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待ち受けるもの
第80話 流動 ~マドル 6~
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「部屋は片づいたようです。戻られますか?」
「あたしは国へ戻る」
「泉翔へ?」
「他国への侵略は禁忌だ。二度とそんな考えを起こさないよう、止めなければならない。力ずくでも……」
入り口に立ったマドルを押しのけると、麻乃は部屋を出て、廊下を早足に奥の部屋へと向かって歩き出した。
そのあとを追う。
「あなたは、あたしに手を貸すと言った。まずは大陸へ……この国へ侵攻してくるというやつらを止めてみせる。上陸してきたものはすべて排除する。それが済んだら船を出せ」
「構いませんが……こちらにも準備があります。すぐに出航することは難しいのです」
立ち止り、振り返った麻乃の視線が刺さるように鋭く、背筋が寒くなるような恐怖を感じずにはいられない。
「それに貴女一人では、手にあまることも多々あるでしょう? 泉翔に戻る際には兵をつけます。手を貸すとはそういうことです」
「手は借りる。止めるにも一人では手が回らないこともあるのはわかっている。だけど、あたしに口出しをするな。余計な真似も必要ない。邪魔になるようなら例え救ってくれたからとはいえ容赦はしない。あたしにはあたしのやりかたがある」
「ご随意に……ですが、海を渡ることに関しては私たちのほうが長けています。少しは私の言葉にも耳を貸していただきたい 」
フン、と小さく息を漏らすと、なにも答えないまま、麻乃は奥の部屋の扉を開けた。
中へ入るのを見送ってから廊下に控えていた側近を呼ぶと、諜報たちを使って、庸儀の脱走兵がどの方角から進軍してくるのかを探るように指示を出した。
「城の周辺には、なにもさえぎるものがありません、ゆえにどこから来るにしても、早いうちに発見できるでしょうが、あらかじめ方角がわかっていれば、離れた場所で待ち伏せることが可能です」
「ですが、確かジェ様が対応してくださるとのことではありませんでしたか?」
「事情が変わりました。あのかたが出るそうです。本物の力がどれほどなのか、確認できるいいチャンスなのですよ」
「わかりました、では急ぎ手配いたします」
それにうなずき、麻乃の部屋へ戻った。
部屋に足を踏み入れると、机に向かって立ち尽くしている麻乃のつぶやきが聞こえた。
「……夜光がない」
「倒れられたときに、こちらであずかりました。また失ってはお困りでしょうから。のちほど、女官が着替えと一緒にお持ちします」
「泉翔のやつらは、どれくらい上陸している?」
「それはまだはっきりわかっていませんが、恐らく相当な数でしょうね」
「相当? 泉翔は戦士の総数は少ない。大したことはないはずだ」
振り返った麻乃の瞳がマドルをとらえる。
マドルはもうずいぶん昔から、恐怖を感じることなどないと思っていた。
それが麻乃の瞳を見るたびに、嫌な感覚が胸に広がる。
気づくと数歩、あとずさりをしていた。
「泉翔にはジャセンベルがついています。あの国の軍はとても大きい。ほかの二国にも進軍しているとは言え、かなりの数がいてもおかしくはありません」
マドルは目を決して逸らさずに、そう答えた。
暗示から覚めきっていなければ、庸儀の兵も、覚醒前と同じように泉翔やジャセンベルの戦士に見えるだろう。
ただ覚醒したことで、なにかが変わってしまったとしたら……。
もともと術が効きにくかった。
もう一度、しっかりかけ直さなければならないだろうか。
(それにしても、さっきの物言い……やはり鬼神の血が動くのは、ことの善し悪しに関わらず、泉翔ありきか……泉翔を落としてからのことは、もう一度考え直さなければ)
あと数時間もすれば、ジェも軍勢を引き連れて戻ってくるだろう。
その前に、麻乃に相応な兵をつけて城を離れたい。
窓の外を見つめたままの麻乃の後ろ姿からは、これまで観察をしてきた姿とは違い、なにも言わずとも威圧感に満ちている。
さっきの女官が着替えと荷物を持ってあらわれた途端、麻乃の雰囲気が変わった。どこか自信なさ気な弱さと迷いが垣間見える。
「出ていけ」
受け取った荷物を手にマドルを振り返ると、麻乃は静かに言い放った。
「あたしは国へ戻る」
「泉翔へ?」
「他国への侵略は禁忌だ。二度とそんな考えを起こさないよう、止めなければならない。力ずくでも……」
入り口に立ったマドルを押しのけると、麻乃は部屋を出て、廊下を早足に奥の部屋へと向かって歩き出した。
そのあとを追う。
「あなたは、あたしに手を貸すと言った。まずは大陸へ……この国へ侵攻してくるというやつらを止めてみせる。上陸してきたものはすべて排除する。それが済んだら船を出せ」
「構いませんが……こちらにも準備があります。すぐに出航することは難しいのです」
立ち止り、振り返った麻乃の視線が刺さるように鋭く、背筋が寒くなるような恐怖を感じずにはいられない。
「それに貴女一人では、手にあまることも多々あるでしょう? 泉翔に戻る際には兵をつけます。手を貸すとはそういうことです」
「手は借りる。止めるにも一人では手が回らないこともあるのはわかっている。だけど、あたしに口出しをするな。余計な真似も必要ない。邪魔になるようなら例え救ってくれたからとはいえ容赦はしない。あたしにはあたしのやりかたがある」
「ご随意に……ですが、海を渡ることに関しては私たちのほうが長けています。少しは私の言葉にも耳を貸していただきたい 」
フン、と小さく息を漏らすと、なにも答えないまま、麻乃は奥の部屋の扉を開けた。
中へ入るのを見送ってから廊下に控えていた側近を呼ぶと、諜報たちを使って、庸儀の脱走兵がどの方角から進軍してくるのかを探るように指示を出した。
「城の周辺には、なにもさえぎるものがありません、ゆえにどこから来るにしても、早いうちに発見できるでしょうが、あらかじめ方角がわかっていれば、離れた場所で待ち伏せることが可能です」
「ですが、確かジェ様が対応してくださるとのことではありませんでしたか?」
「事情が変わりました。あのかたが出るそうです。本物の力がどれほどなのか、確認できるいいチャンスなのですよ」
「わかりました、では急ぎ手配いたします」
それにうなずき、麻乃の部屋へ戻った。
部屋に足を踏み入れると、机に向かって立ち尽くしている麻乃のつぶやきが聞こえた。
「……夜光がない」
「倒れられたときに、こちらであずかりました。また失ってはお困りでしょうから。のちほど、女官が着替えと一緒にお持ちします」
「泉翔のやつらは、どれくらい上陸している?」
「それはまだはっきりわかっていませんが、恐らく相当な数でしょうね」
「相当? 泉翔は戦士の総数は少ない。大したことはないはずだ」
振り返った麻乃の瞳がマドルをとらえる。
マドルはもうずいぶん昔から、恐怖を感じることなどないと思っていた。
それが麻乃の瞳を見るたびに、嫌な感覚が胸に広がる。
気づくと数歩、あとずさりをしていた。
「泉翔にはジャセンベルがついています。あの国の軍はとても大きい。ほかの二国にも進軍しているとは言え、かなりの数がいてもおかしくはありません」
マドルは目を決して逸らさずに、そう答えた。
暗示から覚めきっていなければ、庸儀の兵も、覚醒前と同じように泉翔やジャセンベルの戦士に見えるだろう。
ただ覚醒したことで、なにかが変わってしまったとしたら……。
もともと術が効きにくかった。
もう一度、しっかりかけ直さなければならないだろうか。
(それにしても、さっきの物言い……やはり鬼神の血が動くのは、ことの善し悪しに関わらず、泉翔ありきか……泉翔を落としてからのことは、もう一度考え直さなければ)
あと数時間もすれば、ジェも軍勢を引き連れて戻ってくるだろう。
その前に、麻乃に相応な兵をつけて城を離れたい。
窓の外を見つめたままの麻乃の後ろ姿からは、これまで観察をしてきた姿とは違い、なにも言わずとも威圧感に満ちている。
さっきの女官が着替えと荷物を持ってあらわれた途端、麻乃の雰囲気が変わった。どこか自信なさ気な弱さと迷いが垣間見える。
「出ていけ」
受け取った荷物を手にマドルを振り返ると、麻乃は静かに言い放った。
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