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待ち受けるもの
第90話 帰還 ~修治 1~
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北区からの道中で、尾形におおよその話しを聞いておいたのは幸いだった。
早々に軍部に呼ばれて向かおうとしたその矢先に、上層が数人、医療所へ現れ、まだ熱のさがっていない岱胡まで連れ出してきた。
「まだかなり熱が高い、二、三日……いや、せめて熱が引くまでは安静にさせてください!」
「報告は義務だ。ましてこんなときでもある。休んでいる場合ではない」
「なにも報告をしないとは言っていないでしょう? なぜ熱がさがるまでの短い期間が待てないのです?」
医療所の先生と尾形が止めようと抗議をしても聞く耳を持たない。
「行きゃぁいいんでしょ! 報告が義務だってことぐらいわかってますよ! 行って全部報告してやりますよ!」
最後には退かない上層にキレた岱胡が支えられた手を振りほどき、そう怒鳴って覚束ない足取りのまま迎えの車に乗り込んだ。
威勢が良かったのはそこまでで、後部席に収まると途端にぐったりしている。
「大丈夫か?」
「全然駄目ッスよ……も~、体に力が入んないし、寝てたいんスけどね……」
「報告だけなら俺一人でも十分なのに、偉い目にあったな」
「ホントですよ……すぐ解放してもらえればいいんッスけど、なにか嫌な予感がしますね」
ポツポツと話していると、助手席の上層が横目でこちらを見ていることに気づいた。
岱胡と視線をかわすと互いに少し体を離し、その先は黙ったままでいた。
軍部では大会議室に上層のほか、カサネを始め巫女が数人、おまけになぜか国王までも同席している。
最初に豊穣の儀を滞りなく済ませたことを報告すると、国王以外はそのことにまったく興味を示さず、すぐに大陸での行動を事細かにたずねられた。
腑に落ちない思いが沸いたけれど、できるだけ早く済ませて岱胡を休ませたいと思い、修治は順を追って話しを始めた。
ポイントに着いて準備をしているときから、接近してくる敵兵に気づいたこと、どうやら相手は修治たちの居場所をわかっているようで、常に追われていたこと、奉納場所ではついに対峙したこと。
「奉納場所で対峙した庸儀の兵は、ロマジェリカ戦のときと同じ状態でした。こちらもまさか、またあの手の兵が出てくるとは思わず、長谷川が怪我を負ってしまいました」
国王は目を閉じて話しを聞いている。
上層たちはなにやらヒソヒソと言葉をかわし、修治の話しを聞いているのかどうかさえ怪しい雰囲気だ。
「そのあと手にあまる状況に陥ったのですが、恐らく大陸のものと思われる男に助けられ――」
「大陸の人間がおまえたちを助けたと? そんな馬鹿な」
上層の一人が失笑した。
確かに、これまでなら修治も同じように思っただろう。
けれど助けられたのは動かしようのない事実だ。
「ですが、ポイントを抑えられ、我々の船には見張りがついていて戻れなくなるところでした。その男が別の場所に船を用意してくれたおかげで、こうして戻ってくることができたんです。長谷川の怪我が軽く済んだのも、回復術で止血をしてくれたからで――」
「そもそも、ポイントが割れていたということがおかしいのだよ」
「そうだ。こればかりは、たとえ諜報に入り込まれたとしても、知られようがないことだ」
(――また、そこに話しが戻るのか)
こちらはとりあえず一通り話してしまいたいのに、上層もカサネも、あれやこれやと質問なのか文句なのかわからないことを一々投げかけてきて、話しが先に進まずに苛立った。
「大陸の男は、我々がシタラさまからいただいた黒玉を見て、これは大陸で相手の居場所を探るために術師が良く使うものだ、と言いました。そのせいで追われるのだ、と」
「そんなものが存在すると、本気で信じたのか? 第一あったとしてもなぜこの国に、しかもシタラさまが持ち合わせているというのだ」
今度は嘲笑が漏れた。
にわかに信じがたいのはわかるし、修治自身もそれが一番の疑問だ。
「確かに仰るとおりですが、庸儀の兵は迷うことなく我々を追って来ました。そういう石があったと考えれば、すべてに辻褄が合うんです」
「そいつが自分たちに手を貸してくれたのも、あの赤髪の女に一泡吹かせてやりたいからだって言っていました。うちの国で手に入れた情報以上に、大陸にはいろいろな思惑がはびこっているんだと思います」
岱胡もさすがに黙っていられなかったようで、熱のせいで震えながらも一言一言、選んで発言をしてくれた。
「その話しはまあいいだろう。それよりも……藤川は確か、ジャセンベルのポイントとルートを知っているはずだな?」
上層の一人がそう言った。
早々に軍部に呼ばれて向かおうとしたその矢先に、上層が数人、医療所へ現れ、まだ熱のさがっていない岱胡まで連れ出してきた。
「まだかなり熱が高い、二、三日……いや、せめて熱が引くまでは安静にさせてください!」
「報告は義務だ。ましてこんなときでもある。休んでいる場合ではない」
「なにも報告をしないとは言っていないでしょう? なぜ熱がさがるまでの短い期間が待てないのです?」
医療所の先生と尾形が止めようと抗議をしても聞く耳を持たない。
「行きゃぁいいんでしょ! 報告が義務だってことぐらいわかってますよ! 行って全部報告してやりますよ!」
最後には退かない上層にキレた岱胡が支えられた手を振りほどき、そう怒鳴って覚束ない足取りのまま迎えの車に乗り込んだ。
威勢が良かったのはそこまでで、後部席に収まると途端にぐったりしている。
「大丈夫か?」
「全然駄目ッスよ……も~、体に力が入んないし、寝てたいんスけどね……」
「報告だけなら俺一人でも十分なのに、偉い目にあったな」
「ホントですよ……すぐ解放してもらえればいいんッスけど、なにか嫌な予感がしますね」
ポツポツと話していると、助手席の上層が横目でこちらを見ていることに気づいた。
岱胡と視線をかわすと互いに少し体を離し、その先は黙ったままでいた。
軍部では大会議室に上層のほか、カサネを始め巫女が数人、おまけになぜか国王までも同席している。
最初に豊穣の儀を滞りなく済ませたことを報告すると、国王以外はそのことにまったく興味を示さず、すぐに大陸での行動を事細かにたずねられた。
腑に落ちない思いが沸いたけれど、できるだけ早く済ませて岱胡を休ませたいと思い、修治は順を追って話しを始めた。
ポイントに着いて準備をしているときから、接近してくる敵兵に気づいたこと、どうやら相手は修治たちの居場所をわかっているようで、常に追われていたこと、奉納場所ではついに対峙したこと。
「奉納場所で対峙した庸儀の兵は、ロマジェリカ戦のときと同じ状態でした。こちらもまさか、またあの手の兵が出てくるとは思わず、長谷川が怪我を負ってしまいました」
国王は目を閉じて話しを聞いている。
上層たちはなにやらヒソヒソと言葉をかわし、修治の話しを聞いているのかどうかさえ怪しい雰囲気だ。
「そのあと手にあまる状況に陥ったのですが、恐らく大陸のものと思われる男に助けられ――」
「大陸の人間がおまえたちを助けたと? そんな馬鹿な」
上層の一人が失笑した。
確かに、これまでなら修治も同じように思っただろう。
けれど助けられたのは動かしようのない事実だ。
「ですが、ポイントを抑えられ、我々の船には見張りがついていて戻れなくなるところでした。その男が別の場所に船を用意してくれたおかげで、こうして戻ってくることができたんです。長谷川の怪我が軽く済んだのも、回復術で止血をしてくれたからで――」
「そもそも、ポイントが割れていたということがおかしいのだよ」
「そうだ。こればかりは、たとえ諜報に入り込まれたとしても、知られようがないことだ」
(――また、そこに話しが戻るのか)
こちらはとりあえず一通り話してしまいたいのに、上層もカサネも、あれやこれやと質問なのか文句なのかわからないことを一々投げかけてきて、話しが先に進まずに苛立った。
「大陸の男は、我々がシタラさまからいただいた黒玉を見て、これは大陸で相手の居場所を探るために術師が良く使うものだ、と言いました。そのせいで追われるのだ、と」
「そんなものが存在すると、本気で信じたのか? 第一あったとしてもなぜこの国に、しかもシタラさまが持ち合わせているというのだ」
今度は嘲笑が漏れた。
にわかに信じがたいのはわかるし、修治自身もそれが一番の疑問だ。
「確かに仰るとおりですが、庸儀の兵は迷うことなく我々を追って来ました。そういう石があったと考えれば、すべてに辻褄が合うんです」
「そいつが自分たちに手を貸してくれたのも、あの赤髪の女に一泡吹かせてやりたいからだって言っていました。うちの国で手に入れた情報以上に、大陸にはいろいろな思惑がはびこっているんだと思います」
岱胡もさすがに黙っていられなかったようで、熱のせいで震えながらも一言一言、選んで発言をしてくれた。
「その話しはまあいいだろう。それよりも……藤川は確か、ジャセンベルのポイントとルートを知っているはずだな?」
上層の一人がそう言った。
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