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動きだす刻
第27話 乱調 ~マドル 9~
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「どうかされましたか?」
「こんな時間に一体、なんだっていうんだい?」
ジェは不機嫌さを隠さず雑兵たちを睨んでいる。
「つい先ほど、ヘイトからの物資が届いたようです。積み込みと乗船を始めたようですね」
「出航は朝なんだろう? まだ夜も明けていないじゃないか」
「丸一日遅れが出ていますから、彼らも持てあましているのでしょう。もしくは貴女に手間をかけさせないためでは?」
これ以上、なにかをされるわけには行かない。
誰しもの目がジェに向いていることを強調すると、当然だという表情を見せる。
絡み取られた腕を振り解きたい衝動を必死に抑え、船に目を向けた。
手はず通りに雑兵たちは乗船を済ませたようだ。
他の兵も彼らに釣られて乗船を始めている。
このぶんなら、出航が早まるかもしれない。
「私もこのまま乗船しようと思うのですが、貴女はどうされますか?」
「あんたと私は同じ船だ。あんたがもう乗船すると言うなら私もそうするわ」
「そうですか。では急ぎ準備をお願いします。私はその辺りで待っていましょう」
ジェが、きびすを返して城へ戻っていくのを見送ってから、人けのないあたりへ足を運んだ。
それを待っていたのか、二羽の鳥が横の木へ止まった。
一羽はヘイトからの出航の知らせ、もう一羽はロマジェリカからで間もなく泉翔近海の島に到着するというものだった。
こちらも時期に出航できる旨を告げ、慎重に待つように指示を出した。
「ところで……今度の遅れについて、あのかたはなにか仰っていましたか?」
つい気になって問いかけた。
「いえ、特には……様子もなんら変わるところはありませんし……ただ『大変なんだろうことはわかる』そう言って笑っておりました」
「……笑った?」
ジェに手を焼いているとわかってのことだろうか?
それともジェを優先させてのことだと思っているのだろうか?
どちらにしろ、不興を買ったわけでないのはわかった。
気に入らなければ笑うことはないだろうし、不機嫌さを隠しもしないだろう。
「特になにもなければいいでしょう。引き続き様子を見て、なにかあったときには逐一、報告をお願いします。それから先ほどこちらからも式神を送ってあります。この先は密に連絡を取り合うということで……」
「わかりました」
水平線の色が薄らと変わり始めた。
船の辺りでジェの呼ぶ声が響いている。
仕方なくそちらへ向かうと、もうほとんどの兵が乗船を済ませ、あとは上将とマドルたちだけになっていた。
いよいよなにもかもが動きだす――。
逸る思いを抑えながらタラップを踏み、ジェのあとから船に乗り込んだ。
船内は思った以上に広く、いくつかある個室の二つをマドルと側近に割り当てられたときはホッとした。
こんな狭い中で、もしもジェと一緒に押し込められたらたまったものではない。
荷物を置き、側近には休むよう言いつけるとデッキに向かった。
空はさっきよりも更に明るさを増し、水平線に沿ってオレンジ色の筋ができている。
雲一つない空が幸先の良さを暗示しているようで、手摺を掴む手にも自然と力がこもる。
ジェがマドルの前に姿を見せてから燻り、なかなか進まずにいた状況が一気に進展した。
そのときから考えれば、なにもかもが長かったようで短かった。
(けれど……やはり長かった。ここまでの道程は本当に長かった……)
港中に出航を知らせるドラが鳴り響く。
所狭しと並んでいた船が少しずつ動きだし、マドルの乗った船に道を開けるように扇状に海に広がる。
徐々にスピードを増して進む中、追い越す船からマドルに視線が向いていることに気づいた。
見ればどの顔も泉翔で中央へ向かわせる兵たちだ。
中にコウたちの姿も見え、小さくうなずいてみせた。
この場所からでは表情まで確認はできないが、恐らくいつものように、不敵な笑みを浮かべていることだろう。
遠ざかる大陸を一度だけ振り返ってから、船首へ向かった。
目前に広がるのは水平線と明け始めた空だけだ。
振り返る必要などなにもない。
次に大陸へ来るときには、今あるものは失われている。
それが多ければ多いほど、マドルにとってはありがたい。
(精々ジャセンベルには頑張っていただかなければ……)
「こんな時間に一体、なんだっていうんだい?」
ジェは不機嫌さを隠さず雑兵たちを睨んでいる。
「つい先ほど、ヘイトからの物資が届いたようです。積み込みと乗船を始めたようですね」
「出航は朝なんだろう? まだ夜も明けていないじゃないか」
「丸一日遅れが出ていますから、彼らも持てあましているのでしょう。もしくは貴女に手間をかけさせないためでは?」
これ以上、なにかをされるわけには行かない。
誰しもの目がジェに向いていることを強調すると、当然だという表情を見せる。
絡み取られた腕を振り解きたい衝動を必死に抑え、船に目を向けた。
手はず通りに雑兵たちは乗船を済ませたようだ。
他の兵も彼らに釣られて乗船を始めている。
このぶんなら、出航が早まるかもしれない。
「私もこのまま乗船しようと思うのですが、貴女はどうされますか?」
「あんたと私は同じ船だ。あんたがもう乗船すると言うなら私もそうするわ」
「そうですか。では急ぎ準備をお願いします。私はその辺りで待っていましょう」
ジェが、きびすを返して城へ戻っていくのを見送ってから、人けのないあたりへ足を運んだ。
それを待っていたのか、二羽の鳥が横の木へ止まった。
一羽はヘイトからの出航の知らせ、もう一羽はロマジェリカからで間もなく泉翔近海の島に到着するというものだった。
こちらも時期に出航できる旨を告げ、慎重に待つように指示を出した。
「ところで……今度の遅れについて、あのかたはなにか仰っていましたか?」
つい気になって問いかけた。
「いえ、特には……様子もなんら変わるところはありませんし……ただ『大変なんだろうことはわかる』そう言って笑っておりました」
「……笑った?」
ジェに手を焼いているとわかってのことだろうか?
それともジェを優先させてのことだと思っているのだろうか?
どちらにしろ、不興を買ったわけでないのはわかった。
気に入らなければ笑うことはないだろうし、不機嫌さを隠しもしないだろう。
「特になにもなければいいでしょう。引き続き様子を見て、なにかあったときには逐一、報告をお願いします。それから先ほどこちらからも式神を送ってあります。この先は密に連絡を取り合うということで……」
「わかりました」
水平線の色が薄らと変わり始めた。
船の辺りでジェの呼ぶ声が響いている。
仕方なくそちらへ向かうと、もうほとんどの兵が乗船を済ませ、あとは上将とマドルたちだけになっていた。
いよいよなにもかもが動きだす――。
逸る思いを抑えながらタラップを踏み、ジェのあとから船に乗り込んだ。
船内は思った以上に広く、いくつかある個室の二つをマドルと側近に割り当てられたときはホッとした。
こんな狭い中で、もしもジェと一緒に押し込められたらたまったものではない。
荷物を置き、側近には休むよう言いつけるとデッキに向かった。
空はさっきよりも更に明るさを増し、水平線に沿ってオレンジ色の筋ができている。
雲一つない空が幸先の良さを暗示しているようで、手摺を掴む手にも自然と力がこもる。
ジェがマドルの前に姿を見せてから燻り、なかなか進まずにいた状況が一気に進展した。
そのときから考えれば、なにもかもが長かったようで短かった。
(けれど……やはり長かった。ここまでの道程は本当に長かった……)
港中に出航を知らせるドラが鳴り響く。
所狭しと並んでいた船が少しずつ動きだし、マドルの乗った船に道を開けるように扇状に海に広がる。
徐々にスピードを増して進む中、追い越す船からマドルに視線が向いていることに気づいた。
見ればどの顔も泉翔で中央へ向かわせる兵たちだ。
中にコウたちの姿も見え、小さくうなずいてみせた。
この場所からでは表情まで確認はできないが、恐らくいつものように、不敵な笑みを浮かべていることだろう。
遠ざかる大陸を一度だけ振り返ってから、船首へ向かった。
目前に広がるのは水平線と明け始めた空だけだ。
振り返る必要などなにもない。
次に大陸へ来るときには、今あるものは失われている。
それが多ければ多いほど、マドルにとってはありがたい。
(精々ジャセンベルには頑張っていただかなければ……)
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