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大切なもの
第7話 生還 ~巧 2~
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夜が明ける前に泉翔の影を確認した。
ピーターとハンスのおかげで、巧が梁瀬と先に船を離れても、スムーズに上陸できるように連携が取れている。
あたりはまだ真っ暗で、はっきりとは見えなくても、たくさんの船体が揺れ動いているのがわかる。
「やっぱりすごい数……だよね?」
「そりゃあそうでしょう? 出ていく数が相当だったんだもの」
「だよねぇ……潮はまだ引かないし、このままじゃあ上陸に時間がかかりそうだよ」
「それははなから承知のうえだったわよ。みんな必ずうまくやってくれるわよ」
デッキで目の前に広がる泉翔の姿を見つめながら、梁瀬はゆっくりと大きく息をついた。
数時間前に梁瀬のもとにクロムから式神が届いてから、どうも様子がおかしいようだ。
少し前から、梁瀬がなにかを思い詰めているのは知っていた。
ただ、それがなんなのか巧には理解できない。
見えない壁で一線を引かれているような感覚……麻乃と初めて対面したときに感じたそれと同じだ。
「この闇の中じゃあ、ヘイトはまだこちらに気づかないわよね」
「うん。まさかこんなに早く自分たちが追われるなんて思ってもいないだろうしね」
船は少しずつ速度を落としながらも、確実に島へと近づいている。
多くの兵たちはもう起き出してきて、いつでも出られるよう準備を始めていた。
「やつらがどう動くかわかりませんけど、夜明け前に動かれたら少しばかり厄介かもしれませんよ」
他の船と連絡を取り合うよう兵に指示を出しながら、ピーターが言った。
「こちらのことは俺たちに任せて、あなたがたは先に決めた方法で上陸をしてください」
「そうは言っても……」
「上陸するまでは慣れています。そのあとは、いつもあなたがたに妨げられていますが」
ピーターは少し嫌味を込めたような視線でニヤリと笑った。
梁瀬と視線を交わし、思わず巧も頬が緩んだ。
「まぁね、これまではね」
「今回ばかりは、その先に進ませてもらわなければなりません。ですから先へ行き、俺たちが今は敵ではないことを……」
「わかった。しっかり知らせてくるわ」
ピーターがみなまで言わないうちに、巧はあとを継いだ。
互いに協力し合うと決めたのだ。
今、共に行動している兵たちを、自分の隊員たちに傷つけさせるわけにはいかない。
「南の浜へ向かった反同盟派のやつらは、いつでも上陸する準備が整っているそうです」
「そう。早いわね」
「ただ、レイファーさまの船が遅れています」
「それじゃあ、僕らが先に出てしまったらまずいんじゃない?」
「いえ、先ほど準備が整い次第、反同盟派と時間を合わせて出るようにと連絡がありました。そのむね南の浜へも連絡するそうです」
「じゃあ、こっちは夜明け前に動く、それでいいのね?」
巧の問いにピーターは大きくうなずいた。
聞けば徳丸も南浜の状況を知るために、一部隊を引き連れて先に上陸するつもりらしい。
それを聞いた梁瀬は早々に身支度を始め、巧もあわてて荷物をまとめてリュックを背負い、龍牙刀をしっかりと腰に帯びた。
船首の広い場所へ梁瀬はためらいもせずに式神を出した。
周囲で見ていた兵たちのざわめきが耳に届く。
ピーターと最後の打ち合わせをし、事が起こった際には密に連絡を取れるように繋ぎをしっかりと決めた。
「じゃ、巧さん、準備はいい?」
「いつでも」
ゴワゴワと硬い羽を掴み、勢いをつけて梁瀬の後ろに乗った。
なんとも言えない感触と庸儀の崖で放り出されたときのことを嫌でも思い出し、手綱を握った手に力がこもってしまう。
「もう落ちたりしないから大丈夫だよ」
緊張が伝わったのか、梁瀬はプッと吹き出してからそう言った。
「信用してないわけじゃないのよ。ただ、慣れないのよ」
「まぁ、わかるけど。僕自身、まだ慣れないし」
「……えっ?」
聞き捨てならない梁瀬の言葉にますます不安をあおられ、思わず聞き返したのと同時に鳥の翼が大きく広がった。
グンと体を後ろへ引っ張られるような感覚に、両手でしっかりと手綱を握り直した。
振り返るとあっという間に船の姿が小さくなり、真っ暗な海面になにも見えなくなる。
体じゅうに吹きつける風と耳もとで唸る風音が、暗闇の中にいてもスピードを感じさせられた。
海風は思った以上に冷たくて目も開けていられない。
時間の感覚さえまったく掴めず、段々と強張って行く自分の体に不安を覚え、梁瀬に問いかけようとしたとき、不意にスピードが緩んだ。
ピーターとハンスのおかげで、巧が梁瀬と先に船を離れても、スムーズに上陸できるように連携が取れている。
あたりはまだ真っ暗で、はっきりとは見えなくても、たくさんの船体が揺れ動いているのがわかる。
「やっぱりすごい数……だよね?」
「そりゃあそうでしょう? 出ていく数が相当だったんだもの」
「だよねぇ……潮はまだ引かないし、このままじゃあ上陸に時間がかかりそうだよ」
「それははなから承知のうえだったわよ。みんな必ずうまくやってくれるわよ」
デッキで目の前に広がる泉翔の姿を見つめながら、梁瀬はゆっくりと大きく息をついた。
数時間前に梁瀬のもとにクロムから式神が届いてから、どうも様子がおかしいようだ。
少し前から、梁瀬がなにかを思い詰めているのは知っていた。
ただ、それがなんなのか巧には理解できない。
見えない壁で一線を引かれているような感覚……麻乃と初めて対面したときに感じたそれと同じだ。
「この闇の中じゃあ、ヘイトはまだこちらに気づかないわよね」
「うん。まさかこんなに早く自分たちが追われるなんて思ってもいないだろうしね」
船は少しずつ速度を落としながらも、確実に島へと近づいている。
多くの兵たちはもう起き出してきて、いつでも出られるよう準備を始めていた。
「やつらがどう動くかわかりませんけど、夜明け前に動かれたら少しばかり厄介かもしれませんよ」
他の船と連絡を取り合うよう兵に指示を出しながら、ピーターが言った。
「こちらのことは俺たちに任せて、あなたがたは先に決めた方法で上陸をしてください」
「そうは言っても……」
「上陸するまでは慣れています。そのあとは、いつもあなたがたに妨げられていますが」
ピーターは少し嫌味を込めたような視線でニヤリと笑った。
梁瀬と視線を交わし、思わず巧も頬が緩んだ。
「まぁね、これまではね」
「今回ばかりは、その先に進ませてもらわなければなりません。ですから先へ行き、俺たちが今は敵ではないことを……」
「わかった。しっかり知らせてくるわ」
ピーターがみなまで言わないうちに、巧はあとを継いだ。
互いに協力し合うと決めたのだ。
今、共に行動している兵たちを、自分の隊員たちに傷つけさせるわけにはいかない。
「南の浜へ向かった反同盟派のやつらは、いつでも上陸する準備が整っているそうです」
「そう。早いわね」
「ただ、レイファーさまの船が遅れています」
「それじゃあ、僕らが先に出てしまったらまずいんじゃない?」
「いえ、先ほど準備が整い次第、反同盟派と時間を合わせて出るようにと連絡がありました。そのむね南の浜へも連絡するそうです」
「じゃあ、こっちは夜明け前に動く、それでいいのね?」
巧の問いにピーターは大きくうなずいた。
聞けば徳丸も南浜の状況を知るために、一部隊を引き連れて先に上陸するつもりらしい。
それを聞いた梁瀬は早々に身支度を始め、巧もあわてて荷物をまとめてリュックを背負い、龍牙刀をしっかりと腰に帯びた。
船首の広い場所へ梁瀬はためらいもせずに式神を出した。
周囲で見ていた兵たちのざわめきが耳に届く。
ピーターと最後の打ち合わせをし、事が起こった際には密に連絡を取れるように繋ぎをしっかりと決めた。
「じゃ、巧さん、準備はいい?」
「いつでも」
ゴワゴワと硬い羽を掴み、勢いをつけて梁瀬の後ろに乗った。
なんとも言えない感触と庸儀の崖で放り出されたときのことを嫌でも思い出し、手綱を握った手に力がこもってしまう。
「もう落ちたりしないから大丈夫だよ」
緊張が伝わったのか、梁瀬はプッと吹き出してからそう言った。
「信用してないわけじゃないのよ。ただ、慣れないのよ」
「まぁ、わかるけど。僕自身、まだ慣れないし」
「……えっ?」
聞き捨てならない梁瀬の言葉にますます不安をあおられ、思わず聞き返したのと同時に鳥の翼が大きく広がった。
グンと体を後ろへ引っ張られるような感覚に、両手でしっかりと手綱を握り直した。
振り返るとあっという間に船の姿が小さくなり、真っ暗な海面になにも見えなくなる。
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