蓮華

釜瑪 秋摩

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待ち受けるもの

第66話 大国の武将 ~レイファー 3~

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 軍部へ着くと、幹部を集めて地図を広げた。

「今、部隊の出ている国境沿いを、さらに固めなければならない」

 全員がざわめく。

「控えている部隊はありますが、今、出ている部隊だけでも十分ではありませんか?」

「ああ、俺もそうは思うんだが、蟻の子一匹通すなと、王の御達示だ。」

 このところ、他国の動きはほとんどなかった。
 不思議に思ってはいたが、今日、ロマジェリカの使者が来たことでその意味がわかった。 

 ジャセンベルを取り込むことができなかった今、これから三国が、この国に向かって動きだすのは必至だ。
 ここは王の言うとおり、国境沿いを重点的に固めることが先決だろう。

 だがそれだけでは足りない。

「泉翔侵攻へ割ける部隊数と物資は、いつも以上に用意できるか?」

「いつも以上に……ですか?」

「国境へ援軍を出すとなると、さすがにそれは難しいのではないでしょうか?」

「まったく、そのとおりだな。と言って、いつもどおりの侵攻では、また撤退せざるを得ないことになるだろう」

「また泉翔に討って出るのですか?」

「先だって渡った折に、あの大剣使いにだいぶやられていますから、物資も兵も、いつもと同じだけ集めるにしても、少々時間がかかるかと思われます」

 戸惑いを隠せずにいる幹部たちに、つい今しがた、大広間であったことを話した。

「そんな無茶な……確かに我が軍の兵数をもってすれば、三国相手には十分に渡り合うこともできますが」

「それと同時に泉翔を落とすとなると、兵も物資も賄いきれません」

「中途半端に出るには、あの国の防衛力は高すぎますからね」

 レイファーは答えずに、腕を組んで地図を眺めた。
 数カ所、陣の弱そうな当たりを指す。

「ここと、この場所に部隊を向かわせるように。それから、この場所には援軍を送り、守りをより強固にする」

 そう指示を出すと、何人かが早々にその準備へ取りかかった。

「せめて兄上たちが、軍師並の能力を持って戦線に立ってくれたなら、俺も泉翔に集中できるんだがな」

 誰に言うともなく、つい嫌味が口をついた。
 ただ腰をかけ、右だ左だと口だけを挟んでくる兄たちには、いつも苛立ちを感じていた。

 レイファーは座っているだけでは耐えられない。
 己の手で道を切り拓きたいと、いつでも思っている。

「あの方々には向きませんよ」

「レイファーさまとは違って、自ら危険と向き合うつもりもないでしょう」

「おできになることと言えば、精々、椅子を温めることくらいでしょうね」

 残ったものたちは嘲笑し、ささやくように答えた。
 今、ここに残っているのは、レイファーが信頼しているものだけだ。

 それをわかってこんなことを言ってのける。
 今いる顔触れを見て、さっきの廊下でのことを思い出した。

「おまえたちの中に、三国それぞれの軍勢に精通しているやつはいるか?」

「庸儀でしたら私が。ロマジェリカだとケインが、ヘイトにはジャックでしょうか。良く当たるので嫌でも覚えた武将や軍師がいます」

 幹部たちは、お互いの顔を見回してから、中の一人、ブライアンが答えた。

「そうか。ではおまえたち、明日の夕方から時間を空けておいてくれ。少しばかり、用がある」

「わかりました」

「六時に俺の部屋へ。遅れずにな」

 そう言うと、奥の部屋へ入って仮眠をとった。
 翌日、時間になると、三人が部屋を訪れてきた。

「これから出かけたい場所がある。突然ですまないな」

「こんな時間からですか?」

「ああ。今は何も聞かずに、とにかく一緒にきてくれ」

 そう言うと、武器を手に三人を誘い、外へ向かった。

 大切にしている場所――。

 思い当たる場所は一カ所だけだ。
 一体、どういうわけでその場所を指定してきたのか、なぜ、レイファーが大切にしているということを知っているのか。

 このまま聞かなかったことにしてしまうのが得策な気もした。
 けれど、なにかが胸の中に引っかかり、つい幹部を連れてきてしまった。

(妙な式神を使って、わざわざジャセンベルの城内に忍び入ったものが誰なのか、本当にこいつらを連れていけばわかるのだろうか?)

 行き先を知らない三人に変わって自ら車を走らせながら、ハンドルを握る手に力を込めた。
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