423 / 780
動きだす刻
第12話 再会 ~多香子 2~
しおりを挟む
二人のあいだに割って入れるとは思ってもいなかったし、そんな真似をする気ももちろんなかった。
いつのころからか二人の関係が変わり、多香子のそばに修治がいることが多くなった。
麻乃と修治のあいだにある感情が恋人同士のそれではないと知ってから、自分の中で抑えていた修治への感情が加速した。
(麻乃ちゃんはどう思っていたんだろう?)
常にそれが気がかりだった。
表面上は祝福してくれているように見えたけれど、ずっと一人のままでいる麻乃を見ると、不安と罪悪感が過ぎることもしばしばだ。
子どもができたと知られてしまったとき、思いきって聞いてみると、本当に喜んでくれているのがわかったし、麻乃に思い人がいるのも知った。
(戻ったらさ、もっとちゃんと話しを聞いてもらってもいいかな? 相談に乗ってくれると嬉しいんだけど……)
真っ赤になって照れた顔を見せた麻乃はそう言った。
そう言われて初めて、そんな話しをしたことがこれまでなかったと気づいた。
いつからそんな思いを抱いていたのかさえ、まったく知らなかった。
相手は恐らく鴇汰だろう。
とすれば、自分が相談に乗るまでもなくうまくいくはずだ。
それでも頼ってもらえるのを嬉しいと思うし、これからもっと沢山の話しを聞いてあげたいとも思う。
(早く無事に戻ってくるといいんだけれど……)
アルバムを閉じてそれもかばんに詰め、書棚の中から古くてもう手に入れることが難しそうな本を選んで、別な袋に丁寧にしまう。
次に麻乃の部屋へ行き、ここでも数冊の本と正装用の衣類、最近よく着込んでいる青い上着を出して袋詰めをした。
「他に大事にしているようなものはあったかしら……?」
部屋を見渡してみてもなにを持ち出したらいいのか、やっぱりピンと来ない。
ふと麻乃の刀が視界に入った。
一刀は、麻乃がいつも持っていた刀で、もう一刀は修治の持っているものと対になっている麻乃の母親の形見だ。
「そう言えばこれ……」
手を伸ばしかけて、周辺に人の気配を感じた。
ハッとして時計を見ると、もう八時近くになっている。
灯りを点けていたせいで、外がすっかり暗くなっていると、まったく気づかないでいた。
もしかすると多香子を探している誰かが来たのだろうか?
早いうちに避難することを勧められていたのを断ってまで、こうしてここに来たのに、これ以上遅くなるわけにはいかない。
あわてて荷物を抱え、灯りを消して外に出た。
思いのほか荷物が重くて、玄関を出て数メートルの辺りで荷物を置いて周囲を確かめた。
「誰? 塚本さん? 市原さん?」
暗がりの中に人影を見つけ、声をかける。
「ごめんなさい。早く戻るつもりだったんだけど……荷物も増えちゃって。手を借りられるかしら?」
数歩前に出たところで、なにかおかしいと感じた。
けれどそう感じたときはもう遅く、暗がりにいた人影がサッと動き、抵抗する間もなく腕を取られた。
一見、泉翔人と変わらない風貌なのに、着ている服が違う。
緑色の軍服だ――。
すぐに庸儀の兵士だとわった。
一人じゃない。
二人……いや、全部で四人もいる。
驚きのあまり声も出なかった。
「人けがなくて面白くなかったところに、タイミング良く現れてくれたものだな」
「あぁ、おまけに女だ」
「他に人の気配はないな?」
多香子は武器になるようなものを持っていない。
仮に持っていたとしても四人の男を相手に多香子が立ち回れる自信もない。
それになにより、お腹の子になにかあったらと思うと怖くてたまらない。
取られた腕を振り解こうとしても力負けしてどうにもならず、恐怖で男たちの言葉さえ聞き取れなくなった。
強い力で頬をたたかれ、軽い目眩を感じたところを突き飛ばされて地面に倒れ伏した。
暗闇の中で枯れ草と土の臭いを感じる。
「痛い思いをしたくなかったら大人しくしていろ!」
人を呼ぼうにも、この辺りはもう避難済みで誰もいない。
今、立ち上がって逃げようとしてもすぐに捕まってしまうだろう。
どうすることもできずに目を閉じた。
中の一人に両手を掴まれ、もう駄目だと諦めた瞬間、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「――そんなところでなにをしている?」
覆い被さるように腰を下ろした男の間から、声のするほうへ視線を向けた。
暗くて姿ははっきり見えないけれど、声の主がこちらへ近づいてくるのがわかった。
男たちはその人影を振り返り、嘲笑うかのような表情を浮かべた。
「なんだってあんたたちがここにいるんだ?」
「おまえに言われる筋合いはないな。こっちはいいところなんだ。邪魔をするな」
いつのころからか二人の関係が変わり、多香子のそばに修治がいることが多くなった。
麻乃と修治のあいだにある感情が恋人同士のそれではないと知ってから、自分の中で抑えていた修治への感情が加速した。
(麻乃ちゃんはどう思っていたんだろう?)
常にそれが気がかりだった。
表面上は祝福してくれているように見えたけれど、ずっと一人のままでいる麻乃を見ると、不安と罪悪感が過ぎることもしばしばだ。
子どもができたと知られてしまったとき、思いきって聞いてみると、本当に喜んでくれているのがわかったし、麻乃に思い人がいるのも知った。
(戻ったらさ、もっとちゃんと話しを聞いてもらってもいいかな? 相談に乗ってくれると嬉しいんだけど……)
真っ赤になって照れた顔を見せた麻乃はそう言った。
そう言われて初めて、そんな話しをしたことがこれまでなかったと気づいた。
いつからそんな思いを抱いていたのかさえ、まったく知らなかった。
相手は恐らく鴇汰だろう。
とすれば、自分が相談に乗るまでもなくうまくいくはずだ。
それでも頼ってもらえるのを嬉しいと思うし、これからもっと沢山の話しを聞いてあげたいとも思う。
(早く無事に戻ってくるといいんだけれど……)
アルバムを閉じてそれもかばんに詰め、書棚の中から古くてもう手に入れることが難しそうな本を選んで、別な袋に丁寧にしまう。
次に麻乃の部屋へ行き、ここでも数冊の本と正装用の衣類、最近よく着込んでいる青い上着を出して袋詰めをした。
「他に大事にしているようなものはあったかしら……?」
部屋を見渡してみてもなにを持ち出したらいいのか、やっぱりピンと来ない。
ふと麻乃の刀が視界に入った。
一刀は、麻乃がいつも持っていた刀で、もう一刀は修治の持っているものと対になっている麻乃の母親の形見だ。
「そう言えばこれ……」
手を伸ばしかけて、周辺に人の気配を感じた。
ハッとして時計を見ると、もう八時近くになっている。
灯りを点けていたせいで、外がすっかり暗くなっていると、まったく気づかないでいた。
もしかすると多香子を探している誰かが来たのだろうか?
早いうちに避難することを勧められていたのを断ってまで、こうしてここに来たのに、これ以上遅くなるわけにはいかない。
あわてて荷物を抱え、灯りを消して外に出た。
思いのほか荷物が重くて、玄関を出て数メートルの辺りで荷物を置いて周囲を確かめた。
「誰? 塚本さん? 市原さん?」
暗がりの中に人影を見つけ、声をかける。
「ごめんなさい。早く戻るつもりだったんだけど……荷物も増えちゃって。手を借りられるかしら?」
数歩前に出たところで、なにかおかしいと感じた。
けれどそう感じたときはもう遅く、暗がりにいた人影がサッと動き、抵抗する間もなく腕を取られた。
一見、泉翔人と変わらない風貌なのに、着ている服が違う。
緑色の軍服だ――。
すぐに庸儀の兵士だとわった。
一人じゃない。
二人……いや、全部で四人もいる。
驚きのあまり声も出なかった。
「人けがなくて面白くなかったところに、タイミング良く現れてくれたものだな」
「あぁ、おまけに女だ」
「他に人の気配はないな?」
多香子は武器になるようなものを持っていない。
仮に持っていたとしても四人の男を相手に多香子が立ち回れる自信もない。
それになにより、お腹の子になにかあったらと思うと怖くてたまらない。
取られた腕を振り解こうとしても力負けしてどうにもならず、恐怖で男たちの言葉さえ聞き取れなくなった。
強い力で頬をたたかれ、軽い目眩を感じたところを突き飛ばされて地面に倒れ伏した。
暗闇の中で枯れ草と土の臭いを感じる。
「痛い思いをしたくなかったら大人しくしていろ!」
人を呼ぼうにも、この辺りはもう避難済みで誰もいない。
今、立ち上がって逃げようとしてもすぐに捕まってしまうだろう。
どうすることもできずに目を閉じた。
中の一人に両手を掴まれ、もう駄目だと諦めた瞬間、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「――そんなところでなにをしている?」
覆い被さるように腰を下ろした男の間から、声のするほうへ視線を向けた。
暗くて姿ははっきり見えないけれど、声の主がこちらへ近づいてくるのがわかった。
男たちはその人影を振り返り、嘲笑うかのような表情を浮かべた。
「なんだってあんたたちがここにいるんだ?」
「おまえに言われる筋合いはないな。こっちはいいところなんだ。邪魔をするな」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる