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大切なもの
第104話 潜伏 ~修治 1~
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――あれから三日が過ぎた。
あの日、修治が梁瀬たちとともに拠点へ戻ると、猛スピードで車が走り込んできた。
乗っていたのは穂高と麻乃で、後部席には意識を失った鴇汰が横たわっていた。
二人はよほど焦っていたのか、言っていることに要領を得ず、高田とクロムが落ち着くようなだめていた。
「二人とも、鴇汰くんは大丈夫。単に疲弊しているだけだよ。慣れない術を何度も使ったからね」
「本当に? でも……もしも目を覚まさなかったらあたしは……」
「大丈夫。急激な変化に体が追いついていないだけなんだよ。数日は眠るだろうけれど、休めばなにも問題はないから」
鴇汰の身内であるクロムの言葉に、麻乃も穂高も納得したようで、深いため息をついた。
マドルが倒されたことで三国同盟の兵たちも戦意を失い、今はジャセンベルの手で船へ収容され、少しずつ大陸へと戻っていっている。
大陸に残っているレイファーの部下たちが、各国の今後の見通しが立つまでのあいだ、しかるべく対応をするそうだ。
中央の後処理に入っていた徳丸とジャセンベル軍のケインが、城の中で赤髪の女とその側近の遺体を見つけたらしい。
庸儀の残党たちの手で船に乗せられ、国もとで埋葬するそうだ。
翌日からは修治たち蓮華を筆頭に、サムや反同盟派の手を借りて、山へ入り込んでいる敵兵たちの探索を行い、すべて捕えて安全を確認した。
東区の火災あとや、荒らされた各地区の住居や店舗には、ジャセンベル軍が手を貸してくれて、修繕作業が進んでいる。
今日にも避難は解除され、泉の森や東区にいる一般の方々も、それぞれの家へと戻るだろう。
今朝になって、修治は麻乃がいないことに気づいた。
中央の医療所で、未だ意識の戻らない鴇汰のところへ行っているのかと思って訪ねていくと、そこにもいない。
軍部の部屋にも宿舎にも顔を出した様子がない。
巧が順次泉翔を離れていく敵兵を乗せたジャセンベルの船団に、麻乃が紛れているんじゃあないかと、レイファーに食ってかかっていた。
「馬鹿なことをいうな。これから泉翔と友好関係を築いていこうというときに、士官を無断で連れ帰るなどするはずがないだろう」
そう言われてしまうと、確かにそうだ。
密航も疑ったけれど、出航の際には船内をくまなくチェックしているからそれもないという。
ヘイトの側も同じ答えだ。
穂高から話しを聞いた比佐子が、心当たりがあると言って探しにでたけれど、それも空振りだったらしい。
修治は中央を離れ、西浜に戻ってきた。
浜では壊れた船の修繕が進んでいる。
三日もすれば、修繕不能な船以外は問題なく航海できるようになるという。
「ここにもいないか……」
実家と道場に寄り、麻乃の自宅あとにきた。
焼け落ちた廃材は、柳堀の人たちが片付けたのだろうか、いつの間にか更地になっていた。
柳堀にも寄ってみたけれど、やはり誰も麻乃の姿は見ていないという。
おクマも松恵もすっかり元気を取り戻し、修繕の人たちを相手に店を開けていた。
二人も麻乃はみていないらしい。
「それにしても、あの子ったらいつの間にあんなに腕を上げてたのヨ」
「まったくだよ。こっちは以前のままのつもりでいたもんだから、とんだ赤っ恥かかされたわ」
「アタシら国の一位だ二位だなんていわれているけどサ、実質、一位はあの子か修治、あんたネ」
そういっておクマも松恵も大きく笑った。
倒されたからといって変にしこりを残すような二人ではなくて良かったと思う。
麻乃が暗示にかかっていたという話しはもう通じているし、そうでなかったとしても、幼いころから関りのある二人だからこそ、わかっていることもあるのだろう。
柳堀をあとにし、修治は砦へとやってきた。
ここにも人の気配はないけれど、念のため銀杏の木に登ってみた。
「やっぱりいないな……」
眼下に広がる西浜の景色を眺める。
古い思い出から新しいものまでが次々とよみがえってきて、どうしようもないほど懐かしくて胸が痛む。
麻乃はいつまで姿を隠しているつもりなんだろうか。
広くはない島だけれど、本気で出てこないつもりでいるのなら、見つけることは不可能じゃあないかと思えてくる。
ずっとこのままではいられないと、わかってはいるだろう。
徳丸や巧たちみんなも探してはいるけれど、修治でさえ見つけられないでいるのに、ほかの誰かに見つけられるとも思えない。
鴇汰の目が覚めるまで出てこないつもりだろうか?
そう考えてハッとした。
思い当たることはある。
それまでに、どうするべきなのか、もう一度考えるために修治は高田のところへ向かった。
あの日、修治が梁瀬たちとともに拠点へ戻ると、猛スピードで車が走り込んできた。
乗っていたのは穂高と麻乃で、後部席には意識を失った鴇汰が横たわっていた。
二人はよほど焦っていたのか、言っていることに要領を得ず、高田とクロムが落ち着くようなだめていた。
「二人とも、鴇汰くんは大丈夫。単に疲弊しているだけだよ。慣れない術を何度も使ったからね」
「本当に? でも……もしも目を覚まさなかったらあたしは……」
「大丈夫。急激な変化に体が追いついていないだけなんだよ。数日は眠るだろうけれど、休めばなにも問題はないから」
鴇汰の身内であるクロムの言葉に、麻乃も穂高も納得したようで、深いため息をついた。
マドルが倒されたことで三国同盟の兵たちも戦意を失い、今はジャセンベルの手で船へ収容され、少しずつ大陸へと戻っていっている。
大陸に残っているレイファーの部下たちが、各国の今後の見通しが立つまでのあいだ、しかるべく対応をするそうだ。
中央の後処理に入っていた徳丸とジャセンベル軍のケインが、城の中で赤髪の女とその側近の遺体を見つけたらしい。
庸儀の残党たちの手で船に乗せられ、国もとで埋葬するそうだ。
翌日からは修治たち蓮華を筆頭に、サムや反同盟派の手を借りて、山へ入り込んでいる敵兵たちの探索を行い、すべて捕えて安全を確認した。
東区の火災あとや、荒らされた各地区の住居や店舗には、ジャセンベル軍が手を貸してくれて、修繕作業が進んでいる。
今日にも避難は解除され、泉の森や東区にいる一般の方々も、それぞれの家へと戻るだろう。
今朝になって、修治は麻乃がいないことに気づいた。
中央の医療所で、未だ意識の戻らない鴇汰のところへ行っているのかと思って訪ねていくと、そこにもいない。
軍部の部屋にも宿舎にも顔を出した様子がない。
巧が順次泉翔を離れていく敵兵を乗せたジャセンベルの船団に、麻乃が紛れているんじゃあないかと、レイファーに食ってかかっていた。
「馬鹿なことをいうな。これから泉翔と友好関係を築いていこうというときに、士官を無断で連れ帰るなどするはずがないだろう」
そう言われてしまうと、確かにそうだ。
密航も疑ったけれど、出航の際には船内をくまなくチェックしているからそれもないという。
ヘイトの側も同じ答えだ。
穂高から話しを聞いた比佐子が、心当たりがあると言って探しにでたけれど、それも空振りだったらしい。
修治は中央を離れ、西浜に戻ってきた。
浜では壊れた船の修繕が進んでいる。
三日もすれば、修繕不能な船以外は問題なく航海できるようになるという。
「ここにもいないか……」
実家と道場に寄り、麻乃の自宅あとにきた。
焼け落ちた廃材は、柳堀の人たちが片付けたのだろうか、いつの間にか更地になっていた。
柳堀にも寄ってみたけれど、やはり誰も麻乃の姿は見ていないという。
おクマも松恵もすっかり元気を取り戻し、修繕の人たちを相手に店を開けていた。
二人も麻乃はみていないらしい。
「それにしても、あの子ったらいつの間にあんなに腕を上げてたのヨ」
「まったくだよ。こっちは以前のままのつもりでいたもんだから、とんだ赤っ恥かかされたわ」
「アタシら国の一位だ二位だなんていわれているけどサ、実質、一位はあの子か修治、あんたネ」
そういっておクマも松恵も大きく笑った。
倒されたからといって変にしこりを残すような二人ではなくて良かったと思う。
麻乃が暗示にかかっていたという話しはもう通じているし、そうでなかったとしても、幼いころから関りのある二人だからこそ、わかっていることもあるのだろう。
柳堀をあとにし、修治は砦へとやってきた。
ここにも人の気配はないけれど、念のため銀杏の木に登ってみた。
「やっぱりいないな……」
眼下に広がる西浜の景色を眺める。
古い思い出から新しいものまでが次々とよみがえってきて、どうしようもないほど懐かしくて胸が痛む。
麻乃はいつまで姿を隠しているつもりなんだろうか。
広くはない島だけれど、本気で出てこないつもりでいるのなら、見つけることは不可能じゃあないかと思えてくる。
ずっとこのままではいられないと、わかってはいるだろう。
徳丸や巧たちみんなも探してはいるけれど、修治でさえ見つけられないでいるのに、ほかの誰かに見つけられるとも思えない。
鴇汰の目が覚めるまで出てこないつもりだろうか?
そう考えてハッとした。
思い当たることはある。
それまでに、どうするべきなのか、もう一度考えるために修治は高田のところへ向かった。
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