蓮華

釜瑪 秋摩

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動きだす刻

第136話 強襲 ~巧 2~

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 レイファーがロマジェリカの城へ攻め込んでから、まだそう時間も経たないうちに城門を突破した。
 城のそばにあった街は、数軒の家が焼けてしまったけれど、それ以外の被害は出ていない。

 庸儀のほうはまだ夜が明けたばかりのようだけれど、ロマジェリカはすっかり陽が昇っている。
 それでも出航して日も経っていないせいか、ロマジェリカ軍はわずかに数百程度の人数が城壁に沿って守りを固めていただけだった。

 そのせいもあるのだろうか。
 とにかくレイファーの出方は強引だ。
 まず砲撃から始めたのには、巧も恐れ入った。

 ジャセンベル軍の数があれば砲撃などしなくとも、ロマジェリカ軍を抑えることはたやすかっただろう。
 一番後方でピーターとともにトラックの荷台で様子を見守りながら、巧は唖然として問いかけた。

「ちょっと。どうなのよ? あれ」

「どう……と言われても……なにか問題でも?」

 巧の問いが不思議だと言わんばかりの表情で、ピーターは答える。
 穂高を見ると戸惑った表情を見せた。
 泉翔ではどの国からも、ほとんど砲撃を受けたことがない。
 と言うより、火を出すような攻撃自体を受けた記憶が、あまりない。

「大陸ではいつもああなの?」

「ああ、と言うと?」

「だから、あんなふうにいきなり砲撃するわけ?」

「そうですね……比較的早い段階で使います。そのほうがこちらの被害が最小限で済みますし、なにより時間がかりませんから」

「そういう攻撃はうちじゃ滅多になかったけど、泉翔でも同じことをしていたら、案外たやすく乗っ取れたんじゃない?」

 巧の言葉にピーターは声を上げて笑った。
 なにがそんなにおかしいのか。
 間違ったことでも言っただろうか?

「それはあり得ませんよ。そりゃあ、多少は強引に攻め込もうとしたこともありましたけど」

「なんでよ?」

「大陸がほしいのはなにもない島じゃあない。あの緑や資源の豊かな島だからこそ、です。焼け野原にしてしまっては、単に領地を増やすだけです。土地がほしいだけなら危険な海など渡らず、大陸の中だけで済ませればいいことです」

「なるほどね……」

 少なからずショックだった。
 海に囲まれていることが、豊かな国であることが、自分たちが守っているつもりだったのが、逆に守られていたことに改めて気づかされる。
 同じ条件下で戦ったとしても負ける気はまったくないけれど、今までのようにほぼ無傷では済まないだろう。

「泉翔人は甘いとか温いとか言われるのもうなずけるな……」

「いえ、あなたがたは強い。なんと言ってもあの人数なのに敵わない……俺なんて名乗りは上げられずとも味方であるのに、正直腹が立ったほどです」

 穂高の呟きにピーターはそう言った。
 それが気休めではないのは目を見ればわかるけれど、それでも巧自身の中で揺らいだ思いはなかなか落ち着こうとしてくれない。

 いつからか泉翔での防衛について持ち始めた疑問が、今、ここへ来てしっかりとした形を取って目の前に現れた気がした。
 きっともう必要になることはないのだろうけれど……。

「巧さん! あれがいる!」

 穂高の緊迫した叫びに、ハッと我に返った。
 指さす方角に見えたのは、半分焼け焦げたロマジェリカ兵が立ち上がったところだ。
 ピーターも穂高も武器を手にトラックの荷台を飛び降りると、戦線に向かって駆けだしていく。

 巧もそのあとを追った。
 出航した船への連絡係はヘイトが手を打ってくれたけれど、それで術師がいなくなったわけじゃあない。

「どうやら全部の兵が起き上がってくるんじゃないみたいだ」

「あいつほど力のある術師はいないってことね」

「目立った場所には出てこない。建物や物陰を探ってためらわずに攻撃を!」

 目配せをして三手にわかれた。
 立ち上がりかけたロマジェリカ兵の足を斬り、周囲の物陰に視線を廻らせる。
 何者かが隠れている様子はなく走りながらふと見上げた窓に、人影が見えた気がした。
 兵たちのあいだを掻い潜り、一番近い入り口から城へ入り込むと、階段を探して駆け上った。
 上の階にはなにもなく、次の階段をまた上る。

(……どこだ)

 見通しの良い廊下には倒れた敵兵が重なっているだけで、他になにもない。
 所々に飾られた花器などは倒れて粉々に砕けていた。
 いくつも並んだ扉の一番奥の部屋に人の気配を感じる。

(そう言えば……レイファーは城内にいる一般人をどうしたのかしら?)

 敵の本丸に乗り込んで、敵兵と一般人を選りわけることができているのだろうか?
 巧はそっと最後の部屋の扉の前に立った。
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