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待ち受けるもの
第5話 若き軍師 ~マドル 5~
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三日間、城を離れてジェをやり過ごしてから、なにごともなかったのようにマドルは自室へ戻ってきた。
諜報が戻り、集めてきたジェの報告を聞いた。
「ジェ・ギテはもともと、シャーマンの一族が一人でした。その外見から、前王に気に入られ、城にあげられたようです」
「以前より野心の強いお人だったようで数いる寵姫たちを退け、王妃をも遠ざけるほどに前王に取り入っています。それが五年ほど前のことです」
「そして四年前にジェは、同族を皆殺しにして村を一つ消失させています」
マドルは眉をひそめた。
「皆殺し、ですか?」
「はい、その場を見ていたものはいないのですが、一週間ほどジェが姿を消したことがあり、前王が探させたところ……」
「一族の村で見つかり、惨殺された死体の中に、剣を片手に一人、立ち尽くしていたそうです」
諜報たちは、報告書を片手に淡々と読みあげていく。
「その際、それまで黒かった髪は赤く変色しており、探しに来た側近に「自分は鬼神である」とはっきり言ったそうです」
「それだけの事態を引き起こしたため、一度は罪に問われその命も危ぶまれたのですが、珍しい赤い髪がその姿に妖艶さを増し、前王がより執心され、咎めもなく済んだと」
「なるほど、確かにあの髪の色は目を惹きますからね……当時は今より若いぶん、寵愛を受けるのもわかる気がします」
「一族を全滅させる腕前と、鬼神であると名乗ることで自らを売り込み、腕の立つ兵を集めて部隊を成し、今の地位を得たようです」
そこまで読みあげられた報告書を受け取ると、もう一度ざっと目を通した。
諜報のものたちは、チラリとマドルに視線を向けたあと、なおも淡々と続ける。
「前王の側近の一部からは、ジェの存在は認められていたようですが、気性も荒く贅沢を好むことが古くからの側近には受け入れられず、内部では分裂が起こったようです」
「多くの兵は前王に忠誠心が厚く、ジェの存在が前王に仇なすことを心配し、幾度も進言していたようで……」
「あまりにもその声が多かったため、前王も、今年になってようやくジェを遠ざけることを決意したようなのですが――」
「それを察したのか、ジェは城内に少しずつ増やしていた自分の息のかかった兵を集め、前王と同じようにジェに執心していた兵長を筆頭にしてクーデターを起こしたようです」
こめかみを軽く指先でたたき、マドルは大きくため息をついた。
「その兵長が、今の王……ということですか?」
「はい」
ジェが、今の国王が自分の言いなりだと言った意味がわかった。
(ジジイの相手はもう飽きたんだよ)
(売るんじゃあないよ。有効に使うだけだ)
ジェの言葉が甦ってくる。
要するにジェ自身を有効に使ったということか。
初めてロマジェリカに現れた夜に、マドルに対してしたように。
ますますマドルの鬼神に対するイメージとかけ離れていくようだ――。
けれど、一族を滅ぼすほどの腕前は持ち合わせている。
それはやはり鬼神である証だろうか。
「一族が全滅しているため、前王に見染められる以前のことや、詳しい素性などの情報を収集するのは難しいかと思われます」
「そうでしょうね、仕方ありません」
「得られるかぎり、お調べいたしますか?」
「いえ、ここまでで十分でしょう。あとは、折をみて私が……」
そう言って残りの報告書を受け取ると、一つに束ねて机に置いた。
報告にあるほどの腕前がありながら、今、戦おうとしないのは、その命を惜しんでいるからなのだろうか?
それに、なぜそこまでする必要があったのだろう?
贅沢な暮しがほしいと言った。
たったそれだけの理由で、こんな事態を引き起こすだろうか。
それとも鬼神の気性とは、大した意味もなしに人の命を絶ちきるものなのだろうか?
だとすると、その力を手にするのは、少々の危険が伴うのではないだろうか。
思う以上に慎重にことを運ばないと、マドル自身の寝首を掻かれることにもなりかねない。
胸の中に膨らんだいくつかの疑問を自分で確かめようと思った。
諜報が戻り、集めてきたジェの報告を聞いた。
「ジェ・ギテはもともと、シャーマンの一族が一人でした。その外見から、前王に気に入られ、城にあげられたようです」
「以前より野心の強いお人だったようで数いる寵姫たちを退け、王妃をも遠ざけるほどに前王に取り入っています。それが五年ほど前のことです」
「そして四年前にジェは、同族を皆殺しにして村を一つ消失させています」
マドルは眉をひそめた。
「皆殺し、ですか?」
「はい、その場を見ていたものはいないのですが、一週間ほどジェが姿を消したことがあり、前王が探させたところ……」
「一族の村で見つかり、惨殺された死体の中に、剣を片手に一人、立ち尽くしていたそうです」
諜報たちは、報告書を片手に淡々と読みあげていく。
「その際、それまで黒かった髪は赤く変色しており、探しに来た側近に「自分は鬼神である」とはっきり言ったそうです」
「それだけの事態を引き起こしたため、一度は罪に問われその命も危ぶまれたのですが、珍しい赤い髪がその姿に妖艶さを増し、前王がより執心され、咎めもなく済んだと」
「なるほど、確かにあの髪の色は目を惹きますからね……当時は今より若いぶん、寵愛を受けるのもわかる気がします」
「一族を全滅させる腕前と、鬼神であると名乗ることで自らを売り込み、腕の立つ兵を集めて部隊を成し、今の地位を得たようです」
そこまで読みあげられた報告書を受け取ると、もう一度ざっと目を通した。
諜報のものたちは、チラリとマドルに視線を向けたあと、なおも淡々と続ける。
「前王の側近の一部からは、ジェの存在は認められていたようですが、気性も荒く贅沢を好むことが古くからの側近には受け入れられず、内部では分裂が起こったようです」
「多くの兵は前王に忠誠心が厚く、ジェの存在が前王に仇なすことを心配し、幾度も進言していたようで……」
「あまりにもその声が多かったため、前王も、今年になってようやくジェを遠ざけることを決意したようなのですが――」
「それを察したのか、ジェは城内に少しずつ増やしていた自分の息のかかった兵を集め、前王と同じようにジェに執心していた兵長を筆頭にしてクーデターを起こしたようです」
こめかみを軽く指先でたたき、マドルは大きくため息をついた。
「その兵長が、今の王……ということですか?」
「はい」
ジェが、今の国王が自分の言いなりだと言った意味がわかった。
(ジジイの相手はもう飽きたんだよ)
(売るんじゃあないよ。有効に使うだけだ)
ジェの言葉が甦ってくる。
要するにジェ自身を有効に使ったということか。
初めてロマジェリカに現れた夜に、マドルに対してしたように。
ますますマドルの鬼神に対するイメージとかけ離れていくようだ――。
けれど、一族を滅ぼすほどの腕前は持ち合わせている。
それはやはり鬼神である証だろうか。
「一族が全滅しているため、前王に見染められる以前のことや、詳しい素性などの情報を収集するのは難しいかと思われます」
「そうでしょうね、仕方ありません」
「得られるかぎり、お調べいたしますか?」
「いえ、ここまでで十分でしょう。あとは、折をみて私が……」
そう言って残りの報告書を受け取ると、一つに束ねて机に置いた。
報告にあるほどの腕前がありながら、今、戦おうとしないのは、その命を惜しんでいるからなのだろうか?
それに、なぜそこまでする必要があったのだろう?
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たったそれだけの理由で、こんな事態を引き起こすだろうか。
それとも鬼神の気性とは、大した意味もなしに人の命を絶ちきるものなのだろうか?
だとすると、その力を手にするのは、少々の危険が伴うのではないだろうか。
思う以上に慎重にことを運ばないと、マドル自身の寝首を掻かれることにもなりかねない。
胸の中に膨らんだいくつかの疑問を自分で確かめようと思った。
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