物をまとめた。
わたしを選んだのはジュリアだったらしく、理由をきいてみた。

「だってレティシアは家族もいなくて可哀想でしょ?村にも馴染めてないし、とても心配しているのよ。貴女が少しでも幸せを感じられるように、王都を見せてあげたかったの。今回のことがなかったら貴女じゃ一生行けないもの」

彼女に悪気はない……ただ思ったことをそのまま口にしただけだ。
けど、悪気がないと分かっていても、何も感じないわけじゃない。
でも、ここで反論したところで、周りから責められるのはわたしだ。
だからジッと我慢する。
出発の時間になり馬車に乗り込むと、ジュリアとの別れを惜しむ声がいくつも聞こえてくる。
当然ながら、わたしへの言葉はひとつもない。

「みなさん、お元気で!わたしは聖女として役目を果たします!」

おかしいな?
ジュリアは聖女候補・・・・であってまだ聖女・・じゃないはずだけど。
彼女の中で……いえ、村全体がジュリアが聖女に選ばれるのが決定事項になっているみたい。
現に、移動中の馬車(領主様が用意した)の中でのこと。

「ねぇ、レティシア」
「何?」
「……わたしは聖女・・なのだから、わたしに対する言葉遣いを改めた方が良いと思うの」
「まだ決まってないじゃない」
「まぁ、貴女はわたし以外が聖女に選ばれると思っているの?ひどいわ。そんなことを言うなんて……分かったわ……嫉妬しているのね」
「………はい?」
「しょうのない子ね。大丈夫よ。聖女の儀が終わっても、ずっと付き人として側においてあげるわから安心して」
「…………」

誰もそんなこと望んでないし、嫉妬してもいない。
それに何度も言うけど、まだジュリアが聖女になると決まっているわけじゃない。
わたしは口から出そうになった言葉を必死に我慢して無言を貫いた。
言ったところで彼女には通じないもの。
ジュリアはそんなわたしを気にするでもなく、王都に着いたらどうのこうのと妄想を語り続けていた。
いい加減、いろんな意味で疲れてきたころ、王都から迎えにきた人たちと合流する町に到着した。






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