451 / 780
動きだす刻
第40話 襲来 ~岱胡 4~
しおりを挟む
「なんの根拠もないし笑うかもしれないけど……俺たち絶対、大丈夫な気がするんだよな。例え、敵がどんな変なやつらでも絶対大丈夫って、そんな気がするの」
ライフルを構えて海岸に視線を落とした。
今、岱胡が思い、感じていることを誰かに伝えたかった。
言葉にハッキリ出すことでそれが更に現実に近づく気がしたからだ。
「笑うわけがないでしょう? 詰所でも似たようなことを言ってましたよね? 岱胡隊長がそう思うなら、本当に大丈夫なんですよ」
隣で弾を込めて同じように構え、海岸に銃口を向けた森本は、本当に笑わずにそう言った。
一番近い拠点に移動した鶴居たちはどうしているだろう?
徳丸と巧の隊員や元蓮華たちも、居住区のほうは大丈夫だろうか?
ここで数を減らせば先に行くほど楽にはなるけれど、手持ちの弾もずいぶんと減った。そう長くは止まっていられない。
麻酔弾を詰めたライフルを背負い直し、今度は停泊している船を見回した。
聞こえるのは波音だけで、朝焼けでオレンジ色に変わり始めた空の色が、周りの景色をくっきりと浮き立たせている。
「動いた!」
誰かが声を潜めてそう呟いたと同時に、また船から敵兵が溢れ出てきた。
今まで聞いていた波の音とは明らかに違う地鳴りのような音が響く。
「落ち着いて。今までと同じに堤防に近づくやつらから狙うんだ! 弾が切れたやつから順に二つ先の拠点に移動を始めて!」
返事とともに銃撃が一斉に響く。
岱胡も撃とうと構えたとき、飯川の焦りを含んだ声が聞こえた。
「岱胡隊長……! 船が増えてます! 庸儀の戦艦の後ろから相当な数が……」
「まさか援軍が……!」
飯川の隣で海老原が立ち上がった気配がした。
岱胡は、と言うと、構えて覗き込んだスコープがマドルを捉えていた。
見えるはずなどないのに、淡く青い瞳が不敵な笑みを浮かべて岱胡をしっかりと見つめている。
視線を外すことなく、隣に立った赤髪のババアの耳もとになにかを呟き、赤髪のババアはこちらを見上げ、ニヤリと笑った。
(まずい……こっちに来る……!)
増えた船を確認しなければ。
それからみんなの避難を、そう思うのにマドルから視線が外せない。
二人の周辺にいた庸儀の兵が多数、慌ただしく動き始めた。
「全員退避だ! やつらここに狙いをつけて向かってくる! すぐに移動するぞ!」
森本に向かって叫んだ。
――誰の返事もない。
銃声さえも聞こえない。
「なにしてんの! 早く退避の準備と援護を……」
数発を向かってくる敵兵に撃ち込んでから、隊員たちを振り返った。
腰を下ろしたままのもの、立ち上がりかけた格好のもの、隣にいる森本さえも、ピクリとも動かない。
訓練生が一人だけ青ざめた表情でこちらに駆け寄ってきて、敵兵に向かって撃ち始めた。
なにがなんだかわからず、再度マドルを探した。
まだこちらを見つめたままでフッと口もとを緩めると、手にしたロッドを挑発的に揺らした。
その唇がゆっくりと動く。
「あの野郎……!」
思わず舌打ちをして引き金を何度も引いた。
マドルは空いた手に手綱を掴み、どこからか現れた馬にまたがると敵兵のあいだをぬって走り、堤防の向こう側へと姿を消してしまった。
赤髪のババアも姿が見えなくなっている。
かすかな呻き声にハッと我に返った。
動かなくなった隊員たちの呼吸が明らかにおかしい。
飯川が言ったとおり庸儀の戦艦の後ろには新たな敵艦が並んでいた。
岱胡たちのいる丘に数百の敵兵が向かってくる。
隊員たちを置いていくわけにはいかない。
かと言って目の前に広がる軍勢が相手では弾も足りなければ手も足りない。
なにしろ動いているのは岱胡と訓練生の二人だけだ。
どうにもならないジレンマに押し潰されて気が遠くなりそうだ。
弾が底を尽きかけている。
とうとう敵兵の先頭が丘の上へと駆け登ってきた。
訓練生の首根っこを掴んで引き寄せて後ろに庇い、隊員たちの前に立って確実に敵兵の足を撃ち抜いて倒した。
それでも次々に上がってくるのを捌ききれずに振り上げられた剣を避けようと、咄嗟に目を閉じ、ライフルを盾代わりに掲げた。
大きな金属音が耳の奥まで響いた。
ライフルを構えて海岸に視線を落とした。
今、岱胡が思い、感じていることを誰かに伝えたかった。
言葉にハッキリ出すことでそれが更に現実に近づく気がしたからだ。
「笑うわけがないでしょう? 詰所でも似たようなことを言ってましたよね? 岱胡隊長がそう思うなら、本当に大丈夫なんですよ」
隣で弾を込めて同じように構え、海岸に銃口を向けた森本は、本当に笑わずにそう言った。
一番近い拠点に移動した鶴居たちはどうしているだろう?
徳丸と巧の隊員や元蓮華たちも、居住区のほうは大丈夫だろうか?
ここで数を減らせば先に行くほど楽にはなるけれど、手持ちの弾もずいぶんと減った。そう長くは止まっていられない。
麻酔弾を詰めたライフルを背負い直し、今度は停泊している船を見回した。
聞こえるのは波音だけで、朝焼けでオレンジ色に変わり始めた空の色が、周りの景色をくっきりと浮き立たせている。
「動いた!」
誰かが声を潜めてそう呟いたと同時に、また船から敵兵が溢れ出てきた。
今まで聞いていた波の音とは明らかに違う地鳴りのような音が響く。
「落ち着いて。今までと同じに堤防に近づくやつらから狙うんだ! 弾が切れたやつから順に二つ先の拠点に移動を始めて!」
返事とともに銃撃が一斉に響く。
岱胡も撃とうと構えたとき、飯川の焦りを含んだ声が聞こえた。
「岱胡隊長……! 船が増えてます! 庸儀の戦艦の後ろから相当な数が……」
「まさか援軍が……!」
飯川の隣で海老原が立ち上がった気配がした。
岱胡は、と言うと、構えて覗き込んだスコープがマドルを捉えていた。
見えるはずなどないのに、淡く青い瞳が不敵な笑みを浮かべて岱胡をしっかりと見つめている。
視線を外すことなく、隣に立った赤髪のババアの耳もとになにかを呟き、赤髪のババアはこちらを見上げ、ニヤリと笑った。
(まずい……こっちに来る……!)
増えた船を確認しなければ。
それからみんなの避難を、そう思うのにマドルから視線が外せない。
二人の周辺にいた庸儀の兵が多数、慌ただしく動き始めた。
「全員退避だ! やつらここに狙いをつけて向かってくる! すぐに移動するぞ!」
森本に向かって叫んだ。
――誰の返事もない。
銃声さえも聞こえない。
「なにしてんの! 早く退避の準備と援護を……」
数発を向かってくる敵兵に撃ち込んでから、隊員たちを振り返った。
腰を下ろしたままのもの、立ち上がりかけた格好のもの、隣にいる森本さえも、ピクリとも動かない。
訓練生が一人だけ青ざめた表情でこちらに駆け寄ってきて、敵兵に向かって撃ち始めた。
なにがなんだかわからず、再度マドルを探した。
まだこちらを見つめたままでフッと口もとを緩めると、手にしたロッドを挑発的に揺らした。
その唇がゆっくりと動く。
「あの野郎……!」
思わず舌打ちをして引き金を何度も引いた。
マドルは空いた手に手綱を掴み、どこからか現れた馬にまたがると敵兵のあいだをぬって走り、堤防の向こう側へと姿を消してしまった。
赤髪のババアも姿が見えなくなっている。
かすかな呻き声にハッと我に返った。
動かなくなった隊員たちの呼吸が明らかにおかしい。
飯川が言ったとおり庸儀の戦艦の後ろには新たな敵艦が並んでいた。
岱胡たちのいる丘に数百の敵兵が向かってくる。
隊員たちを置いていくわけにはいかない。
かと言って目の前に広がる軍勢が相手では弾も足りなければ手も足りない。
なにしろ動いているのは岱胡と訓練生の二人だけだ。
どうにもならないジレンマに押し潰されて気が遠くなりそうだ。
弾が底を尽きかけている。
とうとう敵兵の先頭が丘の上へと駆け登ってきた。
訓練生の首根っこを掴んで引き寄せて後ろに庇い、隊員たちの前に立って確実に敵兵の足を撃ち抜いて倒した。
それでも次々に上がってくるのを捌ききれずに振り上げられた剣を避けようと、咄嗟に目を閉じ、ライフルを盾代わりに掲げた。
大きな金属音が耳の奥まで響いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる