蓮華

釜瑪 秋摩

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待ち受けるもの

第113話 来訪者 ~岱胡 6~

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「ちょ……修治さん? どうしたんスか!」

 岱胡はあわてて修治の肩を揺り動かした。
 こんなときに倒れられては、自分はこれからどうしたらいいのか――。
 その手を小坂につかみ取られ、それを合図に師範二人が修治を担ぎ上げると別室へ連れていった。

「驚かせてしまってすまなかったね」

 高田が豪快に笑った。
 その姿に、徳丸を思い出す。

「おクマと松恵から話しを聞いた。あれも向こうで気を張っていたことだろう。戻ってからもあわただしくて、私たちが思う以上に疲労していたのかもしれない」

「そ、そりゃあ……向こうでもあまり良く眠れなかったっぽいですし、こっちに戻っても多分、ほとんど寝ていないと思いますけど……」

「少しばかり手荒だったが、信頼できる医師に薬を処方していただいて、無理やりにでも休ませることにした。休めと言って聞くやつではないからな」

 そう言って、高田はまた笑った。
 その姿に唖然とする。

(あ……でも中央の宿舎で見せられたメモ……)

 あれに確か、解放の手段を選ばず、そう書いてあった。
 平然とそんな指示を出してくるくらいの人だ。
 この程度のことも平気でやってのけるだろう。

 麻乃が以前、禁じられている刀を帯びているところを見られたら殺される、と言っていたけれど、それが冗談とも思えないほどの重厚な雰囲気を持っている。
 思わず笑いが込みあげてきた。
 尾形と同じ立場の人だとしても、俄然こっちのほうが怖い、と思う。

「明日の夕方までは目を覚まさないと思う。北区への移動はそれからになってしまうが……」

「あぁ、それは全然構わないッス。あの人が休息をしっかり取って、また動けるようになってくれればそれで」

「長谷川くんも、まだ病みあがりだ。あれが眠っているうちに十分に休んでほしい」

「わかりました。遠慮なくそうさせていただくことにします。じゃ、俺は今日は西区の宿舎に戻ります」

 そう言って頭をさげた岱胡は、小坂と一緒に道場をあとにした。

 ――翌日。

 一応、休むとは言っておいたものの、ただぼんやりと部屋にこもっているのは苦痛だったし、岱胡はそれなりに睡眠も取っていたから、そうそう眠れるものでもない。
 昨夜のうちに西詰所に来た茂木と、銃の手入れをしながら空いた時間に尾形と連絡を取り合った。

「隊長、これ、使い勝手はどうでした?」

 茂木はベッドに無造作に広げた荷物の中に、スコープを見つけて問いかけてきた。

「あ、うん、こいつかなり使えるよ。夜なんか特にいいね」

「へぇ……距離感とか狂ったりしませんでした?」

「全然。うちの島じゃそんなに遠くまで見る必要もないけど、大陸では離れた場所からもしっかり確認できたしさ」

 スコープを手に取って、細部まで眺めていた茂木が、不意に真顔でこちらを見た。

「ねぇ、隊長、こいつをうちの部隊全員に持たせたらどうでしょう? 夜間用だけでも精度をあげて……だってもし襲撃があるとして、昼間に来るとは限らないでしょう?」

「そうだな……うん、そのとおりかも。すぐ改造できる?」

「ええ、みんなで手分けすれば三日もかからないでしょうね」

「じゃ、やって。それから、できたら三部隊分はほしいね。予備隊と訓練生もあがってくるから、銃を使うやつらに持たせたい」

「わかりました」

「資料、渡ってるっしょ? 今夜には修治さんと北に行くから、なにか疑問とかわかんないことがあったら、すぐ聞けるようにまとめといて」

 見本に借りていきますよ、といってスコープを手に部屋を出ていこうとした茂木を呼び止めた。
 そういえば、銃を使う予備隊と訓練生が加わるとして、どの程度、戦力になるんだろう?
 いまさらになってそんな疑問が湧く。
 全浜に襲撃があったときに、下手な振りわけをすると十分な援護ができないかもしれない。

「どうかしました?」

「うん、襲撃があったときに戦力が偏らないように、うちの部隊、三つにわけようと思う。俺を入れて十七ずつ、二つの頭はおまえと福島でどう?」

「ははぁ……予備隊だけじゃなく訓練生がいますもんね……俺たちがまとまっちゃったら偏りがでちゃうか……」

「うん、どんだけ来るかわかんないし、用心に越したことはないし。みんなには負担になっちゃうけど」

「いや、いいんじゃないですか? それで」

「そう? そんなら組分けも頼むよ。それから各詰所に十分な銃弾を確保しておいて。場合によっては生産頼んじゃっていいからさ」

 そう指示を出して茂木を送り出した。
 今のうちに自分にできることを、なるべく多くこなしてしまいたかった。
 ほかの誰もまだ戻ってこない以上、一つでも修治が考えることを減らしておきたい。
 窓の外にぽっかり浮いている膨らみ始めた半透明の月を眺めてから、また銃の手入れを続けた。
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