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待ち受けるもの
第108話 来訪者 ~岱胡 1~
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修治の隊員たちと合流して、まずは南浜へ向かうことになった。
隊員の話しでは、西浜には修治の先生が向かったそうだ。
「戻ったのは、今は一隻だそうです。そろそろ浜に着くころだと思うのでスピードを出しますよ」
「岱胡、揺れるぞ。気分が悪くなったらすぐにいうんだ。いいな?」
修治に念を押され、岱胡はコクリとうなずいた。
早いうちに傷の手当てをしたおかげで、傷の痛みはまったく感じない。
熱もすっかり引いたようで、今の調子は万全に近い。
とは言え、また無理をしたら熱があがるかもしれないと、修治はそれを気にしてくれているようだ。
(徳丸さんのほうにしろ巧さんのほうにしろ、年長者が戻ってきたのは心強い)
それになにより、一番心配をされていた麻乃と鴇汰が戻ってきたのも本当に嬉しい。
カーブのたびにブレーキとタイヤのきしむ音が聞こえ、揺れた拍子に一度だけ天井に頭をぶつけても、今はなんとも思わない。
海岸につくと、まだ完全に車が止まらないうちに修治とともに飛び出し、船に向かって駆け出した。尾形の姿が見え、そのそばに駆け寄る。
「先生!」
「岱胡、戻ったか。具合はどうだ?」
「はい、大丈夫ッス」
そう答えたとき、尾形の様子がおかしいことに気づいた。
修治が厳しい表情で船に目を向けている。
船からは船員たちが忙しなく積荷を下ろしている姿しか見えない。
迎えに出ている隊員たちの反応も、どこかおかしい。
不意に嫌な予感が湧き立った。
「先生、戻ってきたのはどっちだったんスか? 庸儀? ヘイト?」
「ヘイトだ。ただ……戻ってきたのは船員だけだった」
「船員だけって……じゃ、じゃあ二人は? 徳丸さんと梁瀬さんはどうなったってんスか!」
「それはまだわからん」
愕然としているその肩を、修治につかまれてハッと我に返った。
「岱胡、上層の奴らがこっちに向かってる。見つかるとまずい。すぐに西区に移動するぞ」
「あ……はい」
急ぎ足で車に戻り、修治のあとから後部席に乗り込む前に、尾形と船に目を向けた。
どうもなにかがおかしい。自分たちは最短で戻ってきた。
だから早かったのは当然で、ほかの船はもしなにかあって、最長で戻ってきたとしても、ヘイトは今日の到着に不思議はない。
けれど西浜は……。
もしも最長だったとしたら、一日早い。
麻乃も鴇汰も、式神どころか術は使えない。
船と連絡を取ることは不可能だ。
だとすると、二人はギリギリ一週間かけずに船へ戻り、帰ってきたということか?
「なにしてる? 早く乗れ」
修治に急かされて、岱胡はあわててシートに腰をおろしてドアを力強く閉めた。
浜を出てすぐ、上層の乗った車とすれ違い、身を屈めてやり過ごした。
「ねぇ、修治さん……徳丸さんはともかく、梁瀬さんほどの術師がいて、船だけが戻ったって……」
「おまえ同様、怪我をしたのかもしれない……トクさんは回復術は使えても、式神は出せないはずだ……どこかで身動きが取れなくなっているのかもしれないな」
「そう……そうッスよね、きっと」
西区に入るとまず先に詰所に来た。
麻乃と鴇汰の隊員の姿が見えないのは、まだ西浜にいるからだろうか?
当面、必要になりそうなものを尾形と隊員たちが、自宅や宿舎からこっそり持ち出して西区の宿舎に送ってくれる手筈になっている。
二階の一番奥にちょうど二部屋続いて空き部屋があり、修治とそこを使うことにした。
中央の宿舎から持ってきた着替えだけ放り込むと、今度は西浜に向かった。
西浜には南浜よりも重苦しい雰囲気が漂っている。
もう船はすべての積み荷をおろしたようで、ひっそりと佇んでいるだけだ。
堤防にほど近いところで、修治の先生である高田と隊員たちが、船員と何か揉めているようだ。
黙ったままそこへ駆けていった修治のあとを追う。
「――だから、うちの隊長は術においてはてんで駄目なんですよ!」
「うちの長田隊長も同じです、なのに式神だなんて……」
隊員たちが船員に喰ってかかっている。
こちらに気づいた高田が振り返った。
「……修治、来たか」
「いろいろとご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。それより……まさかこっちも二人は乗っていなかったんですか?」
「あぁ……こっちも、というと南浜もか?」
「ええ、船員だけが戻ったそうです」
だから、と、船員の一人が大声をあげたのが聞こえ、全員の目がそちらを向いた。
隊員の話しでは、西浜には修治の先生が向かったそうだ。
「戻ったのは、今は一隻だそうです。そろそろ浜に着くころだと思うのでスピードを出しますよ」
「岱胡、揺れるぞ。気分が悪くなったらすぐにいうんだ。いいな?」
修治に念を押され、岱胡はコクリとうなずいた。
早いうちに傷の手当てをしたおかげで、傷の痛みはまったく感じない。
熱もすっかり引いたようで、今の調子は万全に近い。
とは言え、また無理をしたら熱があがるかもしれないと、修治はそれを気にしてくれているようだ。
(徳丸さんのほうにしろ巧さんのほうにしろ、年長者が戻ってきたのは心強い)
それになにより、一番心配をされていた麻乃と鴇汰が戻ってきたのも本当に嬉しい。
カーブのたびにブレーキとタイヤのきしむ音が聞こえ、揺れた拍子に一度だけ天井に頭をぶつけても、今はなんとも思わない。
海岸につくと、まだ完全に車が止まらないうちに修治とともに飛び出し、船に向かって駆け出した。尾形の姿が見え、そのそばに駆け寄る。
「先生!」
「岱胡、戻ったか。具合はどうだ?」
「はい、大丈夫ッス」
そう答えたとき、尾形の様子がおかしいことに気づいた。
修治が厳しい表情で船に目を向けている。
船からは船員たちが忙しなく積荷を下ろしている姿しか見えない。
迎えに出ている隊員たちの反応も、どこかおかしい。
不意に嫌な予感が湧き立った。
「先生、戻ってきたのはどっちだったんスか? 庸儀? ヘイト?」
「ヘイトだ。ただ……戻ってきたのは船員だけだった」
「船員だけって……じゃ、じゃあ二人は? 徳丸さんと梁瀬さんはどうなったってんスか!」
「それはまだわからん」
愕然としているその肩を、修治につかまれてハッと我に返った。
「岱胡、上層の奴らがこっちに向かってる。見つかるとまずい。すぐに西区に移動するぞ」
「あ……はい」
急ぎ足で車に戻り、修治のあとから後部席に乗り込む前に、尾形と船に目を向けた。
どうもなにかがおかしい。自分たちは最短で戻ってきた。
だから早かったのは当然で、ほかの船はもしなにかあって、最長で戻ってきたとしても、ヘイトは今日の到着に不思議はない。
けれど西浜は……。
もしも最長だったとしたら、一日早い。
麻乃も鴇汰も、式神どころか術は使えない。
船と連絡を取ることは不可能だ。
だとすると、二人はギリギリ一週間かけずに船へ戻り、帰ってきたということか?
「なにしてる? 早く乗れ」
修治に急かされて、岱胡はあわててシートに腰をおろしてドアを力強く閉めた。
浜を出てすぐ、上層の乗った車とすれ違い、身を屈めてやり過ごした。
「ねぇ、修治さん……徳丸さんはともかく、梁瀬さんほどの術師がいて、船だけが戻ったって……」
「おまえ同様、怪我をしたのかもしれない……トクさんは回復術は使えても、式神は出せないはずだ……どこかで身動きが取れなくなっているのかもしれないな」
「そう……そうッスよね、きっと」
西区に入るとまず先に詰所に来た。
麻乃と鴇汰の隊員の姿が見えないのは、まだ西浜にいるからだろうか?
当面、必要になりそうなものを尾形と隊員たちが、自宅や宿舎からこっそり持ち出して西区の宿舎に送ってくれる手筈になっている。
二階の一番奥にちょうど二部屋続いて空き部屋があり、修治とそこを使うことにした。
中央の宿舎から持ってきた着替えだけ放り込むと、今度は西浜に向かった。
西浜には南浜よりも重苦しい雰囲気が漂っている。
もう船はすべての積み荷をおろしたようで、ひっそりと佇んでいるだけだ。
堤防にほど近いところで、修治の先生である高田と隊員たちが、船員と何か揉めているようだ。
黙ったままそこへ駆けていった修治のあとを追う。
「――だから、うちの隊長は術においてはてんで駄目なんですよ!」
「うちの長田隊長も同じです、なのに式神だなんて……」
隊員たちが船員に喰ってかかっている。
こちらに気づいた高田が振り返った。
「……修治、来たか」
「いろいろとご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。それより……まさかこっちも二人は乗っていなかったんですか?」
「あぁ……こっちも、というと南浜もか?」
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