蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
409 / 780
待ち受けるもの

第186話 迫り来る時 ~岱胡 2~

しおりを挟む
 考えるだけで頭が痛むようだ。
 離れた場所にいても、狙いをつけた途端にきっとバレるだろう。
 スピードも上がっているはずだから、うっかりすれば自分の身が危ない。

 岱胡でさえそう思うのに、ほかの隊員たちではもっと危険度が増す。
 テーブルに両肘を付いて溜息をつくと、茂木が上目遣いで探るように視線を向け、額を寄せてきた。

「もしかして、なにか企んでたりします?」

「ん? いや、企んでるっていうんじゃなくてさ、実は……」

 二人に修治が予想している麻乃の西浜上陸の件を話してみた。
 修治のいうことは最もで、聞かされたときに、岱胡もまったくそのとおりだろうと考えたからだ。

 そうは思っても、実際は違うかもしれない。
 この南浜に麻乃が上陸してくる可能性も十分にある。
 けれどなにも知らせずなんの気構えもないまま、茂木の班を西浜に詰めさせるのはまずいと思った。

「俺のところですか……」

 わずかに茂木の表情が曇った。

「八割がた、そうなるだろうなって思う。とは言え大陸にだって武器は十分にあるはずだし、北でも南でもおかしくはないんだけどさ」

「弱りましたね……まぁ、なんの情報もないままでいきなり遭遇するよりは、全然いいですけどね」

「うん、それに向こうでは修治さんのところや七番のやつらのほかにも、このときのための対処法が決められてるって言うから、十分に情報をやり取りして協力していってよ」

「そうですか……七番だと杉山とは比較的親しくしてるので、そこから当たってみることにします」

 立ち上がりかけた茂木の前にかばんを置いて広げ、中から銃弾の入った小箱を二箱、取り出して蓋を開けた。
 中には大きめの弾が六発入っている。

「これ……本来は使うことがないだろ? 当たれば当然怪我はするし、当たりどころによっては凄く危ないし……だからおまえに一箱、俺と福島で半分ずつ」

 一箱を茂木の前に置き、開けたほうから岱胡は三発取り、残りを福島に渡した。

「……麻酔弾、ですか」

「そう。麻乃さんに限っては、こっちのほうが使えるはずだから。うまくすれば被害を出す前に動きを止められる」

「だけど危険がないわけじゃ……」

「だから……だからおまえたち二人だけに渡すんだよ。これだけは別口で使えるように、常に身近に置いておいて。二人の腕前なら、ちゃんと狙えば間違いは起こらないって思ってるから」

 躊躇している二人の手に、無理やりに箱を握らせた。

「迷ってる場合じゃない。俺たちにしかできないこともある。二人とも昨日の打ち合わせ出てるんだからわかるだろ? ほかの敵兵を倒すのが優先だけど、万が一にも麻乃さんを目にした場合は迷わずこっちを撃って。できるだけこっちとあの人を対峙させないようにしたいんだよ」
  
 フッと小さな溜息をついて二人は箱をかばんにしまった。
 本当は、岱胡自身がやれればいいことなのに、きっとそうなったときに撃つのは茂木だ。
 重荷を背負わせるようで嫌だったけれど、ここまで来てしまってはどうしようもない。

「じゃあ、俺たちももう行きます。こっちのこと、手は出せなくなりますけどよろしく頼みます」

「中央で必ず合流しましょう、西も北も、誰一人欠けることなくたどり着きますから」

「うん、そっちも大変だろうけど、しっかりまとめ役、頼むよ」

 二人が出ていくのを玄関まで見送った。
 外にはもう車の準備がされ、次々に隊員が荷物を運び込んでいる。
 その向こうに、大型の車がまとめて入ってきた。

 降りてきたのは元蓮華が四人、巧の隊員を引き連れている。
 徳丸の隊員は既に南詰所で防衛の準備と、演習場のチェックに出ていた。
 これだけの人数が揃うと、さすがに壮観だ。
 否応無く緊張感が湧いてくる。

「なにを気圧されているんですか。こっちを任されているのは岱胡隊長なんですから。しっかりしてくださいよ」

 岱胡の考えていることが全部漏れ出して伝わっているかのようで、茂木はそう言うと背中を思い切りたたいて笑った。

「わかってるよ~。今回は徳丸さんも巧さんもいないぶん、元蓮華の人たちと一緒に今まで以上にちゃんとするって」

「それじゃあ、また、中央で」

「あぁ。中央で」

 幌付きのトラックにそれぞれが乗り込むと、すぐに車が走り出した。
 中から隊員たちが手を振るのが見える。
 同じように振り返し、門を出て車が見えなくなるまで見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...