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待ち受けるもの
第49話 ジャセンベル ~修治 4~
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「こんなものを持ってるから追われるんだ」
「それは泉翔で守石として渡されたものだ。それがどうして追われる原因になると……」
「これは呼び石といって大陸の術師が良く使う相手の居所を探る石だよ」
呆れた声で言うと、黒玉を車から放り投げた。
居所を探る石……?
そんなものが本当にあるのだとすれば、あんなに簡単に追ってこられたのも納得がいくけれど……。
「でもまぁ、こっちの人がいたから、あの女も追いきれなかったみたいだねぇ。ん? あんた斬られたのか?」
岱胡を指差すと、その足に気づき、タオルを外して傷口に触れた。
「熱っ! なにすんだ!」
そいつの手を思いきり払い除けた岱胡の顔が、怪訝な表情に変わった。
人の体がぶつかった音が聞こえなかったことに、修治も気づく。
(こいつ……本当に一体、なんなんだ?)
面で表情が見えないのが薄気味悪い。
「ひどいねぇ、せっかく血を止めてやったっていうのに。あんたたちは助けてくれたものに対して敬意を払うってことを知らないのかい? 腕が良くても、それじゃあ人として駄目なんじゃないのかねぇ?」
確かに助けられたことには変わりない。
おまけにたった今、岱胡の傷まで手当てしてもらった。
「すまない。長引いたらまずかったかもしれない。そう思うと本当に助かった。ありがとう」
真っすぐ前を見つめ、帰りのルートを探しながら、礼だけは言っておく。
そいつは含み笑いを漏らし、修治に向き直った。
「素直なもんだねぇ、泉翔の人たちは本当に……温いというのは噂どおりか」
「この野郎! いい加減に……!」
つかみかかろうとした岱胡をあっさりと突き倒す。
「同盟三国のやつら、なにか企んでるよ。あんたたちが上陸してきたことは割れている。ほかの国に入ったあんたたちの仲間がどうなったのかは知らないけれど、早く帰って防衛の準備をしたほうがいいと思うね」
「おまえ、一体なにを知ってるんだ?」
「そうそう、それからあんたたちの船ねぇ、見つかって待ち伏せされてるよ。そこから三キロ東へ行った場所にある船を使うといい。そっちの人は、血を止めただけだから、あとでちゃんと手当てをしてもらうんだね」
修治の問いかけには答えずに不意に立ちあがると、その姿がガクンと崩れ、マントは風で舞いあがり、遥か後ろへ飛んで消えた。
「式神か!」
岱胡は荷台に残った面を手にすると、勢い良くそれを投げ捨てた。
「今の……なんだったんスかね? 三国がなにか企んでるって……そういえば、あのババアもみんながどうとかって……」
「あぁ、俺たちと同じように、襲撃されているのかもしれない」
「でもみんな、あんなやつらにはやられたりしませんよね?」
「当たり前だ。ただ麻乃は……おまえもあの庸儀の襲撃を覚えているだろう?」
問いかけに岱胡が黙ってうなずいた。
「もしもさっきのような敵兵に追われていたら……また、気を失ってしまっていたら……」
「それはきっと大丈夫ッスよ。だってアイツが行ってるんでしょ? 庸儀の諜報とやらが」
「だからまずいんだよ!」
自分が一緒じゃないことに、苛立ちと焦りを感じて、つい言葉が荒くなる。
「だって一緒にいるの鴇汰さんスよ。あの人、あの諜報をひどく嫌ってましたから放っておくはずがないですよ」
だからだ。
だからこそ、怖い。
あんな兵の中、麻乃になにかあって鴇汰に冷静な判断ができるのだろうか。
鴇汰が判断を誤って下手なことになったりしたら触発されて平静じゃないままに、麻乃は目覚めてしまうかもしれない。
といって、修治にはなにもできない。
まさかここから、ロマジェリカへ向かうなんて真似もできない。
仮に向かったところで間に合うはずもない。
やり切れないことばかりに、ハンドルを握る手に力がこもった。
「まずは戻ろう。この先、どうするかは戻ってからだ」
ルートを選んでいる場合じゃなかった。
最短距離で上陸したポイントまで休みなく移動した。
岩陰から様子を見ると、あの式神が言ったとおり見張りがついている。
仕方なく、式神の言っていた場所まで移動した。
岩場の窪みに本当に船があり、念のために中を調べ、なにもないことを確認してから停泊場所へ戻った。
予定より大幅に早く戻ったことで、船員たちは驚いていたけれど、事情を話すとすぐに船を出し、岱胡の手当を始めてくれた。
(戻ったら早急に高田先生に相談をしなければ……みんなの様子がわからないことがこんなに怖いなんて思いもしなかった……)
デッキから、遠ざかる大陸の景色を見つめ、ただ、麻乃の無事を願うしかなかった。
「それは泉翔で守石として渡されたものだ。それがどうして追われる原因になると……」
「これは呼び石といって大陸の術師が良く使う相手の居所を探る石だよ」
呆れた声で言うと、黒玉を車から放り投げた。
居所を探る石……?
そんなものが本当にあるのだとすれば、あんなに簡単に追ってこられたのも納得がいくけれど……。
「でもまぁ、こっちの人がいたから、あの女も追いきれなかったみたいだねぇ。ん? あんた斬られたのか?」
岱胡を指差すと、その足に気づき、タオルを外して傷口に触れた。
「熱っ! なにすんだ!」
そいつの手を思いきり払い除けた岱胡の顔が、怪訝な表情に変わった。
人の体がぶつかった音が聞こえなかったことに、修治も気づく。
(こいつ……本当に一体、なんなんだ?)
面で表情が見えないのが薄気味悪い。
「ひどいねぇ、せっかく血を止めてやったっていうのに。あんたたちは助けてくれたものに対して敬意を払うってことを知らないのかい? 腕が良くても、それじゃあ人として駄目なんじゃないのかねぇ?」
確かに助けられたことには変わりない。
おまけにたった今、岱胡の傷まで手当てしてもらった。
「すまない。長引いたらまずかったかもしれない。そう思うと本当に助かった。ありがとう」
真っすぐ前を見つめ、帰りのルートを探しながら、礼だけは言っておく。
そいつは含み笑いを漏らし、修治に向き直った。
「素直なもんだねぇ、泉翔の人たちは本当に……温いというのは噂どおりか」
「この野郎! いい加減に……!」
つかみかかろうとした岱胡をあっさりと突き倒す。
「同盟三国のやつら、なにか企んでるよ。あんたたちが上陸してきたことは割れている。ほかの国に入ったあんたたちの仲間がどうなったのかは知らないけれど、早く帰って防衛の準備をしたほうがいいと思うね」
「おまえ、一体なにを知ってるんだ?」
「そうそう、それからあんたたちの船ねぇ、見つかって待ち伏せされてるよ。そこから三キロ東へ行った場所にある船を使うといい。そっちの人は、血を止めただけだから、あとでちゃんと手当てをしてもらうんだね」
修治の問いかけには答えずに不意に立ちあがると、その姿がガクンと崩れ、マントは風で舞いあがり、遥か後ろへ飛んで消えた。
「式神か!」
岱胡は荷台に残った面を手にすると、勢い良くそれを投げ捨てた。
「今の……なんだったんスかね? 三国がなにか企んでるって……そういえば、あのババアもみんながどうとかって……」
「あぁ、俺たちと同じように、襲撃されているのかもしれない」
「でもみんな、あんなやつらにはやられたりしませんよね?」
「当たり前だ。ただ麻乃は……おまえもあの庸儀の襲撃を覚えているだろう?」
問いかけに岱胡が黙ってうなずいた。
「もしもさっきのような敵兵に追われていたら……また、気を失ってしまっていたら……」
「それはきっと大丈夫ッスよ。だってアイツが行ってるんでしょ? 庸儀の諜報とやらが」
「だからまずいんだよ!」
自分が一緒じゃないことに、苛立ちと焦りを感じて、つい言葉が荒くなる。
「だって一緒にいるの鴇汰さんスよ。あの人、あの諜報をひどく嫌ってましたから放っておくはずがないですよ」
だからだ。
だからこそ、怖い。
あんな兵の中、麻乃になにかあって鴇汰に冷静な判断ができるのだろうか。
鴇汰が判断を誤って下手なことになったりしたら触発されて平静じゃないままに、麻乃は目覚めてしまうかもしれない。
といって、修治にはなにもできない。
まさかここから、ロマジェリカへ向かうなんて真似もできない。
仮に向かったところで間に合うはずもない。
やり切れないことばかりに、ハンドルを握る手に力がこもった。
「まずは戻ろう。この先、どうするかは戻ってからだ」
ルートを選んでいる場合じゃなかった。
最短距離で上陸したポイントまで休みなく移動した。
岩陰から様子を見ると、あの式神が言ったとおり見張りがついている。
仕方なく、式神の言っていた場所まで移動した。
岩場の窪みに本当に船があり、念のために中を調べ、なにもないことを確認してから停泊場所へ戻った。
予定より大幅に早く戻ったことで、船員たちは驚いていたけれど、事情を話すとすぐに船を出し、岱胡の手当を始めてくれた。
(戻ったら早急に高田先生に相談をしなければ……みんなの様子がわからないことがこんなに怖いなんて思いもしなかった……)
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