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大切なもの
第19話 不安 ~穂高 1~
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真っ暗な中を、レイファーはただひたすらスピードを上げさせていた。
ロマジェリカを出たあと、巧を乗せたピーターたちの船と別れると、少しずつ遅れが出始めた。
ジャセンベルは二手にわかれてもかなりの数だ。
これだけいると、すべてが同じようには進まないだろう。
多少は仕方がないとしても、あまりにも遅れが出ると上陸にも差し支えるからか、レイファーが少しずつ苛立ってきているのが穂高にもわかった。
『いよいよ泉翔か……戻ったとき、状態はどうなっているんだろう?』
『そうねぇ……最悪、ってところじゃあないかしら?』
船に乗る前に巧と話したときのことを思い出した。
ロマジェリカから先に出航した三国同盟の数は相当だった。
あの他に庸儀とヘイトからも泉翔へ向けて出発しているのだから、各浜へ上陸する数も相当だろう。
浜がないとは言え、脇道に逸れて東区へ向かう敵兵もいると思う。
どこから入ったとしても、中央からの道に出る。東の居住区へ入るには演習場の前を通る道一本だ。
そこに、一体どれだけの人が避難し、どれだけの手練れが防衛で詰めているのだろう。
比佐子は間違いなく防衛の側にいる。
大人数がなだれ込むようなことにはならないと思いたいが……。
「最悪、ってところ……か……」
デッキで手すりに寄りかかり、うねる黒い波を見つめていると悪い考えばかりが浮かんできて、溜息がこぼれた。
鴇汰は修治や岱胡とうまくやっているだろうか。
麻乃は西浜から上陸して、もう修治と対峙しているんだろうか。
穂高の率いる第八部隊は、誰一人欠けることなく自分を迎えてくれるだろうか。
比佐子のことだけじゃあなく、家族のことも気になる。
鴇汰のことが気になって、つい西浜からの上陸を決めてしまったけれど、やっぱり北浜から上陸して、東区へ向かったほうが良かったんじゃあないだろうか。
自分の判断が正しかったのかさえ怪しく思えてきて、また大きく溜息をついた。
「さっきから、溜息ばかりだな」
不意に後ろから声をかけられて、あわてて溜息を飲み込んだ。
振り返ると立っていたのはレイファーだった。
「なんだ。おまえか……」
「おまえか、とは、ずいぶんな物言いだな」
フンと鼻を鳴らしたレイファーは、穂高の隣に立ち、まだなにも見えない水平線へ目を向けた。
腕を組み、堂々としたたたずまいに、嫌でも進軍時のレイファーを思い浮かべてしまう。
あのころはレイファーの人となりを知る由もなく、ただ敵兵としてしか認識していなかったけれど、ジャセンベル王の思惑に乗ってからは、一人の人間として見つめてきた。
たった数日ではあったけれど、その人柄は見て取れた。
幼いころから、鴇汰を始め泉翔へ渡ってきた多くのロマジェリカ人と接していたから、民族の違い云々などと言った先入観もない。
敵方である、という以外は、自分たちとなんら変わりはないことは良くわかっている。
それでもどこかなにかが引っかかって感じるのは、レイファーが泉翔に対して、まだなにかしらの思惑を隠しているからだ。
レイファーが巧と対峙したときには、背後に立った穂高にどういうわけかレイファーの思いが流れ込んできたけれど、その思惑までは計り知れなかった。
「……家族のことでも気になるのか?」
「えっ?」
突然の問いかけに戸惑い、思わず聞き返してしまった。
海上を見つめていたレイファーの視線が穂高に向いた。
やけに真剣な表情なのが気になったけれど、特に隠し立てするようなことはなにもない。
「まぁね。俺の家族は浜のない島の東側にいるから、すぐに敵兵が来ることはないけれど、気にはなるな」
「東側……上陸ができない崖のあるほうか」
「そう。それに、うちのやつがいるから心配は要らない」
「うちのやつ?」
「ああ。妻が一緒にいるから……」
まぁ、大丈夫だろう、そう言おうとしたのを、レイファーの怒声がさえぎった。
「おまえ、所帯を持っているのか! 西側の浜じゃ正反対だろう! すぐに向かえるような道はないのか!」
「いや、すぐに向かう必要なんかないよ」
「馬鹿か! そんなわけにはいかないだろう!」
心配しているのか、本気で怒っているレイファーに面喰ってしまう。
胸のうちではなにを思っているのかわからないぶん、その態度に変な笑いが込み上げてきてしまった。
つい吹き出してしまったせいか、レイファーが更に怒りを増したように穂高の胸ぐらを掴んできた。
ロマジェリカを出たあと、巧を乗せたピーターたちの船と別れると、少しずつ遅れが出始めた。
ジャセンベルは二手にわかれてもかなりの数だ。
これだけいると、すべてが同じようには進まないだろう。
多少は仕方がないとしても、あまりにも遅れが出ると上陸にも差し支えるからか、レイファーが少しずつ苛立ってきているのが穂高にもわかった。
『いよいよ泉翔か……戻ったとき、状態はどうなっているんだろう?』
『そうねぇ……最悪、ってところじゃあないかしら?』
船に乗る前に巧と話したときのことを思い出した。
ロマジェリカから先に出航した三国同盟の数は相当だった。
あの他に庸儀とヘイトからも泉翔へ向けて出発しているのだから、各浜へ上陸する数も相当だろう。
浜がないとは言え、脇道に逸れて東区へ向かう敵兵もいると思う。
どこから入ったとしても、中央からの道に出る。東の居住区へ入るには演習場の前を通る道一本だ。
そこに、一体どれだけの人が避難し、どれだけの手練れが防衛で詰めているのだろう。
比佐子は間違いなく防衛の側にいる。
大人数がなだれ込むようなことにはならないと思いたいが……。
「最悪、ってところ……か……」
デッキで手すりに寄りかかり、うねる黒い波を見つめていると悪い考えばかりが浮かんできて、溜息がこぼれた。
鴇汰は修治や岱胡とうまくやっているだろうか。
麻乃は西浜から上陸して、もう修治と対峙しているんだろうか。
穂高の率いる第八部隊は、誰一人欠けることなく自分を迎えてくれるだろうか。
比佐子のことだけじゃあなく、家族のことも気になる。
鴇汰のことが気になって、つい西浜からの上陸を決めてしまったけれど、やっぱり北浜から上陸して、東区へ向かったほうが良かったんじゃあないだろうか。
自分の判断が正しかったのかさえ怪しく思えてきて、また大きく溜息をついた。
「さっきから、溜息ばかりだな」
不意に後ろから声をかけられて、あわてて溜息を飲み込んだ。
振り返ると立っていたのはレイファーだった。
「なんだ。おまえか……」
「おまえか、とは、ずいぶんな物言いだな」
フンと鼻を鳴らしたレイファーは、穂高の隣に立ち、まだなにも見えない水平線へ目を向けた。
腕を組み、堂々としたたたずまいに、嫌でも進軍時のレイファーを思い浮かべてしまう。
あのころはレイファーの人となりを知る由もなく、ただ敵兵としてしか認識していなかったけれど、ジャセンベル王の思惑に乗ってからは、一人の人間として見つめてきた。
たった数日ではあったけれど、その人柄は見て取れた。
幼いころから、鴇汰を始め泉翔へ渡ってきた多くのロマジェリカ人と接していたから、民族の違い云々などと言った先入観もない。
敵方である、という以外は、自分たちとなんら変わりはないことは良くわかっている。
それでもどこかなにかが引っかかって感じるのは、レイファーが泉翔に対して、まだなにかしらの思惑を隠しているからだ。
レイファーが巧と対峙したときには、背後に立った穂高にどういうわけかレイファーの思いが流れ込んできたけれど、その思惑までは計り知れなかった。
「……家族のことでも気になるのか?」
「えっ?」
突然の問いかけに戸惑い、思わず聞き返してしまった。
海上を見つめていたレイファーの視線が穂高に向いた。
やけに真剣な表情なのが気になったけれど、特に隠し立てするようなことはなにもない。
「まぁね。俺の家族は浜のない島の東側にいるから、すぐに敵兵が来ることはないけれど、気にはなるな」
「東側……上陸ができない崖のあるほうか」
「そう。それに、うちのやつがいるから心配は要らない」
「うちのやつ?」
「ああ。妻が一緒にいるから……」
まぁ、大丈夫だろう、そう言おうとしたのを、レイファーの怒声がさえぎった。
「おまえ、所帯を持っているのか! 西側の浜じゃ正反対だろう! すぐに向かえるような道はないのか!」
「いや、すぐに向かう必要なんかないよ」
「馬鹿か! そんなわけにはいかないだろう!」
心配しているのか、本気で怒っているレイファーに面喰ってしまう。
胸のうちではなにを思っているのかわからないぶん、その態度に変な笑いが込み上げてきてしまった。
つい吹き出してしまったせいか、レイファーが更に怒りを増したように穂高の胸ぐらを掴んできた。
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