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動きだす刻
第74話 潜む者たち ~梁瀬 2~
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「僕は巧さんたちが目を覚ますまでに少しのあいだ話しをしたけれど、そのあたりの心配は要らなそうだよ。どうやら僕らにここでなにかを手伝わせたいらしい。それが泉翔を守ることにも繋がるみたいなんだけどね……それになにをするにしても、やっぱり事のタイミングって、あると思うし……」
「ヤッちゃんはクロムさんの要求をすぐに聞き入れていたものねぇ」
「すぐにってわけじゃないけど、きちんと説明をしてもらう時間はあったから……ただ、ここでできることがあるっていうのはわからないんだよね」
それだけはどう考えても思いつかない。
巧も同じ気持ちなのか、なにも言わずに黙っている。
「――明日の来客」
二人同時に呟いた。
暗闇の中で、それが妙におかしく感じて、フフッと笑いがもれてしまう。
「誰が来るっていうのかしら? こっちに知り合いなんていないのに」
「僕だって……いないわけじゃないけど心当たりはないなぁ……巧さんはジャセンベルの森を世話してくれている人がいるでしょ?」
「そりゃあ……でもここを訪ねてくるってことはクロムさんの知り合いでしょう? まずありえない話しだわね」
今はそれどころじゃないだろうし、巧は最後の言葉をそう濁した。
「それどころじゃないって、その人って一体どんな人なの?」
「ん……ちょっとわけありでねぇ」
いつもなんでもハッキリ言うのに、なぜかためらって濁すのが気になり、更に問い詰めようとしたとき、背後から徳丸の声がピシャリと梁瀬と巧をたしなめてきた。
「あれこれ気になるのもわかる。考えなきゃいけないこともな。俺だってこう見えていろいろと考えてるくらいだ」
「トクちゃんいつから起きていたのよ?」
「つい今しがただ。それよりおまえら、いい加減に眠っておけ。無理やりにでも、だ」
「そうは言っても……」
反論しようと口を挟んだのを、徳丸はすぐにさえぎる。
「これでもしも体調でも崩してみろ。待ってるのはアレだ。俺はもう二度と御免だぞ。とにかく話しの続きは明日にしておけ」
そう言って布団を頭から被ってしまった。
アレというのが薬湯だと聞くまでもなくわかる。
巧も小さく溜息をもらし、また横を向いて大人しくしている。
ごろりと横になり、真っ黒な天井を見つめた。
クロムは一体、なにを考えているんだろうか。
と言うよりも、どんな人なんだろうか?
鴇汰を大事に思っているのは伝わってくるし、穂高も昔から知っているからか信頼しているように見える。
その行動には用心しているようだけれど……。
(明日の来客……か)
それについては追々話す、と言っていた。
(今は待つしかないかな。どんな小さなことも取りこぼさないようにしなければ……)
目を閉じると急速に睡魔が襲ってきて、大欠伸をした。
目が覚めるともう外はすっかり明るくなっていた。
鳥のさえずりが良く響いているところをみると、まだ朝の早い時間だろう。
梁瀬以外に誰の姿もなく、ドアの向こうから賑やかな声が届き、あわてて起きると支度をして部屋を出た。
「やっと起きてきたね」
穂高に声をかけられて、まだ眠気の残ったまぶたをこすりながら席についた。
クロムの式神が待っていたかのように朝食を運んできてくれる。
巧も徳丸も既に食べ始めていて、半分ほどを平らげているし、穂高に至っては、食べ終えて片づけをしていた。
「みんな何時に起きたの?」
「巧さんもトクさんも、ついさっきだよね。俺は夜明け前に目が覚めちゃって」
「おまえは早くに寝ちまったからな。まぁ、俺もおまえを運んですぐに寝ちまったが」
食器を洗っている穂高の隣で、銀髪の女性が慣れた手つきでコーヒーを点てている。
部屋を見回してもクロムの姿は見えない。
式神にはとても見えない女性の動きに、どんな術を施しているのか、凄く気になった。
「みんなが起きてくるまで暇だったから、鴇汰の様子を見てきたんだ」
洗った食器を片づけながら穂高がポツリと呟き、その背中を巧と徳丸とともに見つめた。
「まだ目を覚ます様子はないけど……ずいぶんと顔色も良くなっていたよ」
「そう。それは良かったわ。本当に……」
クロムと交代をして数時間ほど回復術を使ってきたと言う。
「まさかクロムさん、今もまだ続けているの?」
「いや、少し休むって。俺たちにはゆっくり食事をしてから続きを頼みたいって言ってたよ」
銀髪の女性が入れたコーヒーを受け取ってみんなの前に置きながら、穂高も席についた。
「ヤッちゃんはクロムさんの要求をすぐに聞き入れていたものねぇ」
「すぐにってわけじゃないけど、きちんと説明をしてもらう時間はあったから……ただ、ここでできることがあるっていうのはわからないんだよね」
それだけはどう考えても思いつかない。
巧も同じ気持ちなのか、なにも言わずに黙っている。
「――明日の来客」
二人同時に呟いた。
暗闇の中で、それが妙におかしく感じて、フフッと笑いがもれてしまう。
「誰が来るっていうのかしら? こっちに知り合いなんていないのに」
「僕だって……いないわけじゃないけど心当たりはないなぁ……巧さんはジャセンベルの森を世話してくれている人がいるでしょ?」
「そりゃあ……でもここを訪ねてくるってことはクロムさんの知り合いでしょう? まずありえない話しだわね」
今はそれどころじゃないだろうし、巧は最後の言葉をそう濁した。
「それどころじゃないって、その人って一体どんな人なの?」
「ん……ちょっとわけありでねぇ」
いつもなんでもハッキリ言うのに、なぜかためらって濁すのが気になり、更に問い詰めようとしたとき、背後から徳丸の声がピシャリと梁瀬と巧をたしなめてきた。
「あれこれ気になるのもわかる。考えなきゃいけないこともな。俺だってこう見えていろいろと考えてるくらいだ」
「トクちゃんいつから起きていたのよ?」
「つい今しがただ。それよりおまえら、いい加減に眠っておけ。無理やりにでも、だ」
「そうは言っても……」
反論しようと口を挟んだのを、徳丸はすぐにさえぎる。
「これでもしも体調でも崩してみろ。待ってるのはアレだ。俺はもう二度と御免だぞ。とにかく話しの続きは明日にしておけ」
そう言って布団を頭から被ってしまった。
アレというのが薬湯だと聞くまでもなくわかる。
巧も小さく溜息をもらし、また横を向いて大人しくしている。
ごろりと横になり、真っ黒な天井を見つめた。
クロムは一体、なにを考えているんだろうか。
と言うよりも、どんな人なんだろうか?
鴇汰を大事に思っているのは伝わってくるし、穂高も昔から知っているからか信頼しているように見える。
その行動には用心しているようだけれど……。
(明日の来客……か)
それについては追々話す、と言っていた。
(今は待つしかないかな。どんな小さなことも取りこぼさないようにしなければ……)
目を閉じると急速に睡魔が襲ってきて、大欠伸をした。
目が覚めるともう外はすっかり明るくなっていた。
鳥のさえずりが良く響いているところをみると、まだ朝の早い時間だろう。
梁瀬以外に誰の姿もなく、ドアの向こうから賑やかな声が届き、あわてて起きると支度をして部屋を出た。
「やっと起きてきたね」
穂高に声をかけられて、まだ眠気の残ったまぶたをこすりながら席についた。
クロムの式神が待っていたかのように朝食を運んできてくれる。
巧も徳丸も既に食べ始めていて、半分ほどを平らげているし、穂高に至っては、食べ終えて片づけをしていた。
「みんな何時に起きたの?」
「巧さんもトクさんも、ついさっきだよね。俺は夜明け前に目が覚めちゃって」
「おまえは早くに寝ちまったからな。まぁ、俺もおまえを運んですぐに寝ちまったが」
食器を洗っている穂高の隣で、銀髪の女性が慣れた手つきでコーヒーを点てている。
部屋を見回してもクロムの姿は見えない。
式神にはとても見えない女性の動きに、どんな術を施しているのか、凄く気になった。
「みんなが起きてくるまで暇だったから、鴇汰の様子を見てきたんだ」
洗った食器を片づけながら穂高がポツリと呟き、その背中を巧と徳丸とともに見つめた。
「まだ目を覚ます様子はないけど……ずいぶんと顔色も良くなっていたよ」
「そう。それは良かったわ。本当に……」
クロムと交代をして数時間ほど回復術を使ってきたと言う。
「まさかクロムさん、今もまだ続けているの?」
「いや、少し休むって。俺たちにはゆっくり食事をしてから続きを頼みたいって言ってたよ」
銀髪の女性が入れたコーヒーを受け取ってみんなの前に置きながら、穂高も席についた。
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