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待ち受けるもの
第133話 合流 ~レイファー 4~
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「きさまたち士官クラスと一般の兵では、形が異なるのも知っている。俺の見たのは華のほうだ」
「……それ、見間違いじゃないッスか? 俺たち、もう何年も一緒にいますけど、あの人の左腕にそんな痣なんか見たことがないッスよ?」
「――ないだと?」
見間違えているとは思えない。
自分だけが見たなら、その可能性もあるかもしれないが、あのときはピーターもケインもいた。
最初に痣に気づいたのもピーターだ。
長田を指差し、安部に向かってそう訴えた。
「見間違えるはずがない、こっちは長田のおかげで、幾度となく目にしているんだからな」
「確かにあんたのいうとおり、俺たちはそれぞれに華の形の痣を持っている……」
目を逸らしていたら気づかなかっただろう。
安部の視線がほんの一瞬だけ長田に向いた。
「けれど、ありえないんだよ。あいつ……麻乃の印は背中……腰に近いこの辺りにある。それに色も赤だ」
安部はそう言って手を後ろに回し、腰の辺りを指差してみせた。
「一つしかないとは限らないだろう? 色にしたって――」
「――印は一つだ! それよりあんた、なんで麻乃の印がそんな場所にあるって知ってんだよ? しかも色まで!」
長田の怒声が問いかけた言葉をさえぎる。
なにがそんなに癇に障ったのか、安部に対して妙にいきり立っている様子に唖然とした。
隣でサムがクッと含み笑いを漏らし、目の前では安部と長田のあいだに挟まった長谷川が、苦虫を噛み潰したような顔でうつむいている。
長田から視線を逸らしたまま、安部は小さなため息とともにつぶやいた。
「見たからに決まってるだろうが……」
「みっ……見ただって?」
「これまで印が消えることはあっても、場所や色が変わったなんて話しは聞いたことがない。あいつは先だってのロマジェリカ戦で腕に火傷を負った……その傷痕じゃないのか?」
カッと顔を赤くして、ますます感情を昂らせた長田を無視して、安部はそう続ける。
「ちょっと待てよ! あんたそれは――」
「昔の話しだろうが! おまえ、少しは黙っていられないのか!」
立ちあがって肩口につかみかかった長田の手を苛立った顔で払い除けて一喝した。
コツンとレイファーの肘を突いてきたサムが、口もとを手で覆い隠しながらそっと身を寄せてきた。
「人数が少なければ少ないなりに、いろいろと軋轢があるようですねぇ」
その口調で、どうやら二人の様子を面白がって見ているのがわかった。
いつでも堂々としていて決して揺るがず、常に前線で部下の兵たちをも庇うほどの闘いぶりをみせる。
熱がこもっている割りに、どこか冷静さをも持ち合わせていて、ここぞというときに思い切った判断をしてくる。
レイファーの中で、長田はずっとそんなイメージだった。
だからこそ邪魔であり忌々しいと思っていた。
今、目の前にいる相手が同じ人物とは到底思えない。
こんなにも落ち着きのない男だとは考えてもみなかった。
「長田。いちいち話しの腰を折るな。安部が痣の位置を見知っていたのがなんだと言う? 邪魔ばかりするならその辺を散歩でもしてこい」
「てめぇにそんなコトを言われる筋合いはねーんだよ!」
今度は怒りの矛先をレイファーに向けてきた。
火を飛び越えてきそうな勢いだ。
腰をおろしたままの安部が、長田の手にしていた刀を取りあげると、その手首をつかんで無理やりに座らせた。
安部の唇が動き、なにかを言った。
数秒、安部の顔をじっと見ていた長田は、憮然とした表情を崩さないまま、それでも大人しく腰をおろし、同じように小声でなにかを言い返した。
「今、泉翔は少しばかり妙なことが続いている。だから色の変化ならあるかもしれないが、どう考えても場所までも変わるとは思えない……とはいっても、あんたは顔に覚えがあると言った……印のあるなしに関わらず、それが麻乃であることに間違いはないだろう」
「ロマジェリカとの戦争のあとで、左腕に火傷の痕ができたと言いましたね?」
それまで口を挟まずにいたサムが身を乗り出して問いかけた。
「あぁ、ずいぶんと長いあいだ、あいつは左腕を気にしていた」
「その傷をちゃんと目にしたものは……?」
三人は目配せをし、それぞれが首を振った。
「俺たちは……けれど医療所の先生が手当てをしたときに見ているな」
「では、それが本当に火傷の痕だったのか、ただの痣だったのかを確認したほうがいいでしょう」
「なにか、心当たりがあるのか?」
サムは目を細め、厳しい表情のまま炎を見つめていた。
「……それ、見間違いじゃないッスか? 俺たち、もう何年も一緒にいますけど、あの人の左腕にそんな痣なんか見たことがないッスよ?」
「――ないだと?」
見間違えているとは思えない。
自分だけが見たなら、その可能性もあるかもしれないが、あのときはピーターもケインもいた。
最初に痣に気づいたのもピーターだ。
長田を指差し、安部に向かってそう訴えた。
「見間違えるはずがない、こっちは長田のおかげで、幾度となく目にしているんだからな」
「確かにあんたのいうとおり、俺たちはそれぞれに華の形の痣を持っている……」
目を逸らしていたら気づかなかっただろう。
安部の視線がほんの一瞬だけ長田に向いた。
「けれど、ありえないんだよ。あいつ……麻乃の印は背中……腰に近いこの辺りにある。それに色も赤だ」
安部はそう言って手を後ろに回し、腰の辺りを指差してみせた。
「一つしかないとは限らないだろう? 色にしたって――」
「――印は一つだ! それよりあんた、なんで麻乃の印がそんな場所にあるって知ってんだよ? しかも色まで!」
長田の怒声が問いかけた言葉をさえぎる。
なにがそんなに癇に障ったのか、安部に対して妙にいきり立っている様子に唖然とした。
隣でサムがクッと含み笑いを漏らし、目の前では安部と長田のあいだに挟まった長谷川が、苦虫を噛み潰したような顔でうつむいている。
長田から視線を逸らしたまま、安部は小さなため息とともにつぶやいた。
「見たからに決まってるだろうが……」
「みっ……見ただって?」
「これまで印が消えることはあっても、場所や色が変わったなんて話しは聞いたことがない。あいつは先だってのロマジェリカ戦で腕に火傷を負った……その傷痕じゃないのか?」
カッと顔を赤くして、ますます感情を昂らせた長田を無視して、安部はそう続ける。
「ちょっと待てよ! あんたそれは――」
「昔の話しだろうが! おまえ、少しは黙っていられないのか!」
立ちあがって肩口につかみかかった長田の手を苛立った顔で払い除けて一喝した。
コツンとレイファーの肘を突いてきたサムが、口もとを手で覆い隠しながらそっと身を寄せてきた。
「人数が少なければ少ないなりに、いろいろと軋轢があるようですねぇ」
その口調で、どうやら二人の様子を面白がって見ているのがわかった。
いつでも堂々としていて決して揺るがず、常に前線で部下の兵たちをも庇うほどの闘いぶりをみせる。
熱がこもっている割りに、どこか冷静さをも持ち合わせていて、ここぞというときに思い切った判断をしてくる。
レイファーの中で、長田はずっとそんなイメージだった。
だからこそ邪魔であり忌々しいと思っていた。
今、目の前にいる相手が同じ人物とは到底思えない。
こんなにも落ち着きのない男だとは考えてもみなかった。
「長田。いちいち話しの腰を折るな。安部が痣の位置を見知っていたのがなんだと言う? 邪魔ばかりするならその辺を散歩でもしてこい」
「てめぇにそんなコトを言われる筋合いはねーんだよ!」
今度は怒りの矛先をレイファーに向けてきた。
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腰をおろしたままの安部が、長田の手にしていた刀を取りあげると、その手首をつかんで無理やりに座らせた。
安部の唇が動き、なにかを言った。
数秒、安部の顔をじっと見ていた長田は、憮然とした表情を崩さないまま、それでも大人しく腰をおろし、同じように小声でなにかを言い返した。
「今、泉翔は少しばかり妙なことが続いている。だから色の変化ならあるかもしれないが、どう考えても場所までも変わるとは思えない……とはいっても、あんたは顔に覚えがあると言った……印のあるなしに関わらず、それが麻乃であることに間違いはないだろう」
「ロマジェリカとの戦争のあとで、左腕に火傷の痕ができたと言いましたね?」
それまで口を挟まずにいたサムが身を乗り出して問いかけた。
「あぁ、ずいぶんと長いあいだ、あいつは左腕を気にしていた」
「その傷をちゃんと目にしたものは……?」
三人は目配せをし、それぞれが首を振った。
「俺たちは……けれど医療所の先生が手当てをしたときに見ているな」
「では、それが本当に火傷の痕だったのか、ただの痣だったのかを確認したほうがいいでしょう」
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