蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
271 / 780
待ち受けるもの

第49話 ジャセンベル ~修治 4~

しおりを挟む
「こんなものを持ってるから追われるんだ」

「それは泉翔で守石として渡されたものだ。それがどうして追われる原因になると……」

「これは呼び石といって大陸の術師が良く使う相手の居所を探る石だよ」

 呆れた声で言うと、黒玉を車から放り投げた。

 居所を探る石……?

 そんなものが本当にあるのだとすれば、あんなに簡単に追ってこられたのも納得がいくけれど……。
 
「でもまぁ、こっちの人がいたから、あの女も追いきれなかったみたいだねぇ。ん? あんた斬られたのか?」

 岱胡を指差すと、その足に気づき、タオルを外して傷口に触れた。

「熱っ! なにすんだ!」

 そいつの手を思いきり払い除けた岱胡の顔が、怪訝な表情に変わった。
 人の体がぶつかった音が聞こえなかったことに、修治も気づく。

(こいつ……本当に一体、なんなんだ?)

 面で表情が見えないのが薄気味悪い。

「ひどいねぇ、せっかく血を止めてやったっていうのに。あんたたちは助けてくれたものに対して敬意を払うってことを知らないのかい? 腕が良くても、それじゃあ人として駄目なんじゃないのかねぇ?」

 確かに助けられたことには変わりない。
 おまけにたった今、岱胡の傷まで手当てしてもらった。

「すまない。長引いたらまずかったかもしれない。そう思うと本当に助かった。ありがとう」

 真っすぐ前を見つめ、帰りのルートを探しながら、礼だけは言っておく。
 そいつは含み笑いを漏らし、修治に向き直った。

「素直なもんだねぇ、泉翔の人たちは本当に……温いというのは噂どおりか」

「この野郎! いい加減に……!」

 つかみかかろうとした岱胡をあっさりと突き倒す。

「同盟三国のやつら、なにか企んでるよ。あんたたちが上陸してきたことは割れている。ほかの国に入ったあんたたちの仲間がどうなったのかは知らないけれど、早く帰って防衛の準備をしたほうがいいと思うね」

「おまえ、一体なにを知ってるんだ?」

「そうそう、それからあんたたちの船ねぇ、見つかって待ち伏せされてるよ。そこから三キロ東へ行った場所にある船を使うといい。そっちの人は、血を止めただけだから、あとでちゃんと手当てをしてもらうんだね」

 修治の問いかけには答えずに不意に立ちあがると、その姿がガクンと崩れ、マントは風で舞いあがり、遥か後ろへ飛んで消えた。

「式神か!」

 岱胡は荷台に残った面を手にすると、勢い良くそれを投げ捨てた。

「今の……なんだったんスかね? 三国がなにか企んでるって……そういえば、あのババアもみんながどうとかって……」

「あぁ、俺たちと同じように、襲撃されているのかもしれない」

「でもみんな、あんなやつらにはやられたりしませんよね?」

「当たり前だ。ただ麻乃は……おまえもあの庸儀の襲撃を覚えているだろう?」

 問いかけに岱胡が黙ってうなずいた。

「もしもさっきのような敵兵に追われていたら……また、気を失ってしまっていたら……」

「それはきっと大丈夫ッスよ。だってアイツが行ってるんでしょ? 庸儀の諜報とやらが」

「だからまずいんだよ!」

 自分が一緒じゃないことに、苛立ちと焦りを感じて、つい言葉が荒くなる。

「だって一緒にいるの鴇汰さんスよ。あの人、あの諜報をひどく嫌ってましたから放っておくはずがないですよ」

 だからだ。
 だからこそ、怖い。

 あんな兵の中、麻乃になにかあって鴇汰に冷静な判断ができるのだろうか。
 鴇汰が判断を誤って下手なことになったりしたら触発されて平静じゃないままに、麻乃は目覚めてしまうかもしれない。

 といって、修治にはなにもできない。
 まさかここから、ロマジェリカへ向かうなんて真似もできない。
 仮に向かったところで間に合うはずもない。
 やり切れないことばかりに、ハンドルを握る手に力がこもった。

「まずは戻ろう。この先、どうするかは戻ってからだ」

 ルートを選んでいる場合じゃなかった。
 最短距離で上陸したポイントまで休みなく移動した。

 岩陰から様子を見ると、あの式神が言ったとおり見張りがついている。
 仕方なく、式神の言っていた場所まで移動した。

 岩場の窪みに本当に船があり、念のために中を調べ、なにもないことを確認してから停泊場所へ戻った。
 予定より大幅に早く戻ったことで、船員たちは驚いていたけれど、事情を話すとすぐに船を出し、岱胡の手当を始めてくれた。

(戻ったら早急に高田先生に相談をしなければ……みんなの様子がわからないことがこんなに怖いなんて思いもしなかった……)

 デッキから、遠ざかる大陸の景色を見つめ、ただ、麻乃の無事を願うしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝
ファンタジー
 乙女ゲームなのに、大河ドラマも真っ青の重厚シナリオが話題の『エトワール・クロニクル』(通称エトクロ)。友人から勧められてあっさりハマった『わたし』は、気の毒すぎるライバル令嬢が救われるエンディングを探して延々とやり込みを続けていた……が、なぜか気が付いたらキャラクター本人に憑依トリップしてしまう。  しかも時間軸は、ライバルが婚約破棄&追放&死亡というエンディングを迎えた後。馬車ごと崖から落ちたところを、たまたま通りがかった冒険者たちに助けられたらしい。家なし、資金なし、ついでに得意だったはずの魔法はほぼすべて使用不可能。そんな状況を見かねた若手冒険者チームのリーダー・ショウに勧められ、ひとまず名前をイブマリーと改めて近くの町まで行ってみることになる。  しかしそんな中、道すがらに出くわしたモンスターとの戦闘にて、唯一残っていた生得魔法【ギフト】が思いがけない万能っぷりを発揮。ついでに神話級のレア幻獣になつかれたり、解けないはずの呪いを解いてしまったりと珍道中を続ける中、追放されてきた実家の方から何やら陰謀の気配が漂ってきて――  「もうわたし、理不尽はコリゴリだから! 楽しい余生のジャマするんなら、覚悟してもらいましょうか!!」  長すぎる余生、というか異世界ライフを、自由に楽しく過ごせるか。元・負け犬令嬢第二の人生の幕が、いま切って落とされた! ※エブリスタ様、カクヨム様、小説になろう様で並行連載中です。皆様の応援のおかげで第一部を書き切り、第二部に突入いたしました!  引き続き楽しんでいただけるように努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます

三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」  地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが―― 「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」  地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。 「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」  オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。  地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。 「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」  カトーはその提案に乗る。 「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」 毎日更新してます。

魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。 偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。 シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。 現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。 ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。 公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。 魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。 厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

処理中です...