上 下
18 / 166
禁忌の子

帰還

しおりを挟む
バルドたちが無事に戻ってきたが、随分早かったので疑問に思っていると、チェイスがバルドに聞いていた。

「お前は、静かにできんのか……まぁいい随分早かったが何かあったのか?」

「ハッ!!実は途中で救援部隊の斥候と接触しました!!部隊はここから王国側に向かう途中にある岩場に待機しています!!」

「本当か!?随分近くまで来ていたな」

「何でも、宰相様が内通者の存在を疑い陛下に報告したところ、直ぐに部隊を出発させたそうです!!国内にいる内通者は調べがついた者から捕らえているそうです!!」

「流石だな」

バルドの報告に感心していたチェイスは次の言葉に固まった。

「それから隊長とカルロス様に宰相様からの伝言があります!!」

「「え!?」」

(へぇ~宰相様って切れ者なのかなぁ……それにしてもカルロス……様?ライルさんたちは‘カルロスさん’なのに)

私が不思議に思いカルロスを見上げると、震えていた……チェイスも。

(???)

「まず隊長!!‘あれほど詳細が分かるまで待機していろと言ったのにもかかわらず、突っ走って敵の罠にまんまと嵌まるとは情けない!帰ったら鍛え直してやる覚悟しておけ!’とのことです!!」

チェイスは青ざめ目が死んでいた。

(勝手に来てたの!?でも拐われた中にセレーナさんとウィル君がいたから更に心配だもんね)

「カルロス様!!‘王子の護衛隊長でありながら城内で拐われるとは情けない!お前も帰ったら鍛え直してやる!覚悟しておけ愚弟!’以上です!!」

カルロスも青ざめ目が死んでいる。

(宰相様って恐い人なのかなぁ……カルロスさんも愚弟って言われてるし………愚弟って……弟!?カルロスさん宰相様の弟なの!?)

びっくりして思わずカルロスを二度見してしまった。
救援部隊が近くにいるなら早く合流した方がいいと思い提案した。

「あの~私が戻って、皆をここに転移させて合流しますか?それとも私がその部隊がいる場所に行ってから一気にそこへ転移したほうがいいですか?」

「「「「?」」」」

私の提案にバルドたち4人は不思議そうにしていたが復活したチェイスとカルロス、ライルとロイは思案しているようだった。

「嬢ちゃんを一度連れてって、一気に転移した方が安全じゃねぇか?チェイス」

「確かに、怪我は治っているが子どももいるし移動は遅くなるしな」

「じゃあ誰が連れて行くんですか?隊長」

「一応、部隊の方にも説明しないと、いきなり全員で現れたら驚きますよ」

「という訳でチェイスでいいだろ」

「ですね」「そうですね」

「…………まぁそうだな」

話がついたようで、チェイスが私に背を向けてしゃがんだのでおぶさった。

「しゃあ行ってくるから、お前たちは皆に説明しておいてくれ」

そう言ってチェイスは走り出した。
私はチェイスに伝えたいことがあったので、今のうちに言うことにした。

「チェイス………ありがとう」

「何がだ?落ちないようにしっかり掴まれよ」

「うん」

(後でカルロスさんにも伝えなきゃ)

私はチェイスの服を握り締めた。
しばらく走っていると岩場が見えてきて「探索」サーチで見ると獣人を示す反応があったのでチェイスに伝えた。

「チェイス、右手に見えるあそこの大きな岩の下にいるみたいだよ」

「よし、行ってみるか……お前は見えないようにしておけ」

「分かった……『隠密』ステルス

私はチェイスに言われた通り姿を隠した。
そして、チェイスは一度私を背負い直し走りだした。
大きな岩までもう少しのところで声がかかった。

「止まれ!何者だ!」

「俺は、トラスト王国諜報部隊隊長チェイスだ!責任者に取り次いでもらいたい!」

チェイスの名乗りを聞き、男が姿を見せた。

「チェイス隊長!?こ無事でしたか……こちらへ」

男はチェイスを1つの天幕へ案内した。
チェイスが中に入るとそこには、大柄な男が後ろを向き立っていた。

「げぇ!?何で此処に!」

「ご苦労だった。持ち場に戻れ」

「ハッ!」

男は案内して来た者を戻らせ、ゆっくりと振り返りチェイスを見てニヤリと笑った。

「随分な挨拶だなチェイス……バルドが伝言を伝えただろ?」

「バルドには国に帰ってからの事しか聞いてねぇよ!何であんたが来てんだ!」

「何でだと思う?」

男が近付き手を伸ばして来たかと思うと、チェイスの頭を鷲掴みにして力を込めた。

「痛ぇ!?ちょっ、待ってくれ!」

「どうした?人の言葉を理解出来ない頭はいらんだろ……なぁ?」

ギリギリと更に力が込められていき、チェイスは堪らず叫んだ。

「すいませんでした!!ちゃんと理解します!許して下さい!!」

「まぁいいだろう……続きは帰ってからだ」

男が手を放すとチェイスは座り込んだ。

「クソォ~……」

そんなチェイスを不思議そうに見た後、口を開いた。

「何を呑気に座っているんだ?さっさと報告しろ」

「…………………はぁ~」

チェイスは諦めた様に溜め息を吐き出し立ち上がった。

「報告の前にお願いしたい事があります」

「何だ改まって……気持ち悪い」

チェイスは口をヒクつかせながら、言葉を続けた。

「これから見る事、聞く事に関して此処だけの話にして欲しいのです」

男はチェイスをジッと見つめるとチェイスの頼みを聞き入れた。

「………いいだろう。話せ」

「ありがとうございます……解いていいぞ」

「誰に話している?」

私はチェイスに言われ「隠密」ステルスを解除した。
チェイスは私を降ろし、隣に立たせたのでフードを脱いだ。
男は目を見開き驚いていた。

「いつからいた!?気配もなかったのに!」

「最初からだよ……いや~貴重なもんが見れたな……ククッ」

チェイスが笑いを堪えていると男が目を細め再び手を伸ばして来たので、チェイスは慌てて私を紹介した。

「待てって!こいつはベイリー家の娘だ……だから待てって言ってるだろ!」

チェイスが私の素性を話すと、男が目を細め殺気だったので、私は恐くなりチェイスの後ろに隠れた。

「何故、敵の娘がここにいる?返答しだいでは只ではすまさんぞチェイス!」

「ちゃんと話すから落ち着けよ!殺気を収めろ!まだ子どもだぞ!」

私がチェイスのズボンを握り震えていると、殺気が収まった。

「何を勘違いしている……今の殺気はお前にだチェイス」

「俺かよ!?とにかく聞いてくれ……こいつは確かにベイリー家の娘だが、存在を消され生まれてからずっと地下室に監禁され、最近は毒や薬の実験体にされていた……俺が食事を運んでたんだかその時、スキルで正体を見破られてな、脱出に協力する代わりに、皆が監禁されてる隠し部屋を探すよう頼んだんだ……他にもこいつのスキルや魔法に助けられた……だから全員無事に脱出できた」

「……とても信じられんな」

「俺以外に聞いても同じ答えだぜ……王子やカルロスもな……カルロスとイーサン、リアンは切断された足も元に戻してもらってるしな」

「何!?……成る程な、だから先の頼みと言うわけか……切断された足を戻すなど普通ではない……しかもこの歳でな」

私がうつむいて黙っていると、男がしゃがみ込み私の頭に手を乗せた。
私の肩がビクッと跳ねると、男はゆっくり頭を撫で話しかけた。

「恐がらせてすまなかった……許してくれ」

私が驚き顔を上げると、男は優しく微笑んでくれて我慢していた涙が零れた。

「我が国の王子、同胞たち、そして……愚弟を助けてくれた事、感謝する」

「ぐすっ……愚弟?……ヒック……宰相様?」

「あぁ知っていたか。改めて、私はトラスト王国宰相スティーブンだ」

「始めまして……ぐすっ……名前は考え中です」

「……そうか、では決まったら教えてくれ」

「はい」

私がまだ愚図っているとチェイスが抱き上げあやしてきた。
背中をポンポンされてだんだん落ち着いてきた。
それを見ていたスティーブンが、からかうように言った。

「何だチェイス、子どもが増えたみたいだな……確かウィルは同じ位だろ?」

「うるせぇ……こいつより2歳上の6歳だよ」

「さて、落ち着いたところで続きだ」

「誰のせいだと……」

(さっきから思ってたけど、チェイスって宰相様にタメ口だけどいいのかな?)

考えてる間に、チェイスが転移の事を話していた。

「――て訳でこの後、全員で此処に合流する」

「本当に規格外だな……話は分かったが少し待て、直ぐに帰国の準備をさせる」

スティーブンがそう言って出ていくと、チェイスが真剣な顔で私を見てきた。

「なぁ頼みがあるんだが」

「どっ、どうしたの?」

「ここにあいつがいるのをカルロスに黙っていてくれ」

「何で?」

「それは……」

「それは?」

「俺だけ不意打ちなんて不公平だろうが!カルロスにも味合わせてやる!」

「…………」

私は呆れて言葉が出なかった。

(さっきまで頼れるお父さんだったのに……子どもか……)

そうこうしているうちに、スティーブンが戻って来た。

「今、帰国の準備をしているが、出来ればここに直接じゃなくて少し手前に転移出来るか?」

「大丈夫です」

「何でそんな面倒な事するんだよ」

「……この子の事は広めたくないんだろ?」

「「あ!」」

「そういう事だ……チェ~イ~ス~?」

スティーブンは、チェイスが気付いて無い事に呆れていた。
チェイスは慌てて弁明した。

「分かってたって!本当だ!」

「まったく……では頼んだぞ」

「「はい!」」

――シュン

私たちは皆の元に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...