蓮華

釜瑪 秋摩

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大切なもの

第51話 女戦士たち ~巧 1~

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 強風が吹き抜けた後、北浜に残っていたヘイトの兵たちの様子が明らかに変わった。
 半数以上が、自分の置かれている状況がわからないようで右往左往している。

 暗示にかかっていなかった兵たちだけは、本来の目的どおり中央へのルートを進軍していった。
 海岸に残った兵たちには、反同盟派のものたちに諭され、砂浜の片隅で負傷した兵たちが手当てを受けている。

 巧はピーターを探して合流すると、相原と古市に引き合わせた。
 これまでの戦いの中で互いに姿だけは認識していたのか、異様なほど緊張感が高まるのを感じる。
 過去の経緯を考えたら警戒するのもわかるけれど、今はそんな場合ではない。

 中央へ向かった敵兵を追うには、鴇汰と穂高の隊員たちの手が必要だ。
 ピーターたちジャセンベル軍だけを進ませるわけにはいかない。
 疑い合って互いに牽制していては追いつくものも追いつかなくなってしまうだろう。

 ピーターが諜報であると知らせれば、あるいはスムーズに事が運ぶかも知れないけれど、なにかの拍子でそれが大陸側に漏れてしまうのはまずい。
 どう言って相原たちを納得させようかと、巧が迷っているあいだに、相原のほうからピーターへと手が差し伸べられた。

「これまでの事情はいろいろとあれど、今はそれに言及している場合じゃあないことは承知しています。ここから先、協力し合えるというのであれば是非その力を借り受けたい」

 ピーターはその申し出にホッと小さく息を吐くと、相原の手を両手で握った。

「ありがとうございます。この島では勝手がわからない。すべてをあなたがたに任せることになってしまうが、存分に使ってほしい」

 北浜での後処理を任せるために、一部隊分の人数を残して中央へ向かおうとしたとき、その情報が入ってきた。

「中村隊長! 東区で火の手が上がったと中央から……」

「なんですって!?」

「他の浜へも情報は回っているそうですが、どれだけ手が割けるかわからないので、北浜からも人員を回してほしいと」

 つい今しがた、泉翔の戦士を半数ほど中央へ向かわせてしまったばかりだ。

「こんなときに……」

 岱胡と梁瀬の隊員たちを東区へ向かわせることは可能だけれど、北浜へまったく兵を残さないわけにはいかない。
 ヘイトとジャセンベルだけを残していくのは危うい気がする。

「単純に、今残っている泉翔の戦士を三等分してそれぞれに部隊をつけて、二班は各地へ赴き、一班はここへ残せばいいであろう」

 巧の背後から、ハンスがそう申し出てきた。

「ワシらだけを残されても、なにもしようがなくて困るが、一班残ってくれれば後処理くらいはワシらにもできよう」

「我が軍も、ここで置き去りにされては来た甲斐もないというもの。火をかけた連中に対処するにも相応の戦力が要るはずだ」

 ジャセンベル軍を指揮しているピーターもそう言ってくれた。

「先へ進んで術の解けたヘイト軍も、今ごろは戸惑っているだろう。やつらをすぐに納得させるためにも、反同盟派の連中を連れていってやってくれ」

「……わかりました。ありがたく手をお借りします」

 ここで迷っていても無駄に時間を費やすだけだ。
 巧はとりあえず、鴇汰と穂高、岱胡と梁瀬の隊員を筆頭にして、ヘイトの反同盟派、ジャセンベル軍を含めた部隊を数組作った。
 東区には岱胡の部隊の福島に一部隊を任せて送り出した。

 鴇汰の隊員の橋本と中川が、ハンスと共にヘイト軍とジャセンベル軍の手を借りて後処理に当たる。
 反同盟派のものたちは、道中でヘイト軍を見つけ次第、彼らを引き連れて北浜へ戻る手筈になっている。

 巧は残りの隊員とピーターを含むジャセンベル軍、ヘイトの反同盟派たちを引き連れて中央へ向かった。
 幸い、ヘイトとジャセンベルが持ち込んできた車が数多くあり、思うより早くたどり着けそうだ。
 途中に設けられた最初の拠点に立ち寄り、状況を聞きながら再度、急ぎ伝令を回すよう指示を出した。

 中央をまとめているのは元蓮華の加賀野だと聞いている。
 ジャセンベルや反同盟派を率いていくことを、元蓮華たちがどう思うか。
 まず手放しでは受け入れられないだろう。

 けれど今の状況であれば、うまく協力しあえる流れを作ってくれるはずだ。
 二つ目の拠点が見えてきたところで、ヘイト軍と穂高の隊員たちが争っているのがわかった。

「相原! 隊員たちをいったん退かせるように! ピーター! ジャセンベルは今は待機を!」

 速やかに指示を出し、巧は反同盟派を連れてヘイト軍の制圧に動いた。
 この兵たちは暗示にかかっていたようで、反同盟派を見ると戸惑い気味に争いを止めた。中には安堵のためか泣き崩れている兵もいる。

――この術は最低だ。

 こんなにも双方に辛い思いをさせるのは……。

「ここはもう大丈夫のようね。先を急ぎましょう。できるかぎり早く戦う意思のないヘイト軍を離脱させなければ」

 巧の言葉に、この場にいる全員がうなずいた。
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