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待ち受けるもの
第184話 迫り来る時 ~鴇汰 3~
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思うとおりに動けるかどうかもわからない。
そう言おうとした瞬間、車に乗っているはずなのに地震かと思うような揺れを感じ、全身の毛が逆立つような感覚とパリッとした空気に身を包まれたような気がした。
ほかの三人も同じだったのか、大野が急ブレーキを踏んで車を停めると全員が外に飛び出した。
橋本は両手で太股をしきりに擦り、大野と古市はうなじを両手で包むように押さえている。
鴇汰も鳥肌が立っている気がして袖をまくり、両腕を確認してみた。
「……地震ではないみたいですね?」
「だけど今のは窪みにハマったとかなにかを踏んだとか、そんな揺れとは違ったよな?」
「ああ。それにこの感覚……いきなり空気が変わったみたいだ」
三人の会話に、今朝サツキが早急に結界を張り直すと言っていたことを思い出した。
恐らくたった今、それが成されたところなんだろう。
思う以上に早かった。
術をかけられて動けなくなる瞬間の感覚と、少しだけ似ている気がする。
大野を促して車に戻り、また周辺の様子を目に焼き付けながら北詰所に向かった。
詰所でも鴇汰と同様の感覚を受けた隊員が多くいて、地震が来るのかもしれないと言って気遣いながら作業を進めていた。
忙しない中での出来事だったため、全員を集めてまずは揺れや体に受けた感覚にはなんの問題もないと説明した。
明確な理由がわかると、全員が納得した様子で持ち場に戻っていった。
「そうだ、相原は?」
中の一人を呼び止めて聞いてみると、四、五人を引き連れて演習場のチェックに出ていると言う。
「そっか。まだ帰ってないならいいんだ。戻ったのを見かけたら、談話室で待ってるように伝えといてくれ」
そう頼んで、荷物を宿舎に運び込んだ。
荷ほどきをしてから地図を手に、橋本を連れて海岸に出てみた。
振り返って島に向き直ると、一番目につくのはやっぱり中央へ続く道だ。
「思ったとおり最初に目に入るのは、あの道でしたね」
「そうだな。やつらは島の内部を知らないから、ここから進軍しようと考えるのは間違いない」
「隊列から反れたやつらが浜の端から入り込んだりしないように、岩場の辺りと堤防の脇も固めておいたほうがいいでしょうね」
「ああ。取りこぼしがないように入り江の崖の上と岩場の陰には、銃や弓のやつらを配置したいな」
橋本は堤防沿いをチェックしながら端まで歩き、高さや隙間の様子を見ている。
不意にこちらを向いてなにかを叫んだ。
「なに? 聞こえねーよ!」
波の音が大きくて聞き取れず、橋本のところまで走った。
「どうしたのよ?」
「ここんところですけど、岩かなにかで補強したほうがいいですよね」
見れば堤防が崩れかけていて、よじ登れば簡単に森の奥へと入り込めそうだ。
どっちに進むかによっては居住区が危ない。
「うん、これはかなりヤベーな……戻ったらすぐに修繕を頼もう。ほかにもヤバそうなトコあるか?」
「いや、ここ以外は大きな問題になりそうなところはないようですね。でも……やっぱりこの森の奥にも何人か詰めたほうがいいと思います」
「参ったな……思った以上に人手がかかりそうだ」
「この堤防沿いでルートを外れた敵兵をつぶしたら、すぐに移動して一番離れたポイントに加われば、なんとか回りますよ」
「最初にルートで襲撃したやつらも、根こそぎ倒したら怪我人以外は速やかに移動させるようか……」
堤防のチェックを済ませ、今度は宿舎までの道のりを歩きながら調べることにした。
どう見ても危なそうな脇道やけもの道を地図に書き込んでいった。
「こうやってみると、意外と侵入しやすいところがありますね」
「まぁ、長い間ずっと侵入されることなんてなかったもんな。敵襲があるって視点から見なけりゃあわかんねーコトばっかだよ」
「中央までにどれだけたたけるか、それも重要ですしね。北が一番敵兵を通してる、なんて言われたくないですから」
橋本と同じことを考えていた。
修治の西浜は恐らく全滅させてくるだろう。
岱胡の南浜も元蓮華が多めに詰めるうえに徳丸と巧の隊員たちがいる。
岱胡自身もその腕前でかなりの敵兵を倒すだろう。
鴇汰だけが失態を晒すようなことがあってはならない。
「全部とは言わねーけど、これまでの割り当て以上の数を各自が倒さねーとな。相原が戻り次第、細かいことを決めちまって全員で一度、ルートをたどろう」
地図を丸めて橋本に渡すと走って宿舎まで戻り、元蓮華を通して加賀野に修繕の依頼を出した。
残り時間は少ないけれど、今、できることは一つでも多くクリアしていこう、そう思った。
そう言おうとした瞬間、車に乗っているはずなのに地震かと思うような揺れを感じ、全身の毛が逆立つような感覚とパリッとした空気に身を包まれたような気がした。
ほかの三人も同じだったのか、大野が急ブレーキを踏んで車を停めると全員が外に飛び出した。
橋本は両手で太股をしきりに擦り、大野と古市はうなじを両手で包むように押さえている。
鴇汰も鳥肌が立っている気がして袖をまくり、両腕を確認してみた。
「……地震ではないみたいですね?」
「だけど今のは窪みにハマったとかなにかを踏んだとか、そんな揺れとは違ったよな?」
「ああ。それにこの感覚……いきなり空気が変わったみたいだ」
三人の会話に、今朝サツキが早急に結界を張り直すと言っていたことを思い出した。
恐らくたった今、それが成されたところなんだろう。
思う以上に早かった。
術をかけられて動けなくなる瞬間の感覚と、少しだけ似ている気がする。
大野を促して車に戻り、また周辺の様子を目に焼き付けながら北詰所に向かった。
詰所でも鴇汰と同様の感覚を受けた隊員が多くいて、地震が来るのかもしれないと言って気遣いながら作業を進めていた。
忙しない中での出来事だったため、全員を集めてまずは揺れや体に受けた感覚にはなんの問題もないと説明した。
明確な理由がわかると、全員が納得した様子で持ち場に戻っていった。
「そうだ、相原は?」
中の一人を呼び止めて聞いてみると、四、五人を引き連れて演習場のチェックに出ていると言う。
「そっか。まだ帰ってないならいいんだ。戻ったのを見かけたら、談話室で待ってるように伝えといてくれ」
そう頼んで、荷物を宿舎に運び込んだ。
荷ほどきをしてから地図を手に、橋本を連れて海岸に出てみた。
振り返って島に向き直ると、一番目につくのはやっぱり中央へ続く道だ。
「思ったとおり最初に目に入るのは、あの道でしたね」
「そうだな。やつらは島の内部を知らないから、ここから進軍しようと考えるのは間違いない」
「隊列から反れたやつらが浜の端から入り込んだりしないように、岩場の辺りと堤防の脇も固めておいたほうがいいでしょうね」
「ああ。取りこぼしがないように入り江の崖の上と岩場の陰には、銃や弓のやつらを配置したいな」
橋本は堤防沿いをチェックしながら端まで歩き、高さや隙間の様子を見ている。
不意にこちらを向いてなにかを叫んだ。
「なに? 聞こえねーよ!」
波の音が大きくて聞き取れず、橋本のところまで走った。
「どうしたのよ?」
「ここんところですけど、岩かなにかで補強したほうがいいですよね」
見れば堤防が崩れかけていて、よじ登れば簡単に森の奥へと入り込めそうだ。
どっちに進むかによっては居住区が危ない。
「うん、これはかなりヤベーな……戻ったらすぐに修繕を頼もう。ほかにもヤバそうなトコあるか?」
「いや、ここ以外は大きな問題になりそうなところはないようですね。でも……やっぱりこの森の奥にも何人か詰めたほうがいいと思います」
「参ったな……思った以上に人手がかかりそうだ」
「この堤防沿いでルートを外れた敵兵をつぶしたら、すぐに移動して一番離れたポイントに加われば、なんとか回りますよ」
「最初にルートで襲撃したやつらも、根こそぎ倒したら怪我人以外は速やかに移動させるようか……」
堤防のチェックを済ませ、今度は宿舎までの道のりを歩きながら調べることにした。
どう見ても危なそうな脇道やけもの道を地図に書き込んでいった。
「こうやってみると、意外と侵入しやすいところがありますね」
「まぁ、長い間ずっと侵入されることなんてなかったもんな。敵襲があるって視点から見なけりゃあわかんねーコトばっかだよ」
「中央までにどれだけたたけるか、それも重要ですしね。北が一番敵兵を通してる、なんて言われたくないですから」
橋本と同じことを考えていた。
修治の西浜は恐らく全滅させてくるだろう。
岱胡の南浜も元蓮華が多めに詰めるうえに徳丸と巧の隊員たちがいる。
岱胡自身もその腕前でかなりの敵兵を倒すだろう。
鴇汰だけが失態を晒すようなことがあってはならない。
「全部とは言わねーけど、これまでの割り当て以上の数を各自が倒さねーとな。相原が戻り次第、細かいことを決めちまって全員で一度、ルートをたどろう」
地図を丸めて橋本に渡すと走って宿舎まで戻り、元蓮華を通して加賀野に修繕の依頼を出した。
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