蓮華

釜瑪 秋摩

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動きだす刻

第83話 接触 ~穂高 3~

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「正直なところ、俺は大陸のやつらなんざ、みんな同じで他人のものを奪うことしか頭にねぇんだと思っていた。けどな、どうやら反同盟派のやつらはそうじゃあないらしい」

「僕らは今度の豊穣で初めてヘイトに渡ったけど、驚くほど緑が多くてね。今のヘイトは国として意識が変わってきているんだよ」

 反同盟派などとうたって国を出奔までしたものたちが、これまで築き上げてきたものは泉翔のそれに近いと二人は言う。
 上に立つもの次第では、泉翔への侵攻もなくなる可能性がある。
 そうなれば、これは泉翔にとっても国を守ることになるだろう。
 穂高もまったく同じことを考えていた。

(それに……)

 組んだ相手がジャセンベルだ。巧も気づいていないはずがない。
 その証拠に、巧は大きな溜息とともに黙って腰を下ろした。

「仮にやつらが無事、統一を果たしたとして、問題はそのあとだ」

「攻め入られた泉翔が、三国相手に立ち行かなかった場合、やつらは泉翔の余りある資源を手に、大陸に戻ってくるよね?」

 例え、ジャセンベルのような大国でも、三国を相手に数少ない物資で対応するのは難しいだろう。
 ジャセンベルや反同盟派にとって、泉翔を三国に渡すことは好ましくない結果だ。

「ジャセンベルがこの先、どう動くのかはハッキリとわからねぇ。なにしろあそこの王は強引だと言う話しだしな」

「でも僕たちが今、手を貸すことで、大陸の先行きに目処が立てば、泉翔に侵攻している三国を追ってたたくこともできると思うんだ」

 要するに話しの持って行き方次第では、ジャセンベル軍と反同盟派に属する元戦士たちを味方につけられる。
 三国が動きだしたのと同時にこちらも一気に動けば、泉翔が落とされる前に戻ることも可能だろう。
 数の少ない泉翔の戦士たちではまかなえない部分をジャセンベル軍と反同盟派で抑え込めるなら、泉翔は負けない。

 絵空事だと一笑するのは簡単だ。
 けど、今の状況はどうだ?
 まるでそうするのが当然のように、なにもかもが動きだしているじゃないか。

「勝算はあるの? 仮に手を貸したとして、私たちが泉翔へ間違いなく帰れるという保証は? それにジャセンベルが統一を果たしたとして、そのあと、ジャセンベル軍と反同盟派が手を組んで泉翔に攻め入ってこないと言いきれる?」

 巧の問いに、梁瀬と徳丸が視線を交わして困った顔を見せている。
 反同盟派のほうは梁瀬の絡む事情もあるけれど、ジャセンベル軍に関しては、二人とも明確な答えを出しきれないのが手に取るようにわかった。
 それにしても、巧は意地が悪い。

「なによ? デカイことを言っちゃってた癖に。これじゃ、てんで話しにならないわね」

「巧! 俺たちは……」

「いいわよ。もう。トクちゃんたちの好きなようにしたら? 私は私で、穂高と動くわよ」

 徳丸と梁瀬の視線が穂高に向き、一瞬、たじろいだ。

「まぁ、なんて言うか……そういうことなんだよね」

「そうもこうもねぇだろう? こんな状況で別行動か? 俺も梁瀬も冗談でこんな話しをしてるんじゃねぇんだぞ?」

「だから、そんなことはわかってるわよ。トクちゃんたちはヤッちゃんの伝があるんだったら、そっちから働きかけをしていくべきだって言ってるの」

 眉をひそめた徳丸の視線が、きつく巧に向いた。
 巧がへそを曲げて反対していると思っているのだろう。
 巧もそれを感じている癖に涼しい顔だ。

「私はね、ジャセンベルのほうから働きかけるから。そっちはなにも心配するようなことはないわね……多分だけど」

「おまえ、一体なにを考えていやがるんだ?」

「そうは言っても丸っきり別行動じゃ、あとで厄介よねぇ……ちょっとさ、両方で一度、しっかりと話しを通しておくべきだと思うわ。どう? 穂高」

「そうだね……そうするべきだ。こっちの事情もだけど、向こうの事情も知っておかなきゃまずいと、俺は思う」

 キョトンとしている徳丸と梁瀬に手招きをして額を寄せると、巧は今日あった来客のこと、そしてアンドリューとルーンとともに決めたことを、二人に話して聞かせた。
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