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大切なもの
第16話 隠者 ~サム 1~
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ハンスのロッドで額を押された瞬間、全身が硬直した。
妙に逸る気持ちに胸がざわめく。
影となり持てる力のすべてを使い、いざともなればこの命を賭しても厭わない、その覚悟はできていた。
すべてが済んだあと、ヘイトを子どものころのように作物の良く育つ土地として、自ら進んで育んでいきたい、そうも思っていた。
それでも、今度の戦いにおいては、梁瀬のいうようにどこか他人事のように感じていたのも事実だ。
レイファーを焚き付け、それを支援さえすれば、あとのことは伝承の血筋同士で決着をつけてくれるに違いない、と。
それが突然、かつて焦がれていた存在が自分だと言われ、戸惑わないわけがない。
向かいに立つ梁瀬を見た。
梁瀬はいつ、自分が特別な存在だと気づいたのだろう。
気づいて一体、なにをどう感じたのだろう。
見たかぎりでは、サムのように戸惑っている様子には見えないけれど……。
それにいくつか疑問がある。
「伝承のものは、その血筋から成るものだと思っていましたが……私と梁瀬さんはともかく、クロムさんは私たちの親戚筋なんですか? とてもそうは見えませんが」
「そう言えば……僕の父はロマジェリカだけど、そっちで繋がるとサムが外れちゃう」
梁瀬も首を捻っている。
サムもハンスも生粋のヘイト人だ。
クロムも梁瀬のようにロマジェリカ人とのハーフで、外見にロマジェリカの血が濃く出ている可能性もあるけれど、そんな親類がいれば、なにかしらの話しは聞いているはずだ。
「伝承のいくつかの血筋は確かにそうなんだよ。父方、母方を問わず、血の濃い薄いに関わらず、必ず同じ血筋に現れる」
「それが、賢者に限っては違うのだよ」
「……違う?」
賢者にかぎっては、術師としての資質が大きく関わると言う。
資質の問題もあるため、同じ血筋から出ることもあると言うけれど、これまでの多くはまったく関わりのないものが継いでいるそうだ。
クロム自身、前賢者とは縁もゆかりもないと言った。
「だから皆、早い段階で継ぐものを探し始めるんだ」
「ですが、それでは相手がいつ見つかるかもわかりませんよね?」
「そう思うだろう? けれど私たちは互いに引き合う。探そうと思い始めたときから、少しずつ道が繋がり始めるんだよ。私たちが出会ったように」
「今はわからずとも、おまえさんたちにもいずれわかる時期が来よう。さぁ、そんな話しはすべてが終わってから、三人でゆっくりすればよいであろう」
ハンスがパンパンと手を打ち、机に置かれたメモに手をのせ、身を寄せるように手招きをした。
残る時間は少ない。今は血筋云々よりも話し合わなければならないことがある、そう言った。
「うん、僕はこのあと、ジャセンベルと合流しなければならないし、サムは南浜に向かうために指揮を取らないとならないか」
「泉翔へ上陸してからでは、おまえさんたちは身動きが取れないのだから」
「そう……ですね……」
わからないことはあとでどうとでもなる。
今は今しかできないことを考えなければならない。
ふと、梁瀬を見た。
メモに視線を落とし、指先で触れながらクロムに問いかけている眉間には、深いシワが寄っている。
サムほどじゃあなくとも、梁瀬も不安を感じているのだろうか。
「まずは手順だけれど、キミたちが上陸した時点で、多くの兵は中央に向かって進軍中だと思う」
「うん。予想でしかないけれど、敵兵の数が多い以上、すべての兵を倒しきれないのはわかっているから、ある程度は通すつもりでいると思う」
「確かに、これまでのように海岸で食い止められる数ではないでしょうから」
うなずいたクロムは、ペンでもう一度メモに書いた三カ所の印を指した。
「そこで私たちは、互いに上陸した浜で術を放つタイミングを計る」
「梁瀬さんは北浜から西浜へ移動するんでしたね。となると合わせるのは梁瀬さんのタイミングですね」
「そうだね。それからキミたちは、大陸でハンスさんと暗示を解く術を使ったね?」
クロムの問いかけに、梁瀬とともに答えた。
「あのとき、離れていても術を唱えるタイミングがわかりましたけど、今度も同じなんですか?」
「ですが、今度はあのときと状況も距離も大きく違います。それで本当に合わせることが……」
「その心配は要らないよ。二人とももうわかっているはずだ。物理的な距離は関係ないからね」
互いに意識し合っていれば迷うことなくそのときがわかる。
クロムはそう言った。
妙に逸る気持ちに胸がざわめく。
影となり持てる力のすべてを使い、いざともなればこの命を賭しても厭わない、その覚悟はできていた。
すべてが済んだあと、ヘイトを子どものころのように作物の良く育つ土地として、自ら進んで育んでいきたい、そうも思っていた。
それでも、今度の戦いにおいては、梁瀬のいうようにどこか他人事のように感じていたのも事実だ。
レイファーを焚き付け、それを支援さえすれば、あとのことは伝承の血筋同士で決着をつけてくれるに違いない、と。
それが突然、かつて焦がれていた存在が自分だと言われ、戸惑わないわけがない。
向かいに立つ梁瀬を見た。
梁瀬はいつ、自分が特別な存在だと気づいたのだろう。
気づいて一体、なにをどう感じたのだろう。
見たかぎりでは、サムのように戸惑っている様子には見えないけれど……。
それにいくつか疑問がある。
「伝承のものは、その血筋から成るものだと思っていましたが……私と梁瀬さんはともかく、クロムさんは私たちの親戚筋なんですか? とてもそうは見えませんが」
「そう言えば……僕の父はロマジェリカだけど、そっちで繋がるとサムが外れちゃう」
梁瀬も首を捻っている。
サムもハンスも生粋のヘイト人だ。
クロムも梁瀬のようにロマジェリカ人とのハーフで、外見にロマジェリカの血が濃く出ている可能性もあるけれど、そんな親類がいれば、なにかしらの話しは聞いているはずだ。
「伝承のいくつかの血筋は確かにそうなんだよ。父方、母方を問わず、血の濃い薄いに関わらず、必ず同じ血筋に現れる」
「それが、賢者に限っては違うのだよ」
「……違う?」
賢者にかぎっては、術師としての資質が大きく関わると言う。
資質の問題もあるため、同じ血筋から出ることもあると言うけれど、これまでの多くはまったく関わりのないものが継いでいるそうだ。
クロム自身、前賢者とは縁もゆかりもないと言った。
「だから皆、早い段階で継ぐものを探し始めるんだ」
「ですが、それでは相手がいつ見つかるかもわかりませんよね?」
「そう思うだろう? けれど私たちは互いに引き合う。探そうと思い始めたときから、少しずつ道が繋がり始めるんだよ。私たちが出会ったように」
「今はわからずとも、おまえさんたちにもいずれわかる時期が来よう。さぁ、そんな話しはすべてが終わってから、三人でゆっくりすればよいであろう」
ハンスがパンパンと手を打ち、机に置かれたメモに手をのせ、身を寄せるように手招きをした。
残る時間は少ない。今は血筋云々よりも話し合わなければならないことがある、そう言った。
「うん、僕はこのあと、ジャセンベルと合流しなければならないし、サムは南浜に向かうために指揮を取らないとならないか」
「泉翔へ上陸してからでは、おまえさんたちは身動きが取れないのだから」
「そう……ですね……」
わからないことはあとでどうとでもなる。
今は今しかできないことを考えなければならない。
ふと、梁瀬を見た。
メモに視線を落とし、指先で触れながらクロムに問いかけている眉間には、深いシワが寄っている。
サムほどじゃあなくとも、梁瀬も不安を感じているのだろうか。
「まずは手順だけれど、キミたちが上陸した時点で、多くの兵は中央に向かって進軍中だと思う」
「うん。予想でしかないけれど、敵兵の数が多い以上、すべての兵を倒しきれないのはわかっているから、ある程度は通すつもりでいると思う」
「確かに、これまでのように海岸で食い止められる数ではないでしょうから」
うなずいたクロムは、ペンでもう一度メモに書いた三カ所の印を指した。
「そこで私たちは、互いに上陸した浜で術を放つタイミングを計る」
「梁瀬さんは北浜から西浜へ移動するんでしたね。となると合わせるのは梁瀬さんのタイミングですね」
「そうだね。それからキミたちは、大陸でハンスさんと暗示を解く術を使ったね?」
クロムの問いかけに、梁瀬とともに答えた。
「あのとき、離れていても術を唱えるタイミングがわかりましたけど、今度も同じなんですか?」
「ですが、今度はあのときと状況も距離も大きく違います。それで本当に合わせることが……」
「その心配は要らないよ。二人とももうわかっているはずだ。物理的な距離は関係ないからね」
互いに意識し合っていれば迷うことなくそのときがわかる。
クロムはそう言った。
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