267 / 780
待ち受けるもの
第45話 ジャセンベル ~岱胡 3~
しおりを挟む
「修治さん、たった今、三千人ほどの部隊が二部隊、出ていきましたよ。多分、行き先はロマジェリカとヘイトッスね。ロマジェリカのほうにはレイファーがいました」
「レイファー……確か王族で軍の責任者とかいわれていたやつか? 間違いなくそいつだったのか?」
「ええ。俺、何度もあいつの部隊の防衛戦に出てるから、見間違えはしません」
修治はジッとうつむいたままで考え込んでいる。
「岱胡、支度して発とう。朝飯は昨夜の残りがあるから、それで間に合わせることにするぞ」
手分けしてすぐに片づけをはじめ、荷物を積み込み、修治の運転でまずはルートまで出た。
「追っているとを勘づかれちゃあ面倒だからな、おまえのスコープでなんとか確認できるってくらいは、離れておきたい。昨日の庸儀のやつらは撒いたようだが、楽観はできない。奉納場所はヘイト方面だから西へ……こう出て、それからこっちへ出る」
「わかりました」
地図を見ながら、改めてルートを決め直した。
「ところで気になったんスけど……庸儀のやつら、やっぱり俺たちのことを追ってきてるんですかね?」
「他国に……ってより、この状況で同盟国以外に侵入してくるくらいだ、そう思って間違いはないだろうな」
「一人が目立ってたって言ってましたけど、それにしたって良く庸儀だと確定できましたね」
修治は小さくため息をつくと、エンジンをかけて車を出した。
「あの国には、どうもいろいろと情報が流れているような気がする。麻乃の件もそうだが、今回のことにしたって、上陸してすぐに俺たちのほうへ向かってくるなんておかしいだろう? しかも敵国に入り込んでまでな」
「あ、それは俺も思いました。ロマジェリカでだって、行きに敵兵と遭遇したことなんて一度もなかったのに、今回にかぎってこんなに早く、しかも追われる形なんて変だな、って。ポイントが割れてるんですかね?」
岱胡は中腰になってフロントガラスに寄りかかり、敵の部隊との距離を確認してから、修治を見おろす。
「それもあるかもしれないな。それに……このあいだの襲撃の件があっただろう? 恐らく、あのせいでもあると思う」
「あのとき、俺は堤防から見てたんでわからなかったんスけど、なにかあったんですか?」
「ちょっとな。まぁ、最初からなにかあるだろうと思って構えてたから、驚きはしなかったが嫌な気分だ……おい、しっかりつかまってろよ?」
敵兵たちが通っている道から外れ、それに沿って続いている木立の中に入った。
舗装されていない道は、ゴツゴツとして車体を揺らす。
「途中までは同じルートだから目立たないように当分はこっちを走るぞ。時々出るから、そのときは相手との距離を確認してくれ」
「わかりました」
途中、距離が近づき過ぎたために、休息をとって食事の準備をした。
前を行くジャセンベルの部隊次第では、夜を越すことになるかもしれないと、夕飯の準備まで一緒にしていたけれど、奉納場所へのわかれ道に着いたころには、まだ夕暮れ前だった。
そこからは修治もスピードを上げて走り、夜になって奉納場所の森に着いた。
「いつものルートより、こっちだと一日早く着くんだな。今回みたいなことがなければ、向こうのルートが安全でいいが、一日の差はデカイか……」
「そんなに違うんじゃ、俺はやっぱりこっちのルートのほうがいいッス」
「おまえがいれば、周辺の確認をしてもらえるからいいだろうな。けど、巧と鴇汰じゃ難しいだろう? 特に鴇汰のやつなんざ、ここの軍には嫌われてるだろうからな」
「あぁ、あの人、毎回この国の軍を追い返してますからね、顔も割れてるだろうし」
「今夜はもう遅いから、奉納も植林も、明日だな」
テントを張り、休もうとしたとき、修治の表情が険しくなった。
「……人の気配がある」
明かりを消すと、そうつぶやいた。
「まさか、庸儀のやつらが先回りして……」
「いや、この気配は違う。巧の言ってたジャセンベルのやつだろうか?」
「でもそれは、巧さんが近づかないように連絡してくれたんじゃ……?」
「ちょっと周辺を見回ってこよう。念のため、おまえも一緒に来い」
修治がテントを出たのを、岱胡も急いで追った。
真っ暗な森の中には人の気配は感じない。
それでもなにがあるかわからないと思い、いつでも抜けるように腰もとに手を当てた。
「レイファー……確か王族で軍の責任者とかいわれていたやつか? 間違いなくそいつだったのか?」
「ええ。俺、何度もあいつの部隊の防衛戦に出てるから、見間違えはしません」
修治はジッとうつむいたままで考え込んでいる。
「岱胡、支度して発とう。朝飯は昨夜の残りがあるから、それで間に合わせることにするぞ」
手分けしてすぐに片づけをはじめ、荷物を積み込み、修治の運転でまずはルートまで出た。
「追っているとを勘づかれちゃあ面倒だからな、おまえのスコープでなんとか確認できるってくらいは、離れておきたい。昨日の庸儀のやつらは撒いたようだが、楽観はできない。奉納場所はヘイト方面だから西へ……こう出て、それからこっちへ出る」
「わかりました」
地図を見ながら、改めてルートを決め直した。
「ところで気になったんスけど……庸儀のやつら、やっぱり俺たちのことを追ってきてるんですかね?」
「他国に……ってより、この状況で同盟国以外に侵入してくるくらいだ、そう思って間違いはないだろうな」
「一人が目立ってたって言ってましたけど、それにしたって良く庸儀だと確定できましたね」
修治は小さくため息をつくと、エンジンをかけて車を出した。
「あの国には、どうもいろいろと情報が流れているような気がする。麻乃の件もそうだが、今回のことにしたって、上陸してすぐに俺たちのほうへ向かってくるなんておかしいだろう? しかも敵国に入り込んでまでな」
「あ、それは俺も思いました。ロマジェリカでだって、行きに敵兵と遭遇したことなんて一度もなかったのに、今回にかぎってこんなに早く、しかも追われる形なんて変だな、って。ポイントが割れてるんですかね?」
岱胡は中腰になってフロントガラスに寄りかかり、敵の部隊との距離を確認してから、修治を見おろす。
「それもあるかもしれないな。それに……このあいだの襲撃の件があっただろう? 恐らく、あのせいでもあると思う」
「あのとき、俺は堤防から見てたんでわからなかったんスけど、なにかあったんですか?」
「ちょっとな。まぁ、最初からなにかあるだろうと思って構えてたから、驚きはしなかったが嫌な気分だ……おい、しっかりつかまってろよ?」
敵兵たちが通っている道から外れ、それに沿って続いている木立の中に入った。
舗装されていない道は、ゴツゴツとして車体を揺らす。
「途中までは同じルートだから目立たないように当分はこっちを走るぞ。時々出るから、そのときは相手との距離を確認してくれ」
「わかりました」
途中、距離が近づき過ぎたために、休息をとって食事の準備をした。
前を行くジャセンベルの部隊次第では、夜を越すことになるかもしれないと、夕飯の準備まで一緒にしていたけれど、奉納場所へのわかれ道に着いたころには、まだ夕暮れ前だった。
そこからは修治もスピードを上げて走り、夜になって奉納場所の森に着いた。
「いつものルートより、こっちだと一日早く着くんだな。今回みたいなことがなければ、向こうのルートが安全でいいが、一日の差はデカイか……」
「そんなに違うんじゃ、俺はやっぱりこっちのルートのほうがいいッス」
「おまえがいれば、周辺の確認をしてもらえるからいいだろうな。けど、巧と鴇汰じゃ難しいだろう? 特に鴇汰のやつなんざ、ここの軍には嫌われてるだろうからな」
「あぁ、あの人、毎回この国の軍を追い返してますからね、顔も割れてるだろうし」
「今夜はもう遅いから、奉納も植林も、明日だな」
テントを張り、休もうとしたとき、修治の表情が険しくなった。
「……人の気配がある」
明かりを消すと、そうつぶやいた。
「まさか、庸儀のやつらが先回りして……」
「いや、この気配は違う。巧の言ってたジャセンベルのやつだろうか?」
「でもそれは、巧さんが近づかないように連絡してくれたんじゃ……?」
「ちょっと周辺を見回ってこよう。念のため、おまえも一緒に来い」
修治がテントを出たのを、岱胡も急いで追った。
真っ暗な森の中には人の気配は感じない。
それでもなにがあるかわからないと思い、いつでも抜けるように腰もとに手を当てた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる