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動きだす刻
第90話 交差 ~穂高 2~
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「僕はさ、この南のものっていうのは、まず間違いなくジャセンベルの武王だと思うのね」
梁瀬はそう言って開いたページを手の甲でパンとたたいた。
確かに、泉翔に伝わる昔話でも、大陸の南に位置しているのはジャセンベルだ。
「紅き華、っていうのは麻乃さんで間違いはないし……だとすると、ロマジェリカには残る四つのいずれかがいると思うわけ」
「四つ? 残るのは月の皇子と破壊の焔の二つじゃねぇのか?」
「うん、そのどちらかである確率が高いんだけど、大陸にはまだ三賢者がいるじゃない?」
一つ風、一つ雫、一つ雲がそれぞれを表しているんだろうと梁瀬は呟く。
「そうしたら、一枠足りないじゃない。二つに三つなら、五つのいずれかになるんじゃない?」
「本当はね。でも、確証はないけど、一人はもうわかってるじゃない」
「わかってるって……なにがよ?」
「クロムさんが賢者の一人だってこと」
梁瀬はサラッと言うと、また本に視線を落とした。
「前にね、母に聞いたんだ。三賢者のうち、二人はもう亡くなっている。残る一人は大切なものを守るため、世を捨て隠遁しているって」
「だからって……なんの確証もなくそんなこと……」
「今のこの状態を隠遁って言わずになんと言う? 人にしか見えない式神を使って、たった一人で海を渡る。それになにより、得意じゃないという回復術で鴇汰さんを、ここまで回復させているじゃない!」
「そうだな。だが梁瀬、クロムさんが賢者の一人だとして、そうまで騒ぐほどの問題か?」
穂高の目から見ても梁瀬が妙に興奮しているのはわかる。
出かけたあとから突然だ。穂高と巧がルーンを送りに出ていたあいだに、どうやらなにかあったらしい。
聞けばますます梁瀬を昂らせるだけになりそうで、穂高も巧も口をつぐんでいた。
「ん……それはなんの問題もないよ……ごめん。大声を出すつもりはなかったんだけど……」
「いいよ。それより俺は、梁瀬さんの考えを先に聞きたい」
やっぱり術には馴染みがなく、自分でも疲労してきているのがわかる。
このままなにも聞かないで眠ってしまうわけにはいかない。
徳丸が気づいたのか、鴇汰の胸に触れていた手を引き離し、次は俺がやろう、そう言ってくれた。
「僕は豊穣の前から、今度のことはいろいろと考えているつもりだったけど、考えれば考えるほど、悪いほうに向かっている気がしてならないんだ」
「実際、違うとは言い難いわよね。鴇汰はこんなだし、麻乃だって……」
「でも、必ずしも悪いことばかりじゃないと、俺は思うけど。現にクロムさんの手を借りて、俺たちはみんな無事だったわけだし」
思うほど悪いことばかりが浮かんでくると、鴇汰も豊穣の前に言っていた。
だからと言って思ったから結果が今に繋がっているとはかぎらない。
様々な状況が織り成しての結果だ。
穂高の言葉に徳丸もうなずいている。
「そうね。これまでクロムさんがなにをしてきたのか知らないけれど、本来であれば敵対している大陸の各国が、繋がりを持ち始めているものね」
「それぞれに思惑があって、それが交差しているところをガッチリ掴んでいるよね」
「それに、少なからず俺たちにとって、良い方向へ進めるように仕向けてくれているようにも見えるな」
クロムがなにを思っているのかはわからない。
けれど穂高たちに悪いようにはしないつもりでいるのが、ちゃんと伝わってくる。
それは穂高だけではなく、巧にも徳丸にも、そして梁瀬にも伝わっているようだ。
「とりあえず……梁瀬さんがいうように、南のものがジャセンベルの武王だとしたら……やっぱりそれはレイファーのことかな?」
「うん、僕はそれで間違いないと思うのね。今後のことを考えると、彼は僕らにとって悪い存在じゃないとも思うんだ」
「それは泉翔にとっても、ということにもなるな」
レイファーの話しが出ると巧の表情がこわばる。
ただ、これからの泉翔にとって、必ずしも悪い存在ではないと梁瀬と徳丸がいうことで、ホッと頬を緩めた。
「なんだよ……まだ眠いのによ……うるせーぞ……」
その声に、穂高だけでなく全員が驚いて体を震わせた。
飛び付くようにベッドの脇に身を伏せると、そっと鴇汰の様子をうかがった。
起きてしまったのか眠っているのか、鴇汰の目は閉じたままだ。
「意識、本当に戻ったんだね。でもきっと、クロムさんの薬湯のせいで目が覚めないんだよ」
声をひそめた梁瀬が、笑いをこらえながらそう言うと、巧までプッと吹き出した。
梁瀬はそう言って開いたページを手の甲でパンとたたいた。
確かに、泉翔に伝わる昔話でも、大陸の南に位置しているのはジャセンベルだ。
「紅き華、っていうのは麻乃さんで間違いはないし……だとすると、ロマジェリカには残る四つのいずれかがいると思うわけ」
「四つ? 残るのは月の皇子と破壊の焔の二つじゃねぇのか?」
「うん、そのどちらかである確率が高いんだけど、大陸にはまだ三賢者がいるじゃない?」
一つ風、一つ雫、一つ雲がそれぞれを表しているんだろうと梁瀬は呟く。
「そうしたら、一枠足りないじゃない。二つに三つなら、五つのいずれかになるんじゃない?」
「本当はね。でも、確証はないけど、一人はもうわかってるじゃない」
「わかってるって……なにがよ?」
「クロムさんが賢者の一人だってこと」
梁瀬はサラッと言うと、また本に視線を落とした。
「前にね、母に聞いたんだ。三賢者のうち、二人はもう亡くなっている。残る一人は大切なものを守るため、世を捨て隠遁しているって」
「だからって……なんの確証もなくそんなこと……」
「今のこの状態を隠遁って言わずになんと言う? 人にしか見えない式神を使って、たった一人で海を渡る。それになにより、得意じゃないという回復術で鴇汰さんを、ここまで回復させているじゃない!」
「そうだな。だが梁瀬、クロムさんが賢者の一人だとして、そうまで騒ぐほどの問題か?」
穂高の目から見ても梁瀬が妙に興奮しているのはわかる。
出かけたあとから突然だ。穂高と巧がルーンを送りに出ていたあいだに、どうやらなにかあったらしい。
聞けばますます梁瀬を昂らせるだけになりそうで、穂高も巧も口をつぐんでいた。
「ん……それはなんの問題もないよ……ごめん。大声を出すつもりはなかったんだけど……」
「いいよ。それより俺は、梁瀬さんの考えを先に聞きたい」
やっぱり術には馴染みがなく、自分でも疲労してきているのがわかる。
このままなにも聞かないで眠ってしまうわけにはいかない。
徳丸が気づいたのか、鴇汰の胸に触れていた手を引き離し、次は俺がやろう、そう言ってくれた。
「僕は豊穣の前から、今度のことはいろいろと考えているつもりだったけど、考えれば考えるほど、悪いほうに向かっている気がしてならないんだ」
「実際、違うとは言い難いわよね。鴇汰はこんなだし、麻乃だって……」
「でも、必ずしも悪いことばかりじゃないと、俺は思うけど。現にクロムさんの手を借りて、俺たちはみんな無事だったわけだし」
思うほど悪いことばかりが浮かんでくると、鴇汰も豊穣の前に言っていた。
だからと言って思ったから結果が今に繋がっているとはかぎらない。
様々な状況が織り成しての結果だ。
穂高の言葉に徳丸もうなずいている。
「そうね。これまでクロムさんがなにをしてきたのか知らないけれど、本来であれば敵対している大陸の各国が、繋がりを持ち始めているものね」
「それぞれに思惑があって、それが交差しているところをガッチリ掴んでいるよね」
「それに、少なからず俺たちにとって、良い方向へ進めるように仕向けてくれているようにも見えるな」
クロムがなにを思っているのかはわからない。
けれど穂高たちに悪いようにはしないつもりでいるのが、ちゃんと伝わってくる。
それは穂高だけではなく、巧にも徳丸にも、そして梁瀬にも伝わっているようだ。
「とりあえず……梁瀬さんがいうように、南のものがジャセンベルの武王だとしたら……やっぱりそれはレイファーのことかな?」
「うん、僕はそれで間違いないと思うのね。今後のことを考えると、彼は僕らにとって悪い存在じゃないとも思うんだ」
「それは泉翔にとっても、ということにもなるな」
レイファーの話しが出ると巧の表情がこわばる。
ただ、これからの泉翔にとって、必ずしも悪い存在ではないと梁瀬と徳丸がいうことで、ホッと頬を緩めた。
「なんだよ……まだ眠いのによ……うるせーぞ……」
その声に、穂高だけでなく全員が驚いて体を震わせた。
飛び付くようにベッドの脇に身を伏せると、そっと鴇汰の様子をうかがった。
起きてしまったのか眠っているのか、鴇汰の目は閉じたままだ。
「意識、本当に戻ったんだね。でもきっと、クロムさんの薬湯のせいで目が覚めないんだよ」
声をひそめた梁瀬が、笑いをこらえながらそう言うと、巧までプッと吹き出した。
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