蓮華

釜瑪 秋摩

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動きだす刻

第131話 強襲 ~梁瀬 1~

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 日暮れになってから、穂高から式神が来た。
 いつでも連絡が取れるようにしておきたい、そうメモに書かれていた。
 ちょうど梁瀬は庸儀の兵が集まったところへ式神を飛ばしたばかりで、穂高とのやり取りはサムに任せてみることにした。

「どうだ? なにか変わったことはあったか?」

「うん……マドルが雑兵を集めてなにかしてるんだけどね」

 徳丸から差し出された水筒を受け取り、蓋を開けると一気に飲み干した。
 地下に入るとさすがに風は吹かないけれど、どうにも埃っぽい気がして、やけに喉が渇く。

「泉翔に渡ってからのルート確認、ってところか」

「でも雑兵だよ? そう言う話しなら士官兵を集めないかなぁ?」

 本当なら中に入り込むのが一番だけれど、さして広くもない部屋に軽く見積もって四、五十人。
 そんな場所ではそうも行かない。

 窓に近ければ声も届くだろう。
 けれどいつまでも窓枠に鳥がとまっているのも不自然だ。
 仕方なく一番近い木の枝に腰を据えた。中の様子がわかるだけ、まだましだろう。

「それに、赤髪の女もいないんだよね」

「雑兵なら代わりが利く。暗示にでもかけて先頭に立たせようってんじゃねぇか?」

「そういう雰囲気でもないんだ」

 あたりが真っ暗になっているおかげで、明かりの点いた部屋の中が良くわかる。
 ジッと目を凝らすと、中に赤髪の女の側近が数名見えた。
 なにやら神妙な面持ちでいるのが気になる。

 やがて話しが済んだのか、雑兵たちが立ち上がり、部屋を出ていった。
 残った資料を片づけ、マドルが最後に部屋を出ていく。
 それを見送ってから建物の入り口へと式神を移動させた。

 数十分待つと、マドルが出てきた。
 海岸へ向かっていくのを追う。
 まだひっそりとしている港には、幾隻もの船が波に揺れていた。

「ロマジェリカも凄い数だったけど、こっちもかなりだなぁ」

「船か?」

「うん。庸儀は確か南浜だったけど……南には誰が出るのかな……」

「出てきたときのままなら、南には俺たちの部隊が詰めているが、向こうも防衛の準備をしていることを考えると、組み合わせが変わっているかもしれねぇな」

「だよねぇ。泉翔の情報がほしいな……修治さんたちもきっとそれぞれに各浜に詰めるんだろうけど、誰がどこにいるんだろう?」

「修治と麻乃を鉢合わせると厄介だな。本気で麻乃を取り戻す気なら、鴇汰じゃねぇと駄目だ」

 もっと先を見通して早い段階で泉翔との繋ぎを取っておけばよかったと後悔した。
 自分のことばかりを優先してしまっておろそかにしていた。
 ジッと海を眺めていたマドルが、不意に式神を飛ばした。
 他の船と……恐らくロマジェリカと連絡を取るつもりだろう。

 うまくすれば、聞き取ることができるかもしれない。
 そう考えてあとを追わせた。
 その途端、海岸でざわめきが起きた。
 ツバメを旋回させ、様子を見ると、ヘイトからの物資が届いたところだった。

(どうしよう……ここから一気に庸儀が動く……穂高さんたちに知らせて連携を取れるようにしなきゃ……でも……)

 迷っている間にマドルの飛ばした式神は、暗闇の中に溶けてしまった。

「野本さん、笠原さん、少しよろしいですか?」

 サムの手のものに声をかけられ、案内されるままに連れていかれたのはサムのところだった。
 そこにはハンスも同席していた。

「たった今、庸儀に物資が届いたよ」

「ええ、こちらでも確認しました。穂高さんのほうへは既に知らせてあります」

「穂高はなんと言ってきた?」

「まだなんとも……ですが今ごろは、ジャセンベルとともに準備に取りかかっているかと思います」

「庸儀が最後に動く。そのタイミングでいつでも動けるようになってる、ってこと?」

「ヘイトのほうはもう乗船を終え、間もなく出航するだろう」

 船が動きだしたら、すぐにハンスの許へ連絡が届く手筈になっていると言う。
 その際は、残ったヘイトの兵士がわずかながらも庸儀へ進軍してくるそうだ。

「庸儀は恐らく、物資の積み込みと同時に乗船を始め、それが終了するとすぐに出ると思います」

 サムの言葉に、梁瀬は残した式神を飛ばして海岸沿いを流してみた。
 サムの言うとおり、荷を積み込みながらそのまま乗船している雑兵がほとんどだ。

「うん、もう乗船している」

「でしょう? 本来、指揮を取るマドルが出遅れているんです。少しでも取り戻そうとするでしょう。そうでないと紅い華の不興を買うかもしれませんからね」

「それじゃあ、やつらが外海へ出て見えなくなったと同時に仕かける、それで決まりだな」
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