上 下
154 / 166
冒険者~学園騒動~

不吉な予兆

しおりを挟む
賭けに勝ち喜ぶフェリーチェにアルベルトとガイは疑問をぶつけた。

「ところで、いつの間に魔物を倒したの?」
「攻撃魔法は使ってなかったよな?」
『探索』サーチ『目印』ランドマーク『生命吸収』ライフアシミレーション『転移』ワープを併用したの」
「「何だって?」」
「だから、『探索』サーチで二人から離れてる魔物を探して、その魔物に『目印』ランドマークで印をつけて、『生命吸収』ライフアシミレーションでHPとMPをゼロにしてから『転移』ワープでグレース様たちの後ろに転移させたの」
「「……ズルい!」」 
「倒す方法の指定は無かったもん」
「「そうですけど!」」

その場から一歩も動かずに自分たちより魔物を倒したの方法を知り抗議する二人だったが、フェリーチェは相手にせず上機嫌でにこにこしている。
するとそこでドアをノックしてクロードが入ってきた。

「入るぞ」
「返事する前に開けるなよ」
「……チッ」
「舌打ち!俺が何か間違ったこと言いましたかね!?」
「アル、ガイ、話があるから執務室に来てくれ」
「「了解」」
「無視!?」
「フェリーチェは、ミゲルとネイサンと一緒に先に帰りなさい」
「は~い」
「……この腹黒陰険野郎!正論言われたからっ…ヒッ!?」
「何か言ったか?」
「ナンデモアリマセン ゴメンナサイ」
「……お父様」

今にも殺されそうなクロードの視線に、エヴァンは直ぐに謝った。
そんなエヴァンとグレースを残し部屋を出たフェリーチェたち。
その場で別れフェリーチェは、ミゲルたちのいる研究所に向かった。

「お鍋、お鍋、大きなお鍋~」

そう口ずさみながら去っていくフェリーチェの姿に、アルベルトとガイの頭に今朝の会話が甦った。


『皮でも剥いで手を熱湯に浸けとけば?出汁が取れるんじゃない?』
『恐ろしいわ!?何の出汁だ!何の!むしろお前が浸かれよ。おまえの肉は最高級だから最高級の出汁がでるぞ!』
『はぁ!?……まぁ、魔王おまえは禍々しいから出汁も禍々しいのになるかもしれないもんね~』
『ハッ!残念でした。この体は勇者あいつのだ。むしろ聖なる出汁になるかもな!』
『聖なる出汁って何だ!』


ぶるりと身震いした二人はひきつった顔を見合わせる。

「ま、まさかね」
「まさかだよな」
「「は……はは……はははは」」
((どっちのだ!?どっちもか!?))
「どうした?早く行くぞ」
「「ハイ」」

恐れ慄く二人は、クロードに急かされ歩きだしたが、その背中には哀愁が漂っていた。
一方、研究所に着いたフェリーチェは、ドアを開けた状態で固まっていた。
彼女の視線の先には、床に倒れたアダムと、彼に馬乗りになり至近距離で見詰め合う(フェリーチェ視点)ミゲルの姿があった。
その二人の視線が自分に向くと、フェリーチェは動き出した。

「お邪魔しました」
「「ん?」」

ドアを閉めたフェリーチェに首を傾げた二人の耳に外の会話が聞こえてきた。

『あらフェリーチェ、中に入らないの?』
『シェ、シェリーお姉様!あ、あの今はちょっと!』
『フェリ、そんなに慌てて何かあったの?』
『ネイサンお兄様!べ、別に何もないよ!』
『……本当に?』
『うん!中でミゲルお兄様とアダム様が口付けしそうになんかなってないから!』
『『え!?』』

そんな会話が聞こえたミゲルとアダムは、自分たちの体勢を確認してお互い違う意味で慌てた。
何故なら声の主はミゲルの弟ネイサンと、ミゲルの婚約者シェリーだったからだ。

(身分差を気にしていたシェリーをやっと頷かせて婚約したのに、浮気を疑われて堪るか!しかも相手がアダムだと!)
(ヤバい!ミゲル至上主義者のネイサンに殺される!誤解だろうがあいつは殺る!殺らないにしろネチネチ嫌がらせをするに決まってる!しかも長期間な!)

二人は勢いよく立ち上がり、競うようにドアを開けて叫ぶ。

「「誤解だ!」」

数分後、事情(魔道具持ち出しを巡る追い駆けっこ)を話し必死に誤解を解いたミゲルとアダムはぐったりしていたおり、ネイサンは呆れシェリーも苦笑していた。
原因のフェリーチェは、呑気にシェリーが用意したお菓子を味わっている。

「結局、魔道具を持ち出したのはディランだったわけか」
「だから俺じゃないって言っただろうが」
「兄上は悪く無いよ。貴方の日頃の行いが悪いからでしょう」
「ソウデスネ」
「さて、それじゃあ帰るか。シェリー、送っていく」
「はい、ありがとうございます」
「お兄様、帰りにメイソンさんのとこに寄ってもいい?」
「かまわないが理由は?」
「おっきなお鍋!」
「「「「鍋?」」」」

フェリーチェの答えに四人が首を傾げる頃、クロードの執務室で話をしていたアルベルトとガイは悪寒を感じた。
その様子を見たクロードが声をかける。

「どうした?」
「な、何でもないよ」
「それより、今の話は確かなのか?」
「あぁ、つけていた《影》から連絡があった。奴等が餌に喰い付いたとな」
「そう……やっとだね」
「だな。俺たちも動かないとな」
「あぁ、今までは後手に回っていたが、今度はこちらから……帝国にしかける」
「うん」
「おう」

帝国を相手にする前に、ある意味で強敵の相手をしなければならないのだが、この時のアルベルトとガイはすっかり忘れているのであった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...