蓮華

釜瑪 秋摩

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大切なもの

第79話 集結 ~穂高 1~

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 東区から中央に入り、まずは加賀野のところへ向かった。
 前もって式神で連絡を取ったおかげで泉の森に着くと、すぐに加賀野から指示が出た。

「中央へ進軍してきた敵兵と街なかで交戦が始まっている」

「はい、ここへ来るまでに見かけました」

「今は城を占拠している敵兵はそのままに、街なかの対応だけに留めるように」

「わかりました」

 加賀野の指示を仰ぎ手順を確認していると、後ろからレイファーが身を寄せてきた。

「上田、さっきから歌声が聞こえてくるが、これはなんなんだ?」

「ああ……たぶん巫女さまたちの唱和じゃあないかな」

「……巫女?」

 そうやり取りをした瞬間、泉の森から強い風が吹き抜けていった。
 これは恐らく梁瀬の言っていた術なんだろう。
 穂高はそう理解しても、レイファーやほかのジャセンベル兵たちはなにが起きたのかわからず、ざわついている。

「少し前に長田の叔父が式神を寄こしてきた。彼が戻り次第、長谷川が動く」

「岱胡が……?」

「長田の叔父に対処法があるようだ。その前に中央の兵たちを捕えて各浜へ戻すよう、頼む」

「では、浜へ戻すのは我が軍が引き受けよう。泉翔の戦士が一名先導してくれればそれでいい」

 レイファーの申し出に加賀野は深く頭を下げて「頼む」と言うと、穂高に視線を向けてきた。

「もう少ししたらもう一度、術が返ってくるらしい。それが済んだら長田の叔父も中央へ来るそうだ。おまえもそれまでに、ここへ戻るように行動してくれ」

「クロムさんもここへ……? わかりました。それじゃあ、俺たちは取り急ぎ東側へ回ります」

 隣に立つレイファーを促し、ジャセンベル兵を引き連れてその場を離れようと車に乗り込む。
 走り出してすぐ、今度は浜のほうからさっきよりも強い風が吹き荒れた。

「すごい風だな……これが術の強さと比例しているなら、相当な強さに違いない」

「これが藤川の暗示を解くという術か……確かにこれは強いだろう」

 東区へ通じる通りに三国同盟の、どうやら庸儀の兵が走り抜けていくのがみえた。
 合図をし、レイファーとともに車を飛び降りると、ジャセンベル兵を引き連れて追いかけた。
 三国同盟はみんな城を目指しているらしい。
 城を占拠している敵兵はそのまま置くと加賀野は言っていた。
 となると、城に逃げ込まれては手出しができなくなる。その前に倒さなければ。

「やっぱり東側が手薄になっているようだ」

 レイファーがジャセンベル兵を促して東区に向かうルートを固めさせた。
 ここへ来るまでにやたらと庸儀の兵に行き会ったのも、土地勘のない敵兵が手薄な東側へ逃れたからか。

「東区へは上陸がないからルートに拠点は置かなかったんだな……」

 これまではともかく、ここからは東区へは行かせない。
 東区の方々だけじゃあなく、南区や北区からも避難をしている一般の人たちがいるからだ。
 赤髪の女の襲撃に加えて火までかけられて、恐ろしい思いをしたに違いない。
 もう、そんな不安を感じさせるわけにはいかないのだから。

 他の浜に続くルートは、各拠点にいた戦士たちが中央へ戻ってくるからか、そう時間をかけずに敵兵を倒し切りそうだ。
 だんだんと喧騒がおさまっているようだ。

 術が使えない今、クロムはここへ誰かの車でくるのだろう。
 だとすると到着するのは三時間後くらいか。
 ルートは巧が中央へ向かう道すがら対応していたようだから、途中で敵兵に遭遇することはないと思うけれど、連絡の取りようがないことが心配だ。
 なんらかの策は立ててくるんだろうけれど、術以外のクロムの力量がまったくわからないから。

 不穏な要素を減らすために、穂高はひたすらに敵兵を倒した。
 倒した敵兵は次々にジャセンベル兵によって各浜へ送られていく。
 周辺を探り、まだ戦闘の続いているところへ移動していくうちに、北浜へ向かうルートの近くで、穂高の隊員である吹田と栗橋に出くわした。

「上田隊長! ご無事でしたか!」

「二人とも……心配をかけてすまなかった! 他のやつらは……」

「全員無事です! 怪我も大したことはありません!」

 誰も欠けることなくいてくれたことに安堵した。
 この状況で怪我で済んだなんて奇跡だ。
 二人が連れている小隊と協力して周辺の敵兵を倒し、ジャセンベル兵たちにあとを任せる。

「おまえたち、巧さんは一緒じゃあないのか?」

「三手に別れたんです。中村隊長は西側から回っています。長田隊長のところの相原と古市が南側です」

「わかった。今はこのまま急ぎやつらを倒す。城へは絶対に辿り着かせないように頼む!」

 穂高は吹田と栗橋の小隊にそう指示を出し、さらに先へと足を進めた。
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